第四話

「タクシーを呼んだよ」


 翌朝。二手に分かれ、エクスが現場に向かうためにアルはホテルの前にタクシーを呼んでおいた。エクスは目の前の見たことのあるタクシーと、車外に出てにやついている男を見て、げんなりとした表情を浮かべていた。


「そうよね」

「うん。僕がこっそりもらっておいた連絡先でね」

「で、なんであの男がいるの!?」


 そう言って、エクスはアルのネクタイを引っ張りながら、昨日のオーガのドライバーを指さす。


「兄ちゃんは悪くねぇよ。会社が俺を指名しただけだからな」


 にやついているオーガを見て、エクスは恨めしそうに二人を交互に見つめた。アルは崩れたネクタイを整えつつ、エクスの肩をたたく。エクスは何か裏があると思っているのか、疑いの目をアルに向けたままだ。


「本当だよ。ただタクシー会社に空いている人いませんかって訊いただけなんだから」

「訊き方が悪い。ちゃんと運転の丁寧なドライバーさんはいませんか? って聞くべきだったと思う」


 不平不満を漏らしながらも、しっかりと乗車するあたり、エクスも割り切っているのだろうと思っていた。しかし、エクスは窓を開けて、にやりと笑って言った。


「新しい服で許してあげる」

「え?」

「さあ、さっさと出してちょうだい」


 今さらりとおかしなことを言われなかったか、アルはすぐに問いただそうとしたが、その直前にエクスを乗せたタクシーは走り出してしまった。昨日と全く同じ、スピードも速く、曲がり方も雑な動きで。

 アルは少しだけ呆然としていたが、すぐに肩をすくめると、自分もまた歩き出して町へと向かうことにした。

 アルは蓋のないコーヒーを購入し、すこしばかり文句を言いつつ、町を散策していった。今日もまたデモ隊が行進をしている。アルはタクシーの中では、遠目でしか見られなかったデモ隊の様子うかがうために近づいてみることにした。

 昨日と変わらず、プラカードや政治家の写真にバツ印をつけて抗議を行っている様は同じだった。しかし、どこか違う、昨日では気づけなかった違和感を覚える。違和感の正体をつかむため、あえてアルはデモ隊の一人に声をかけてみる。


「すいません、アルデスク社の記者なのですが」


 アルデスク社など、今でっち上げた会社名だった。しかし、こういったデモ活動の場合は、他の国にも主張を伝えたくなるものだ。アルはその心理を利用してみようと思ったのだが、デモ隊は何も聞こえていないようにそのまま行進していく。


「タラスク様の遺跡を守れ! 不埒な政治家どもを追い出せ!」

「あのぉ……行ってしまった」


 もう一度声をかけてみるも、アルのことなどまるで見えていないかのようにデモ隊たちは去っていってしまった。しかし、アルには少しだけ理解したことがある。確証ではないが、確証にするための材料を集める必要があるだろうと思い、携帯電話を取り出してエクスにかける。

 エクスに確かめてもらいたいことを伝えると、アルは再び町の散策に出た。

しばらく歩き続け、喫茶店で休憩をしていると、目の前の小さなビルから大小、太った体のオーガと対照的に小さな体で眼帯をしているバジリスクらしき二人の男が出てくるのに気づいた。髪形や服装などは変えているが、あたりを警戒しては、溶け込もうとする癖がにじみ出ている。一般人にはわからぬほど抑えられているも、アルはじっと見つめて気づくことができた。昨日、タクシー乗り場で見かけた二人組だ。

 さて、追跡するかどうか。彼らの目的を知るためには追跡をするのが一番だが、あまり大っぴらに尾行しても、相手に警戒されるだけだ。アルは鼻のあたりを撫でつつ、しっぽをゆらりと動かして考え込んだ後、喫茶店から出た。一つ確かめたいことがあった。

 しばらく追尾し、バス停の近くまでやってきたのを確認して、アルは走り出した。そして、二人組にわざとぶつかる。


「ああ、ごめんなさい!」

「気をつけろ!」


 威圧的な言葉使いで、男たちはアルをにらみつけた。アルは小市民のふりをして何度も頭を下げると、バス停の時刻を確かめ、安堵のため息をつく仕草を見せる。男たちはいつの間にかいなくなっていた。


「……やはりリベルタ人の訛りが出ていたな」


 そう言いつつアルはそのままバスに乗り、次の停留所ですぐに降り、アルは二人を追うことにした。太っちょのオーガと小さい体躯の二人組はすぐに見つけることができた。アルも人混みに溶け込み、見つからないように追いかけることにした。

 途中、距離を離されてしまいそうになったので、急いで公園を突っ切っていった。公園には噴水などがおかれていて、涼しむ人もいた。逆に距離を縮めすぎたので、今度はわざと遠回りをしてみる。大聖堂がそこにあり、しばらくその外面を覗いていた。こうしてみると、自分は尾行が苦手だな、とアルは思う。

 そうして一定以上の距離は保ち、彼らが止まったところで一気に距離を詰めた。

 彼らが立ち寄っていたのは、アーデスト歴史会館と書かれた博物館だった。アルはそのまま何食わぬ顔で歴史会館へと入っていった。

 歴史会館には、山の都エルシュ・レイムの成り立ちから、都で作られていた織物などの展示、歴代の王の解説などが行われていた。アルは観光客に紛れ、その一つ一つを眺めつつ、奥へと入っていく。


「そういえば、新しい職員がいるって話だったっけ……」


 アルは昨晩の情報を思い出しながら、歩き続ける。すると、途中にある喫煙ルームで見覚えのあるヴァンパイアの男が煙草を吸っていた。アルは胸元から煙草を取り出すと、そこへと入り、男に声をかけた。


「こんにちは、偶然ですね」

「お。昨日の兄ちゃんじゃねぇか、そうか新入職員の顔を見たくて来たんだろ?」

「まあ、それが半分、歴史を知りたかったのが半分です」


 本音を交えつつも、誤魔化しを入れて、アルは煙草に火をつけた。男も血煙草をふかし、赤い煙をふかす。そこから何気ない話を交えつつ、アルは喫煙ルームの外を眺めていた。


「清掃されていたんです?」

「まあ仕事だからね」

「変な二人組見かけませんでしたか?」

「二人組?」


 首をかしげる男に、アルは先ほどの二人組の特徴などを告げる。ヴァンパイアの男は少し考えこんだ後、何かを思い出したようにはっと顔を上げた。


「そういえば、新入職員にいろいろと質問しているようだったなぁ。チビのバジリスクとデブのオーガの二人組だろ? 間違いないな。一人はとても親しげだったけど」

「その新入職員の名前ってわかります?」

「エッダさんだな」

「エッダさんですね。了解です。では、煙草もなくなったのでこのあたりで」


 アルはヴァンパイアの男と別れ、喫煙ルームを後にすると、歴史会館の順路をゆっくりと歩き続けた。すると遠目に黒髪のビーストマンの職員が客に説明をしているのを見かける。おそらく彼女がエッダなのだろう。

 一般人を装い、アルはゆっくりと彼女に近づく。そして近くで展示物の解説を読みつつ、エッダの様子を伺っていた。エッダが客に愛想よく別れの挨拶をすると、そのままこちらにやってくる。


「こんにちは。何かわからないことがありますか?」


 豊満な体が揺れる。相棒と違い、どこか妖艶な雰囲気を持っているな、とアルは思った。

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