第4話 彼は言った内容すらも忘れて、彼女は相変らず他の男と笑っている。





 付き合うとは何う云った事なのだろうか。僕はいつも不思議になる。僕は一年の頃に一回、告白をしたことがあるが──まあその話は後でするにしろ、好き同士だからこそ付き合うと云う考え方であっているのだろうか。以前 荏隈えのくまに呟いたりもしたが、真当な僕が納得するような回答は得られず、迷宮入りした。それは荏隈自身も恋愛に関してまだ疏かったのかも知れないが、荏隈自身 許嫁いいなずけが居たりだとか、そう云った話を聞いたことがあるので、うとくは無いと勝手に思っている。

 だが今の荏隈に恋愛観を訊くのは何だか間違っているように思える。と云うのも先週の金曜日にファストフード店で話していた内容を彼は全く守っていなかった。

 週末で心変りがあったにしろ結局別れないのはほとんど執着に近い何かを、彼に感じた。今の彼に別れろだの騙されてるだのそんな声すらも届かない様にすら思える。


「あいつら、結局別れないのな」


 後ろから声がする。振り返るとそこにはみなみ朱莉あかりが居て、何か不機嫌そうな顔をしていたが、そう彼女に告げると南は「別にいつも通りだわ」と口を尖らせていた。


「南も相談されたのか?」


 南の方を見るが、彼女の目線は廊下で仲よさげに話す菖蒲あやめと荏隈に向いていた。


「そりゃ相談されるよ」

「荏隈から?」


 愚問だが敢えて聞いてみる。


「どっちも」

「大変だな、お前も」

「ほんと。勘弁して欲しいわ、まじで」


 南朱莉と言えばやはり人間関係に関してはピカイチであろう。誰もが経験した事があるとは思うが、変な自己紹介やら変な駄洒落ダジャレを言って注目を惹こうとする奴は何処にでも居るだろう。南は所謂そう云う奴だったのだ。どんな内容だったかは白け過ぎてよく覚えてはいないが、最初から人目を引いたのは間違いない。それ故かは判らないが、勿論南自身が話術に長けていたと云うのもあるが、沢山の人間と関わっていて様々な相談を受けていた様で、人間関係であれば南朱莉と云う代名詞まで付いていた。鴛野おしの上野丘うえのがおかも情報網は気持ち悪いほどに凄いが、それを凌駕するほどの情報網を南は持っていた。

 荏隈と南は同じ部活なので必ずや相談すると思ってはいたし、桃園ももぞのも南に相談はする事も僕は何となく予想していた。もう片方の方は内容すら判らないが、荏隈の方は大体僕と同じ内容だろう。文脈から察するに何方も趣旨は概ね同じに違いない。


「何であいつらは別れない?」

「私が知ってるはずが無いだろ!? 本人に聞いてよ」

「それもそうか……」

「一つだけ言えるのは、はじめからは別れを切り出さないと思うよ。何だってあいつはお財布だからな」

「お前も中々に冷酷だな」

神崎こうざき、お前が捻くれているだけだよ」

「失敬な。周りが追いついてないだけだ」


 南は溜息をく。そんなに呆れなくても良いのでは、と思うがこれ以上訂正するのも面倒だ。ほうって置くことにする。


「そう言えば今日鴛野は休みか?」

「何か用事があるって昨日言ってたよ」


 突然聞き慣れた声が聞こえる。


「びっくりした……、沙羅さらか」

「次の授業始まっちゃうけど良いの?」


 教室内にある時計を見る。時刻は十二時五十五分に差し掛かっていた。昼休みは終了する時間は十二時四十五分で、五限が始まるのは五十五分からである。金曜日の五六限は実習なので移動しなければならない。つまるところ、可成り時間が無くこのままのんびりしていればチャイムに間に合わなくなる可能性がある。


「やばっ……」


 慌ててロッカーを開け、授業に必要な道具を取る。急いで実習棟に向かうが、実習室に入る寸前で桃園菖蒲の姿が見えた。彼女の隣には荏隈ではなく、尚弥なおやが居たのを僕は見逃さなかった。

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