第33話 親愛と動揺と

 小桜姉妹と過ごす、穏やかな日々。

 賑やかで、時に少し騒がしくて。

 そんな生活を送る中で、彼女たちに対して親愛の情を抱いていることを春輝も自覚していた。


(……もう、家族って感じだよな)


 そのように思っている。


(娘……って程は流石に離れてないし、妹ってとこか?)


 そう、家族なのである。

 だから。


「ハル兄、お風呂空いたよ」

「うん、わかった……って、なんだその格好!?」


 白亜がスケスケのネグリジェ姿でリビングに現れても、動揺などしないのである。


「わたしは大人の女性だから、これくらい着る」

「完全にブラとパンツ透けて見えちゃってるけど!?」

「見せブラと見せパンということにしたから問題ない」

「見せブラとか見せパンってそういう概念じゃなくない!?」


 動揺などしていないのだ。

 いないのだ。


「ふっ……」


 とそこで、鼻で笑う音がリビングへと飛び込んできた。


「白亜、その考えの浅さがお子ちゃまだってのよ」


 ちょうど通りがかったらしい、パジャマ姿の露華である。


「真の大人は、チラリズムで攻めるわけ」


 ニンマリと笑って、露華は軽く前傾姿勢となった。


「こんな風に……ね?」


 そう言いながら艶っぽい笑みを浮かべて上着の襟元を大きく開くので、春輝の視線は思わずそこに吸い寄せられる。

 ……と。


「っ!? ちょぉっ!?」


 そこに見えた光景に、春輝は慌てて目を逸らした。


「ふふっ、ブラくらいで真っ赤になっちゃって。春輝クン、可愛いんだー」


 春輝の反応に、露華はニマニマと大変嬉しそうに笑っている。


「いや、その……」


 春輝は、『それ』をどう伝えようか一瞬迷って。


「肌色しか見えなかったんだが……それも、かなり際どいとこまで……」


 結局、ストレート気味な物言いとなる。


「はい? 肌色?」


 それに対して、露華は怪訝そうに眉根を寄せた。


「ウチ今日、肌色のブラなんてしてな……」


 けれど言葉の途中で、ハッとした表情となる。


「もしかして……!?」


 そして、やや慌てた様子で自分の胸を押さえた。

 更に、恐る恐るといった様子で『中』を確認して。


「……ははっ。そういやウチ、寝る時はブラしない派だったわ」


 赤くなった顔を逸らしながら、そう告げる。


「お、おぅ……」


 どうコメントしていいものやらわからず、春輝は半笑いで頷くに留めた。


 こんなことがあっても、春輝は動揺などしてないのである。

 決して。


「いやぁ、にしても春輝クンのラッキースケベ力の高さだよね!」


 未だ赤い顔ながら、誤魔化すように「はははっ」と露華は笑う。


「ウチらの恥ずかしいとこ、もうほとんど全部見られちゃってるじゃんね!」


 なんとなく、ヤケクソ気味な気配が感じられた。


「いやまぁ、着替え中にリビングを開けちゃった件については悪いと思ってるけどさ……」


 春輝は、半笑いを苦笑へと変化させる。


「それ以外は、ほとんどそっちから来たやつだろ……それも、露華ちゃん発のが大半だし」

「あれ……? 言われてみると……?」


 露華が首を捻りながら、腕を組んだ。


「ってことは、もしかしてウチって……」

「ようやく気付いてくれたか……そう、君は……」


 続きを述べようとする春輝より一瞬早く、再び露華が口を開く。


「春輝クンと、運命の赤い糸で結ばれてる?」


 まるで、世紀の大発見でもしたかのような表情であった。

 ただし、かなりわざとらしいものではある。


「そんなラッキースケベに紐付いた運命、嫌だ……」


 こちらは割と本気でげんなりとした表情で、春輝はそう返した。


「ていうか、普通におっちょこちょいなだけだろ」

「クッ、ウチも薄々思ってたことをハッキリと……」


 ぐむむと呻く露華だが、やはり冗談めかした調子である。

 が、しかし。


「ロカ姉、ドンマイ」

「……その格好のあんたに言われると、なんか腹立つな」


 ドヤ顔の白亜──無論引き続きスケスケのネグリジェ姿であり、ブラとパンツが完全に見えている状態である──にポンと肩を叩かれると、何とも言えない表情となった。


「まぁいいや……ほんじゃおやすみ、春輝クン」

「おやすみ、ハル兄」


 二人共その表情のまま、それぞれ挨拶して踵を返す。


「あぁ、おやすみ」


 リビングを出ていく二人の背中に、春輝も挨拶を送った。

 こんな光景も、すっかり慣れたもので。

 春輝の、『日常』となっていた。

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