第5話 アロハ!プレゼントはきみだ!

 ミイルは、俺のことなんてどうだっていいのだ。

 俺にとってはミイルが何よりも優先すべき存在だけど、ミイルはそうじゃない。だってこうやって平気で、俺が傷ついてしまうようなことをする。いや、たぶんこれをすることによって俺が傷つくかもなんて、そもそも考えていないのだ。

 俺は今、ミイルの友達を紹介されている。


「あのねチカくん、これマカナちゃん」

「……あ、うん……」


 なんて言うかアロハな名前だな。マカナってどういう意味だっけ、マハロは違うな。


「この間、チカくん文化祭来てくれたじゃん、そんで、マカがかっこいい! って言うからね」

「あー、うん、ありがとう……」


 ミイルのミルクティー色の髪の毛とは対照的に、マカナちゃんの髪の毛は真っ黒のさらさらストレートロングだ。どうやって手入れしたらこんなことになるの、というくらいきれいな髪の毛だ。シャンプーのCMか?

 ていうか、数日前に「チカくんって今カノジョいるの?」って聞かれたの、間違いなくこれの伏線だったな。


「ほらマカ、なんか言いなよ~」


 ていうかミイルさ、気づいてないからまだ許されるけどさ、自分のこと好きな男を友達に紹介するって、どっちに対してもけっこうなクズ行為だからやめたほうがいいと思うんだ。

 俺もクズだから分かるよ、そういうの、あとあと自分に返ってくる。クズ代表の俺が言ってるんだから間違いないよ。

 マカナちゃんが顔をぽっと赤く染めて、俺と目を合わせてはにかんだ。うん、まあかわいいんだけど……。


「片瀬マカナです、よろしくお願いします」

「うん、よろしく」

「チカくんしょっちゅうカノジョ変わるし、ほんとはマカのこと紹介したくなかったけど……マカがどうしてもって言うから……」

「あ、そう?」


 あれれ、もしかしてミイル、俺がワンナイトしたりその相手と適当に付き合ったりしてるの、知ってんの? あれらは一ミリも真剣交際だと思われてないの?

 あっ、なんかすげえ悲しくてむなしくて苦しくてさみしくなってきた!


「チカくんもマカも大好きだから、仲良くしてくれるとうれしいなあ……」


 ありがとうマカナちゃん、ありがとうハワイ。おかげでミイルの大好きが聞けました。

 そのまま、俺はミイルに言われるがままマカナちゃんと連絡先を交換し、気づいたら家でマカナちゃんとラインのやり取りをしていた。


『今日はありがとうございました!』

「こちらこそありがとう!」

『ミイが、全央まさちかさんのこといつも楽しそうに話すから、わたしもすごく全央さんのこと知ってる気になってたんですけど、やっぱり本人は違いますね!』


 何がどう違うんだ、期待外れだったか? っていうかミイル、そんなに俺のこと喋ってんのか。

 というか、いい子なんだよなあ……。いい子だしかわいいし、だからこそ駄目なんだよなあ。ミイルのお友達だし、俺は絶対に手を出すわけにはいかないやつであり、つまりぐらつくわけにはいかないやつである。


『めっちゃかっこよくて、びっくりしました!』

「ありがとう~!」


 でも褒められるとふつうにうれしいし楽しくなっちゃう。元来が女の子大好きなもので、仕方ないのである。

 でれでれしながらラインを返しているうちに、あれよあれよという間になんか次会う約束が取り付けられていた。……マカナちゃん、意外とやり手だな?(自分の箍が緩いというわけではないと信じたい)

 やばい。あんなかわいい子とふたりで会って自制しない自信がない。だってミイルがいるのに次々ワンナイトしてはカノジョ(という名の何か)をつくってる俺だぞ?

 うん、あの、マカナちゃんには悪いけど、会って最初に言おう、俺はミイルのこと大好きだからきみとなんだかんだはできないんだ、と。

 そうと決まったら寝る。




「え? 知ってますけど?」


 目をぱちぱちとしばたかせて、マカナちゃんがきょとんとした顔をした。

 紺色と桃色の幾何学柄ワンピースを着たマカナちゃんは、制服姿よりも大人びて見える。ミイルほどでもないけどメイクもしているみたいだ。ぽわんと染まった頬がふつうにむしゃぶりつきたいレベルの透明感。

 って今なんつった?


「え?」

「ん?」

「知ってる、って?」

「全央さんがミイのこと好きだってこと」


 なんで?

 この、なんで? はおもにふたつの疑問にかかってくる。

 なんで知ってるの?

 知ってるならなんで俺を紹介させたの?

 謎だ。最近の女子高生理解できない、おかしいな、俺も三年前まで高校生だったのに。


「え……っと、そしたら、じゃあ」

「……ふふ」


 じゃあ話は早いよね? と言いかけると、マカナちゃんがにんまりと笑った。清楚な顔立ちに似合わない、含みの多い笑み。

 ミイルのお友達だから下手には扱えない。と言うより、俺の同年代の女の子たちと比べても未知すぎて、扱い方が分からない。どうしよう。

 秋も深まってまいりましたのに、なんだか嫌な汗が止まらないでいる。

 とりあえず、目の前のコーヒーカップに手を伸ばす。すると。


「っ」


 その手をそっと掴まれた。


「わたし、全央さんはたしかにかっこよくて素敵な人だと思うんですけど」

「ありがとう」

「恋愛的な興味はないんです」

「……あ、そうなの……」


 ほっと一安心だけどここまではっきり言われるとプライドがまあまあ傷ついた。


「それで、わたし、ミイのこと大好きなんですよ」


 ……これはもしかして人として好きとかじゃなく、性愛的な意味で、と言っているのだろうか? この子はトランスジェンダーだったり、同性愛者だったりするのか? もしかして俺の敵か?


「だから、もし全央さんがミイを大事にしてくれそうな人なら……」

「いやするでしょ今もミイルが一番大事だっつの」

「ああはい、それなら、わたしちょっと協力しようかなって思ったんですよね」

「……協力?」


 ずいっと、マカナちゃんが顔を寄せてきた。

 思わず顎を引くと、にっこりと、そりゃあもう清楚のかけらもなく胡散臭く笑って、俺の唇に人差し指の腹を当てた。やり手だな。


「たぶん今まで全央さんも、ミイに好きになってもらおう! っていろいろやってきたとは思うんですけど、全部失敗してるんじゃないですか?」


 図星なので人差し指を当てられた口を開かないでいると、その指がぐりぐりと唇の皮ふを押し潰してきた。


「うぐ」

「今度の作戦は、ミイに嫉妬させちゃおう作戦!」

「……んぐ」

「顔も知らない女の子ならどうってことないかもしれないけど、親友のわたしだったら何か思うところあるかも!」


 一理ある……のか?


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