第47話 <人魚族の女王>

 ロミオス王国から騎士がやって来て、違法な奴隷商人たちを連行していく。

 残されたアキトたちは、助けた少女と子どもたちに話を聞いていた。

 マリアとリーネもやって来て、子どもたちに治癒魔法をかけていく。


「また会ったね。助かってホントに良かったよ」


 少女に微笑むアキト。

 少女は、目に涙を浮かべてレティーアの胸に顔を埋める。よほど、怖かったのだろう。


「ありがとう……ございました。私、フレン=マーキスといいます」

「えっ!?マーキス家って……」


 ソフィアが何かに気づいて、尋ねようとすると、遠くから土煙と必死に走る人魚族の兵士の姿が見える。

 土煙は、アキトたちのすぐそばまで近づくと、急に晴れていった。

 中から、一人の男が現れる。


「フレン!無事でよかったぞ!もう無茶はしないでくれ!」

「やっぱり!フレンちゃんってギュネイルの娘さんなのね!」

「ソフィアさん?いまいち理解しづらいのだけど……」


 困惑するような表情のレティーアに向かって、ギュネイルと呼ばれた男が向き直る。

 そして、両手を重ねて膝を折る。これは、人魚族の最大限の敬意の表れだ。


「此度は娘を救っていただき、誠にありがとうございます!私、海底王国の兵士長のギュネイルと申します」


 ギュネイルは、そう名乗ると立ち上がる。

 助けた少女は、まさかの兵士長の娘だった。衝撃の事実に、フリーズするリーネ。

 ギュネイルは、女王からの用件を伝える。


「ソフィア様。女王陛下から言伝てを預かっております。勇者様とそのお仲間様方と共に私室に来るようにとのことです」


 現場の処理などは兵士の方に任せ、アキトたちは城へと向かうことにした。

 あまり女王を待たせるものではない。

 来た道を引き返し、通りを抜けて門へと向かう。

 城の中に入ると、そこは街よりも幻想的な造りになっていた。

 幾重にも連なる柱。中には、虹色の水泡が立ち上っている。

 エントランスには、人魚の像がいくつも置かれている。

 そしてその中央には、さまざまな種族の人たちの像がある。


「驚きました?これは、あのソルティア様と仲間たちの像ですよ。……全員が揃っている像は、これだけかもしれませんね」

「そう……なんですか」


 説明を聞いたレティーアは、像を見つめる。

 かつての勇者ソルティアは、彼女を含めて十一人で行動していたらしい。

 そしてソルティア以外の十人が、六大邪神、そして邪神王によって殺されてしまったという。

 よって現存するかつての争乱関係の石碑や像は、ソルティア一人だけのものが多いのだ。

 ふと視線を感じるアキト。

 階段の上から、鋭い目付きの女性がこちらを見ていた。


「なあソフィア。あのお方はまさか……」

「そうか。アキトは初めてだったわね。あれが、女王クレティヌス母様よ」


 慌ててその場で頭を下げるアキトたち。

 クレティヌスは、無言で手招きをする。ついてこいと言っているようだ。

 アキトたちは、ソフィア先導でついていく。


「ソフィア?僕って何か嫌われてる?」

「逆よ。好かれてるからこそ、母様は恥ずかしがってるの」


 やがて、派手な扉の部屋にたどり着いた。クレティヌスの私室だ。

 中に入ると、ソファーに座ったクレティヌスがお茶を淹れていた。


「ソフィア。アキトさんたちをご案内して」


 小さな声で一言。

 それに従い、アキトたちはソファーへと座らせてもらう。

 クレティヌスは、お茶をそれぞれの前に置くと、レティーアに向かって話し始める。


「よくお越しくださいました。そして、我が民を悪しき人間から守っていただき、お礼の言葉もありません。本当に、ありがとうございます」

「いえいえ!困っている人は見過ごせませんから!」


 クレティヌスは、控えていたメイドに何か指示をしている。

 やがてメイドは、何か布にくるまれた物を持ってくる。そして、クレティヌスは布をほどいた。

 中から出てきたのは、蒼く輝く杖。相当な業物だ。


「これをアキトさんに。勇者様の手助けとなること間違いなしでしょう。かの十英雄の一人、人魚族の祖であるルカ様の杖ですから」


 その言葉に、マリアが驚いた。

 ルカといえば、かつてソルティアとパーティーを組んでいたとされる人魚だ。

 その最期は壮絶で、仲間と共に大海の邪神を追い詰めたところ、背後から天空の邪神に首を撃ち抜かれたという。

 そんな伝説の存在が使っていた武器がここにあるのだ。当然驚くだろう。


「そしてもうひとつ、これを渡します」


 クレティヌスが机に置いたのは、こちらも蒼く輝く球状のナニか。

 それは、美しい光沢を放っていた。


「これは深海の宝珠。グランドライトを顕現させるのに必要でしょう」


 まさかの宝珠だった。

 どちらも、人魚族の秘宝といってもいい代物だ。それをこんな簡単に渡してもいいのだろうか?

 でもまあ、くれるものは貰っておこう。

 そしてアキトは、クレティヌスなら答えを知っているかと思い、質問してみる。


「クレティヌス女王。スクッイツどもの完全な倒し方をご存知ですか?」


 それは、大海の邪神戦で必ず障害になるであろうスクッイツのこと。

 なぜレティーアの攻撃にのみ再生が遅れたのか。

 そして、アキトたちに倒せるのか。どうしてもハッキリさせておきたい。

 クレティヌスの返答は……。


「勿論。知っていますよ」

「っ!本当ですか!?どうやって!?」

「簡単なこと。その深海の宝珠の力を宿した武器で攻撃すればよいのです」


 なるほど。だとしたら……アキトたちにもスクッイツは倒せる。

 ……しかし、レティーアは、そしてエデンはいつ深海の宝珠の力を取り入れたのだろう?

 そしてなぜ、力を取り入れたのに完全に倒せなかったのだろう?

 謎は残るが、これでようやく準備も整いつつある。

 アキトたちに、勝利の具体的なイメージが沸き始めていた。

 ……城内が、兵士たちによって騒がしくなったのも、また同時だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます