第15話 ざわつく心

 夕飯後のセイシュ家では圭人は端末の吸血鬼情報を隅々まで確認していた。


(ここまで出かかってるんだけどなぁ)


 食事中も気になって仕方がなく圭人は端末とにらめっこをしていた。

 イナミは追加宿題を片付けている最中だし、タマノはそもそも勉強する気が無いので子供の面倒を見ている。

 ようするに今日は圭人がじっくり考えられる日だったのだ。


「どうしたの? 」


 銀髪眼鏡のお兄さんであるトカキが顔を出す。

 トカキは子供達の二人をお風呂に入れていたのだ。

 二人の子供がお風呂上がりのアイスを食べてまったりしている。


「はうー」

「しふくのひとときですなー」


 なにやらほんわかしている子供たちに和みつつ、トカキは眼鏡をくいっと上げて横から吸血鬼事件のデータを見る。


「ああ、昨日の吸血鬼の話しだね。どうしてそんなに気にするの? 」

「う~ん。今日もアルヴィス先輩に絡まれたんだけど、どうもこのままでは終わりそうにないからさ、吸血鬼事件を解決しないといけないんだよ」

「……なるほどね。でも、そうはいっても難しいと思うよ。今までに何人もの人が関わっていて未解決で終わるんだからよっぽどうまく隠れてるみたいだし」

「それで、少し気になったんだけどさ」


 そう言って端末にもう一つの資料を引き出す。

 『殺人鬼大全』というサイトだ。内容が内容なので眉を顰めるトカキ。


「どうしたのそれ? 」

「地球に居た頃に殺人鬼の話しに興味を持った事があって色々調べていた時期があったんだ。その中に吸血鬼と言われてる奴が居てね。似たような犯罪者がいないか探してたんだよ」

「う~ん……あまりほめられた行為じゃないねぇ」


 当たり前だが、こういった事は万国共通で嫌われる。


「一時期推理物が好きだったからこうゆうの調べてたんだけど、こういった犯罪者の場合、内容がエスカレートする事が多いんだよね」

「え~~~」


 嫌そうな顔をするトカキ。

 こういった話しは苦手なのだ。


「よくある事なんだけど、犯罪がうまく行くと味を占めるというのかどんどんやり方が雑になるんだ。そこで捕まる事も多いんだけど……この吸血鬼はエスカレートしないんだ」

「……そうなの? 」


 ちょっとだけ不思議そうに首を傾げるタタラ。


「そうなんだ。だから、ちょっと変なんだよね。しかも毎回、同じような失敗を繰り返している。例えば必ず血を吸ってる最中に邪魔されるとか、実際にこのおかげで今の所死亡者が出ていないわけだし、ちょっと変なんだ」

「どういうこと? 」

「必ずといっていいほどカラリアの花見の真っ最中に出ている。人が多くて犯行が中断しやすい時期を選んでいる……それでいて証拠を掴ませない」

「う~ん……」


 トカキが考え込むように唸る。

 しばしの間、吸血鬼事件のファイルを見ていると圭人が口を開く。


「人間のようで人間でない。化け物のようで化け物で無い。とでも言うのかな? 人間にしては現実味がなさすぎるし、怪物にしては現実味がありすぎるんだよね……」

「そうだねぇ……」


 一緒に首を傾げる圭人とトカキ。


「昨日からさ、なんか引っかかるんだよね。何かが繋がりそうな気がするんだよ」

「本当かい? 」

「けど何かピースが足りない感じがするんだ。重要な事が抜けてるから全体像が浮かんでこないような感じ」

「お、なんかわかりそう? これ、結構懸賞金高いからクートぐらい買えるかもしれないよ」


 そういってちょっと期待したまなざしで見るトカキ。

 クートとは空を走る単車みたいなもので学生に人気のある乗り物である。

 もっとも高いので学生は買えないことが多い。


「でもわからないんだよなぁ……」

「そんなもんだよ」


 苦笑するトカキ。

 それに対して圭人は唸りながら切り出す。


「けど、最初の事件がちょっと気になるんだよね。このジェムズガン・ハリーの事件が」


 そう言って端末を指さす。


「どうして? 」

「これだけ美形じゃないんだ。ジェムズガンに似てるってなってる」

「……ほんとだ」


 データを見てみるとこの事件のみジェムズガンによく似た男になっている。


「この人自身も結構顔がいいから美形ってことになるけど、これ以外で似ている事例はティカだけだ」

「へぇー」

「だから、ちょっと調べてみようと思うんだ。幸い、この人の息子さんが今、どこにいるか知ってるし、明日はお休みだし、行ってみようと思う」

「そうなんだ。じゃ、頑張ってみてね」


 そう言ってトカキは子供たちの面倒を見る方にいく。

 するとバカボンのパパスタイルの羅護が入れ換わりで来る。


「圭人。大丈夫か? 」

「何が? 」

「いろいろだ」

「多分。勉強は問題無いし、とりあえず吸血鬼事件だけかな? 」


 それを聞いてふぅっとため息をつく羅護。


「そっちじゃない。あの事件以来、お前がどうも変わってしまってる。その前から変わっていたのかと思ってたがどうも違うみたいだしな。トラウマっつーのか? そういうのが残ってる気がする」


 父親の言葉に眉ひとつ変えずに端末を見つめる圭人。

 そしておもむろに口を開く。


「わかんない」

「……そうか」


 そう言って隣に座る父親。


「……あの時に……」

「うん? 」

「あの時もっと何か出来なかったのかと思う事はある。けど……」


 そう言って圭人は言葉を閉じる。

 そう言って頭をくしゃくしゃにする。


「あああああああああもう! あの時の事は考えたくないんだよ! どう考えていいかわからなくなる! だからほっといてくれよ! 」


 そう怒鳴る圭人に悲しそうに目を細める父親。


「……そうか。すまなかった」


 そう言って立ち去る父親。

 その背中に慌てて声をかける圭人。


「……ごめん。親父」

「……かまわねぇよ」


 そう言って父親は自室へと戻ろうとして止まる。


「あーそれからな」

「うん? 」

「女の子助けたんだってな。よくやった」

「……ありがと」


 そう言って今度こそ自室に戻る父親。

 それを見て頭をくしゃくしゃに掻く圭人。


「ケート~。風呂に入んな~。後がつかえてるんだよ~」


 シュクラからお風呂の催促が出た。

 それを聞いて端末を閉じる圭人。


「すぐ行きまーす」


 そう言って圭人は風呂に入ることにした。



登場人物紹介


 ちびっこ4兄妹

 ウルキ小等部の四年とハツイは三年の男の子。

 トミテとウミヤは双子で一年生。

 母親のとある事情で生まれてきたのだが、そのへんを語る時間は無かった。

 暇になったら書こうと思います。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る