第11話 緑丘楓②




 受付を終了した僕たちは、個室へと入るため二階へ上がる。僕は流行に疎く、かえでが歌っている曲が何一つ分からない。どこで聞いたのかも分からない。聞けばまたニヤッと笑って「いおりって本当にうちらの世代?」と馬鹿にされた。どうやら歌っているのは最近のものではなく、昔流行ったものらしい。聞けば小学生、中学生くらいの頃だそうだ。


「久しぶりだね。こうやってカラオケに行くのも」


 楓が僕に話しかけてくる。


「以前はなずな駅前のカラオケ店だったな」

「そんなに前の話じゃないのになんだか懐かしいね」

「まあな」


 よく覚えている。僕と楓と二人で遊んでいるのに、楓はずっと竹田たけた拓哉なおやとアプリで会話していたのが、気掛かりだったこともよく覚えている。そして、拓哉の恋も、僕はよく知っている。しかも困ったことに僕と拓哉の好きな人間が一致していた。人は恋の話が大好きで、楓もその一人であった。拓哉の好きな人を詮索するのに、僕は格好の餌で帰りの電車の中で、僕に質問をしまくっていた。いつの間にか僕の好きな人の話になっていたが、話の筋は拓哉だったのは変わりない。

 当然、僕は答えられない。勝手に人のことを話すのは、いずれ自分に返ってくるし、自分の好きな人をましてや好きな人の前で言うのは無理である。僕は考えに考えて、ここでは無難なセリフを吐く。


「俺の好きな人は拓哉と一緒だよ」


 これが最適解かどうかも分からないが、攻められるとボロが出る。その場はこれで乗り切ったのでよかったと一安心する。



「そろそろ時間だから出ようか」


 僕はちらりと携帯の方に目をやり、時間を確認する。確かにもうすぐ時間だ。


「ああ、そうだな」


 そう言って僕らは席を立つ。


「そういえばまた雨降り出したらしい」

「まじかよ。止んだり降ったりだな」

「雨宿りも兼ねて近くのショッピングモールでも行こうか」

「ちょうどいい。本屋に行きたいしな」

「だったらおすすめの漫画教えるよ。いいね、行こう行こう」


 楓は無邪気に笑う。会計を済ませた後、外に出てみると雨は小降りになっていた。この調子であれば傘を差さずに済みそうだ。僕らは肩を並べて歩き出す。

 ショッピングモールまでは数十分かかるが、時間が経つのが異常なほど早い。数十分が体感五分に感じられた。入り口に置いてある傘を入れるビニール袋を一枚切り取り、それに傘を入れる。そのまま直行して本屋へと赴く。


「ここの本屋、初めて行くかも」

「ほんと? じゃあ案内するよ」


 そう言った楓は一足先に歩き出す。


「こっちこっち。こっちが漫画コーナーだよ」


 楓が指差したそこは背表紙がピンク色や赤色に染まっていて、いかにも少女漫画という雰囲気を醸し出していた。しかし、どこかただならぬ雰囲気を感じてしまったことを正直に告白しよう。


「楓。ここってもしかして……」

「ん? 少女漫画だよ?」

「いや、BLじゃん」


 楓の顔が緩む。


「僕はそっち側じゃ無いからな」

「一回貸すよ。そしたらハマるって。安心して! 大丈夫!」


 何が大丈夫なのだろうか。


「僕はラノベで十分だよ」


 そう言って僕はBL棚を見る。僕は腐っていないので、BL本を見る機会が無い。なかなかに興味深いが隣から声がする。


「初めてならこっちで……。あ、これも面白かったなぁ〜……。あ、これもおすすめだよ」

「いや僕は結構だよ」

「いいの? 後悔するよ」

「別に死にゃせんだろ」

「死ぬかもよ?」

「冗談はよせ」

「けち」

「どうとでも言え」


 僕は右側向き、そのまま歩く。


「こっちは普通に少年漫画なんだな」

「私はこれが好きだよ。このヒーロー系」

「最近有名なやつだよな。面白い?」

「面白いよ。貸そうか? 私家にたくさん漫画あるから貸せるよ」

「遠慮しとくよ。本は自分で買う主義なんだ。どうしても、と言うなら有り難く」


 そのまま真っ直ぐ進む。すると絵本コーナーへとたどり着く。


「懐かしい〜。読んでたな〜これ」

「確かに」

「誕生日占いってのがあるよ。小学校の頃やったよね」

「僕は友達なんていなかったから、やった覚えはないけれど」


 楓は不思議な笑みを浮かべている。これは嘲笑に近い。


「かわいそ」

「馬鹿にすんなよ」

「ねぇ誕生日は?」

「十一月二六日」

「血液型は?」

「B」

「え、私と一緒」


 確かにBっぽい。偏見だけれど。


「なんかあんまりいいことは書いてないな」


 僕は本を覗き込む。


「楓も占ったら?」

「庵って私の誕生日知ってるの?」

「確か二月一日だったろ」

「覚えてるんだ……意外」

「僕の記憶力を嘗めないでいただきたい」

「別に嘗めてはいないけどね」


 それからしばらくして僕は一冊、本を買い外へ出る。小雨だったのがいつの間にか大振りとなっていた。


「迎えを頼んだからここで待ってるよ。楓は?」

「私もここで。あまり家に帰りたく無いし」


「そうか」

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