第63話 不在と呵責と

 自分の預かり知らぬところで、小桜姉妹が暗躍(?)していたとは露知らず。

 結局、(一方的に)気まずい思いを抱きながらも貫奈を彼女の家まで送った春輝。

 その際に「ちょっと寄っていきます? 何なら、泊まっていってもいいですよ?」なんて言われて、だいぶドギマギしつつも……それを断って、どうにか自宅まで帰り着いた。


「……ただいま」


 貫奈の件についてどうするか、考え事をしながらだったのと。

 時間も時間なので、帰宅を告げる声は自然と小さめとなる。


「おかえり、春輝クン」

「おかえりなさい、ハル兄」


 それでもちゃんと届いたようで、露華と白亜が迎えに出てきてくれた。


「……あれ? 伊織ちゃんは?」


 しかしいつもなら大体三人揃って出てくる場面なのに、今のところ伊織が来るような気配はない。

 キッチンにいるわけでもなさそうだ。


「あー、お姉はねー……」

「先に寝てる」


 露華が苦笑を浮かべて言い淀み、白亜が淡々と告げた。


「えっ……? 大丈夫? 体調でも悪いのか?」


 珍しい……というか、一緒に暮らし始めてから初めての状況に、春輝は眉根を寄せる。


「だいじょぶだいじょぶ、そういうのじゃないから」

「少なくとも、明日の朝には元気な顔を見せるはず」

「そう……なの?」


 何が起こっているのかは全く伝わってこなかったが、彼女たちが言うことならばそうなのだろうと納得しておくことにする。

 年頃の女の子なのだし、春輝に言いづらいことの一つや二つくらいはあるだろう。


「つーか……二人も、なんかやけに疲れた顔してないか? 何かあったの?」


 そこも、気になるところであった。


「まっ、ちょっとね」

「気にしないで」

「そう……? まぁ何にせよ、今日は早めに休めな?」

「うん、そうする」


 春輝の言葉に、白亜がコクンと頷く。


「ただ、その前にさぁ……」


 その隣で、露華は春輝のことをジッと見つめていた。


「春輝クンの方こそ、何かがあったって顔をしてるような気がするけどぉ?」

「っ……!?」


 鋭い指摘に、思わず顔が強張ったのを自覚する。


「……ふぅん?」


 そんな春輝の顔を見てどう思ったのか、露華が小さくそんな声を上げた。


「とりあえず、あの後に何か進展があったってわけではなさそうか……」


 まるで貫奈との一件のことを知っているかのような呟きに、心臓がドキリと跳ねる。


(い、いや落ち着け、そんなわけないだろ……俺の方があの件について気にしすぎてるせいで、何でもかんでも関連があるように思えちゃうだけだ……たぶん……)


 心中に、自分に言い聞かせた。


「別に、何もないさ。ただ、今日は業務後にちょっとした飲み会があるって連絡したろ? それで、多少飲み過ぎたのはあるかもな」


 実際には、貫奈の『告白』で酔いも吹っ飛んだわけだが。


 そんなことを伝えても仕方ないので、そう誤魔化しておく。


「……そっか」

「ハル兄の言い分は、理解した」

「あぁ。シャワー浴びたら俺もすぐ寝るから、二人ももう寝なよ? おやすみ」


 どうにも納得してくれたようにも見えなかったが、春輝としても今日はもう早く休みたかったのでそれで話を打ち切ることにした。


「うん。おやすみ、春輝クン」

「おやすみなさい、ハル兄」


 二人の視線を背中に感じると……なんとなく後ろめたさのような感情が胸に湧き上がってくる気がするのは、なぜなのだろうか。

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