2021年5月
夜のミッキーマウス
感想文
夜のミッキーマウス/谷川俊太郎
還暦過ぎてからの作品。なんだかエロい表現が多い。十八歳と比べて、流石に年齢を重ねたからか有機的なことばが並ぶ。
あと、固有名詞が多い。近代詩っぽい表現。歳をとっても新しい表現を目指そうとしているのが見えた。
殺人犯はそこにいる/清水潔
ノンフィクション作品。事実は小説より奇なりというほどに、小説のようにスラスラ読めてしまう。
日本を動かすことを目的として地域事件を追っていた作者が、連続事件であることに気づき、足利事件が冤罪であるという真実まで辿り着いたことはたいへんすばらしいとおもった。警察による冤罪事件の発生が事細かに書かれている。
ただ残念なのは、作者はDNA鑑定の過信により冤罪事件を再発させないことを願っている反面、警察がDNA鑑定で犯人と一致しなかったルパン男を、独自のDNA鑑定(+目撃証言)を信じて犯人だと主張しているところ。作中では、目撃証言も警察が何度も情報を提示することで、証言者の記憶がすり替わっていくことも主張していたはずだが。それ、いまあなたがまさに警察がやったように冤罪事件を発生させようとしているかもしれないですよ、と。
あと、ラストの方の検察証拠のDNA電気泳動結果が捏造っていうのは少しいいすぎかな。いま話題になっているPCRがDNA鑑定にも採用されているわけだが、反応サイクルを増やすと目的でない変なバンドが少量見られることがあり、本書記載の写真を見る限りそれに相当するので、(たしかに不誠実ではあるけれど、科学的には意味のない可能性が高い)その変なバンドを検察側が証拠写真から省いたことを捏造とするには短絡的すぎるかなとおもいました。警察不審だからといって、悪い印象づけする主張は良くないかもね。あくまで公平公正な目で見るのがジャーナリズムだとおもうので。
読む価値は十分にあります。ジャーナリズムって、政府や警察検察、また人の思惑にも左右されず、ただ真実を突き止めることだなって。
ブロードキャスト/湊かなえ
完璧。イヤミスの女王が描く、最高に青春な放送部の物語。続き読みたいなと思っていたら、続編もあるらしいので、積読書がへったら単行本買うか、文庫本でたら買おうかなと。
小説、テレビドラマ、ラジオドラマ、それぞれの脚本の違いについて、作中で解説されていてこれまた勉強になった。そう考えると、わたしがつくる文章って、また違う分類なのかなとおもいました。
本書では、メインとしてラジオドラマの脚本について書かれていますが、次回作は「ドキュメント」ってタイトルなのでノンフィクション作品のつくりかたに焦点が当たっているのかなと想像されます。
東京物語/奥田英朗
80年代に、10代の終わりから30歳までの半生を生きた青年の物語。
若いってこう言うことよねって、改めて思った。わたし自身80年代を意識的に生きたわけではなかったが、景気が上向いている中、みながそれぞれ問題を抱えながらも生き生きと働く姿が描かれている。作者の職業や出身も反映されているようで、とてもリアリティのある小説だなと。
30歳になって、なお夢を持つことについて、ちょっと感慨深いおもいました。
地球星人/村田沙耶香
ただただ凄まじい。
エログロ耐性があるならば、かなり読む価値がある。
村田さん独特の、いつのまにかスイッチが入ってジェットコースターのように進む非日常体験が本作でもたのしめます。
これ、視点変えたら日常モノの体を成したサスペンスじゃんって。
分かっちゃいけないはずなのに、共感してしまう部分もちらほらあって、気をつけなければならないなと。
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