第二章『雨の日の思い出』

第9話 僕と彼女の出会い。





 高校入学当初の僕と言えば、前髪がスカスカのメガネをかけた所謂陰キャと呼ばれる部類であった。ダボダボの制服に、人見知りを曝け出したパッとしない人間だった。

 僕の母校であるあざみ中学は人数が多くマンモス校と呼ばれ、県内では有名であったため、高校は偏差値の高いところへ行くのが鉄板で、私立に行く人は少なく、ましてや金盞きんせん高校など、昔の汚名を被った偏差値四二しかない高校だ。当然反対はされるも、公立に行く理由も見当たらなかった。この時点で僕は普通の人間ではないのだろう。

 強いて言うなら僕はこの底辺学校で学年首位であった。それは実に無駄なものである。この高校の首位など実に下らないものだった。学力では計り知れない才能を持った人たちが、きっとたくさんいると僕は勝手に思っていた。


 実際多彩な才能を持った人たちがたくさんいた。その中で一際目立っていたのは、おそらく緑丘みどりがおかかえでであったに違いない。彼女の性格を一言で表すなら、僕と真逆である。人当たりはよく、よく笑い、曲がったことは許さない正義感溢れる女の子だ。話すと面白く、すぐに打ち解けた僕が彼女に惚れるなど、時間の掛かる事ではなかった。

 しかし、物語の登場人物は僕と彼女だけでは無い。僕らの学年は約七十人で、その内女子は二十人弱であった。四月は出会いの季節で、僕が彼女に一目惚れしたように、当然同じように彼女に惚れた人間がいるはずである。それを風の噂で聞いた時は、少し焦りを感じてしまった。いや、少しどころか、可成り。


 忘れもしない六月。焦りに焦りを感じた僕は、荏隈の忠告を無視し、告白を実行した。ベタなセリフを、今まで彼女などいたこともない、モテたこともない、顔も平凡以下な僕が、こんなセリフを吐くなど思いもしなかった。それは初めての経験で、それは実に恥ずかしい出来事で、今まで経験したことのないこの出来事は、あたかも何かを達成したかのように、不思議な心持ちにさせた。それで満足してしまった僕は返事を待ってくれと言われた理由を深く考えずに、良い経験だったと言う気持ちだけで終わらせた。



 一週間後、彼女から伝えられたのは直接ではなく、メッセージアプリで、一言で終わった。僕の青春は入学してから二ヶ月で終わった。一週間前の達成感とは裏腹に、抉るような気持ちだったのは、それだけ好きだったと言うことなのだろうか。

 それ以来は友達として、あの時などなかったものとして話すようになった。アプリで連絡をとったり、授業中話したりするのは、僕にとって嬉しいことだったが、同時に胸が痛むのを我慢していた。







 そして二年に上がった五月、一通の通知が僕の携帯に届く。相手は楓。内容は、遊びに行こうということだった。双方の予定を合わせ、五月十三日に決めた途端、僕の中で様々な感情が宙を舞っている。

 僕の中にある、まだ拭えてない気持ちは、この連絡を受ける前に消えたつもりだったのに、どうしても現れてしまうこの気持ち。きっと現れて良いものではないだろうから、殺すしか僕は考えがない。そうするしか、方法がないのだ。



 荏隈と別れた電車の中、彼女へのチャットに、数十分熟考した返信文を送る。スリープモードにしてから携帯をしまう。

 窓の外を見てみると、遠くの空が少し厚いような気がした。明日の天気は、少し崩れそうだ。

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