第一章『始まりの終わり』

第1話 彼の顔は険しく、彼女は顔を赤らめる。





 高校生活にも慣れ、一年が過ぎた。桜は最近の異常気候の所為か咲くのが遅く、また雨が降り続いた為既に散っていた。針葉樹林でもないのにその枝は随分と淋しく感じた。


 新たに一年生が約三週間前に入って来た。まだ初々しい彼等の姿を見ると一年前の自分がつい昨日のように、黒歴史の過去が呼び起こされる。中学名残のあの髪型を、僕は絶対にしたくはない。

 今日、僕の高校では県内にあるテーマパークへ行くことになっていた。親睦遠足と称されたそれは一つの重要イベントと言っても過言ではない。と云うのも、彼氏やら彼女らが居る輩はこのイベントを共に周っている。流石の遊園地で一人では誰も周りたくはないので、誰と周るのか、彼は暇なのだろうかと云った確保行為が何かと重要になっている。

 かく言う僕は何かと仲良くしている鴛野おしの真緒まお上野丘うえのがおか沙羅さらみなみ朱莉あかりと周ることになっていた。隣の席に座っている荏隈えのくまはじめとも仲は良いが、彼は彼女と共に周るようで、口角が若干と云うか可成かなり上がっている。


「ねぇ、それ何聞いてるの?」


 後ろに座っている鴛野真緒が僕に話しかけてきた。黒色のボブに近い髪型が乗り出した勢いでなびく。

 車内ではスマホを使って良かったので僕はワイヤレスイヤホンで音楽を聞いてた。最近ハマっているバンドを鴛野に伝える。


「え〜、聞かせて聞かせて〜」


 隣りに居た上野丘沙羅も身体を乗り出し、僕が付けていたイヤホンを奪い取る。鴛野もその行動を真似し、僕の耳には何も無くなっていた。折角だから遊んでやろう。ワイヤレスイヤホンを使いこなした僕を嘗めるでは無い。そう思い僕は携帯を取り出し、ボリュームを操作する。最小にした後、一気に最大にする。イヤホンからジャカジャカと音が漏れ、二人はイヤホンと咄嗟に取る。


「ひどい!!」


 僕は甲高い笑い声を上げる。実に愉快で爽快である。それを繰り返していく内にイヤホン各位が僕の手元に戻ってきた。僕はそれを耳に着け腕を組み、眠りに入る。


「あ〜あ、寝ちゃった」


 後ろからそんな声が聞こえたが、気の所為だと思い心地よい揺れを感じながら眼を閉じた。





 バスが到着した瞬間に眼が覚める。荏隈に叩き起こされ、辺りを見ると森林浴が気持ち良さそうな場所に着いていた。

 快眠の邪魔をさせられた僕は厭々起きアスファルトの上に降り立つ。「はぁ……」と嘆息を吐く。僕はこのイベントがあまり好きではない。テーマパークとは云え、なずな市から可成り移動するしそもそも僕は遊園地が嫌いである。無論子供の頃は好きだったのだろうが、何故か年数を重ねる毎に嫌いになってゆく。

 原因は恐らく楽しみ方を知らないからだろう。人目を気にしすぎる僕は様々な理由に託けてはしゃぐという行為を段々と忘れていったのだ。だから僕はこの親睦遠足が嫌いだ。いくら平日とは云え何だか恥ずかしいのだ。

 入場前に園のスタッフから話をされ、例の三人組に振り回されるだろうと予想しフリーパスを仕方無しに購入し、鴛野・上野丘・南に付いて行く。


「最初あそこに乗らない?」

「良いね〜」

「行こ行こー」


 楽しみ方を知っている彼女らはこのイベントを思いっきり楽しんでおり、僕は部活の一環で彼女らの楽しそうな写真を堂々と撮る。僕としては荏隈を撮りたいのだが──巫山戯ふざけるの好きな奴なので可成り画になる──、一年前に出来た彼女と周るらしく彼とはすれ違いざまに撮ることしか出来なく残念である。


 水飛沫をあげるアトラクション付近で昼食を摂る。女子三人と男子一人は異様な光景だが、飯は食べなければ勿体ないので仕方無く共に摂る。早く食べ終わった僕はカメラで午前中に撮った写真を振り返りながら、他三人が食べ終わるのを待つ。彼女らは談笑しているようで僕はそれを聞き流しながらじっと待つ。


 午後から元々四人だったはずのグループはいつの間にか七人になっていた。デート(?)中だった荏隈と桃園ももぞの菖蒲あやめが合流し、更には戸次へつぎ尚弥なおやまで共に行動するようになっていた。僕はというと一人だった男子が三人に増えたことにより他の人達を見る余裕が出来て、より一層写真を撮ることに集中出来た。


「……あれ?」


 不思議な光景を眼にした。付き合っている荏隈と桃園菖蒲に自然と距離が空いていた。桃園を見ると尚弥の隣で行動しており、何やら良さげな雰囲気だった。


「これはまずいのでは……?」


 僕は荏隈の方を見る。顔は険しく、バスに乗っていた時のにこやかな笑顔は何時の間にか消えていた。尚弥はそんな荏隈を気にも止めず、ただ只管に桃園と仲良く行動していた。

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