第8話 始まりの終わり。




 僕は携帯を取り出し、時間を確認する。既に三時を回っていてそろそろ電車の時間である。二時間に一本の頻度で来る田舎の電車は、三時四十分の便を逃せば次は五時半の便となり、一向に帰る時間が遅くなる。


「そろそろ時間だ。駅に向かおうか」


 僕は荏隈えのくまに提案する。「ああ、そうだな」と荏隈も賛同し、立ち上がる。


「そう言えば、お前が休日に外に出るとか珍しいよな。今日俺が誘わなかったら今週末もどうせずっと引きこもっていたんだろ? 感謝してくれよ」

「人をニートみたいに言わないでくれ。確かに否定はできない。けど荏隈が誘っても誘わなくても、日曜日に出かける予定が入ってるから今週はニートではないけどね。残念でした」


 僕は荏隈を煽るように言う。何か言いたそうな荏隈を無視して、間髪入れずに僕は続ける。


「ところで、行きに美味しいロールケーキ屋があるって言ってたよな。案内してくれよ」

「お安い御用だ。まずは来た道を戻ろうか」


 太陽は既に僕らの頭上からずれていた。



 荏隈はこの土地で小中と過ごしてきて、いろいろな経験をしている。一方僕は、中学校の記憶も、ましてや小学校の記憶もほぼ無いに等しい。躑躅つつじの生活が今の荏隈を形成しているとするならば、僕を形成しているのはどの時期なのだろうか。




 僕は果たして僕なのだろうか。

 それを知るには、一体何を経験すればいいのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます