第9話 頼れる!俺の幼馴染!

 結局マカナちゃんとは契約不履行(?)でお別れを告げた。

 ミイルからラインで文句のひとつでも来るかな、と思ったけど、俺のスマホはどうでもいい女の子からお誘いのラインが来るばかりで、ミイルのミの字も表示しない。

 懇切丁寧に、誘ってくる女の子たちを既読スルーしながら、ミイルのトークを開く。最後の会話は、通話だった。このとき、何を話したんだっけ。覚えてない。一ヶ月前だ。

 とん、と画面の吹き出し部分に親指を置いてキーボードを出す。フリックで、何度も何度も言葉を打ち込んでは消した。


「話がある」


 たったそれだけのことを伝えるのに、俺は三日くらい躊躇している。


「チカ」


 背後からヒカルの声がして、振り返ろうとした瞬間肩のあたりからにゅっと人差し指が伸びてきて。


「アッ」


 俺が入力して送るのを躊躇していた「話があるんだけど…」というメッセージを、ヒカルの指が送信したのだ。


「え? は? 何してくれちゃってんの?」

「お前がちんたらしてっから代わりに送信してやったんだよ」

「いいことしたみたいな空気出すのやめてくんない!?」


 鋭い目が怪訝そうに俺を見た。


「いいことしただろ。このままだと一生ミイルと話しねーだろ」

「そんなことないし!」


 そんなこと、ないし……。

 目が泳ぐ。


「そんなことある顔してんだよな」

「ぐぅ」


 しばし睨み合い、俺は諦めてスマホに目を戻した。そして、目を丸くする。

 トークが開いたままになっていて、ヒカルが勝手に送信したメッセージは既読になっていた。そして、ぽん、とミイルからのメッセージが返ってきた。


『なに~?』


 やばい。何も考えてなかった。やっぱり、俺のタイミングで送信するべきだったよヒカル……。


「とっとと返事してやれよ」

「いや、あの」

「今日家行くからとかなんとか言っときゃいいだろーが! ぐだぐだ言ってんな! だらしねえな! あーもーウゼェ! 貸せ!」

「あ」


 一瞬のうちにスマホが奪い取られ、ヒカルが何か操作して俺に突き返した。おそるおそる画面を見れば、ミイルに俺が「今日の夜空いてる? 家に行く」と言っていた。勝手に。

 もはや涙目になって睨みつける俺を、ヒカルはうっとうしそうな顔でひらひらと手を振ってため息をつく。


「いつまでも辛気臭い顔してねぇで、とっととどうにかなって踏ん切りつけろよ。これでも一応心配してんだぜ」

「嘘だな……」

「なんで嘘なんだよ」

「なんとなく」

「チカ」


 ぺち、と俺の頭をヒカルの手の甲がはたいた。


「全部終わったら、またジョナ〇ンでもどこでも付き合ってやっから」

「傷心の俺を叙〇苑に連れて行ってくれるとヒカルの男が上がるけど……」

「ジョ違いだな」


 カカカと笑って、ヒカルは、分かったよ、と言う。え、叙〇苑いいの?


「ちゃんとフラれてきたら、駅前の焼肉くらい奢ってやる」

「……うん」


 大学の駅前の焼肉は、どこの国の人かは分からないが、店員が東南アジア系の人ばかりで、店の中はなかなかに雑多でごちゃついているが、肉は美味い。そんで安い。カウンターの向こう側の神棚に、なぜかピ〇チュウのぬいぐるみが祀られている。ぬいぐるみは焼肉の煙やなんやかんやで若干黒ずんでいる。


「ヒカルが破産するまで食べるわ……」

「あの店でお前がどんだけ食ったところで破産なんざしねーわボケ」


 そう言って屈託なく笑ったヒカルは、口は悪いし素行も昔からあまりよくなかったし、女癖も俺ほどじゃないけどよくないし、なんでこんな粗野な男の妹があんなにかわいいんだって、いつも思う。

 でも根っこは一緒だ。人を愛し、人に愛される。ヒカルの横暴な口調の裏にはいつも、相手への愛情がある。だから厳しい単語で飾りたくられた刃のような言葉も、俺は素直に飲み込める。

 ミイルだってそうだ。ミイルはヒカルみたいに、厳しい言葉は使わないけど、口調から「あたしあなたのこと大事に思ってるよ」って伝わる。だからみんなミイルを好きになるのだ。ミイルが大事にしたいと思った人は、ミイルのもとを離れて行かない。


「あ、でも今日はふつうに母さんいるなあ」

「え」

「チカんとこは?」

「知らんけど夜勤じゃない?」

「メシ食ったあと家に連れ込んどけ。さすがに人がいるとこでする話じゃねーだろ」

「……男ひとりの家に連れ込んでする話でもない……」

「……ちげえねえ」


 ふたり、顔を突き合わせ、とりあえずおばさんはカウント外とすることにして、俺は今夜に備えて覚悟を決めることにした。


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