第46話 <成敗>

「やりましたね兄貴!いい収穫ですね!」

「こらこら。これは保護だ。分かるな?俺たちはいいことをしてるんだ」


 海底王国の裏路地を疾走する馬車の御者台。そこに、薄汚い格好の男が二人並んで話している。

 彼らは、とある奴隷商人の下請け業者のようなもの。今は、捕らえた人魚族の子どもたちを商人の元まで運んでいる最中だった。


「しっかし、あの娘はいい体つきですね。味見したいな」

「もう一度言うが、これは保護だ。責任とれるか?」

「いえ。ではやめときやしょうかね」


 悪い顔で話す二人。

 荷台には、泣きじゃくる子どもたちと、薄い布だけを身につけて鎖で両手両足を縛られている少女がいる。

 その少女は、男たちを激しい憎悪の目で睨み付けている。

 彼女は、男たちが子どもたちを連れ去ろうとしていたのを阻止しようとして、返り討ちにあってしまったのだ。

 少女の視線を感じた子分らしき男が、荷台に飛び移ってくる。


「ああ?なんだその目は!?こっちは貧しいてめぇらを保護してやってんだぞ!」


 少女にそう吐き捨てると、男は少女の腹を蹴りあげた。

 胃液を吐き出してうずくまる少女。男は暴行をやめない。


「もうすぐ優しいご主人様に会えるんだ!何が不満なんだよ!?」

「……おい。三度目だぞ?これは保護な。怒られるのは俺なんだから、あまり傷物にするな」


 男たちの会話を聞きながら、されるがままに蹴られ続ける少女。


【うぐっ…!やっぱり……人間なんて…!】


 先ほど出会った優しい勇者や、その仲間たちを思い浮かべるが、あんな人たちはほんの一握りなのだと絶望する。

 馬車が止まった。

 そこは、海底王国と地上を繋ぐ所の一つ。

 近くの建物から、派手な服装の男が出てくる。どうやら奴隷商人のようだ。


「ほぉ。これは中々の上物。何してくれてるんだ!ボーナスを出さねばならんではないか!」


 笑い合う奴隷商人と二人の男。

 商人の部下らしき人たちが、荷台に近づいてくる。

 子どもたちは、ますます怯えて固まってしまう。


「誰でもいい……。誰か……この子たちだけでも……助けて!」


 涙を流して懇願する少女。

 その祈りが天に届いたのか、少女の耳に男の悲鳴と何かしらの金属音、それに商人たちの困惑するような声が聞こえてきた。

 少女が目を開けると、そこにはあの勇者。

 レティーアは、ギリギリ男たちに追いついていた。


「なっ!?勇者だと!?なぜここに!」

「お前たち…!覚悟はいいわね!?」

「待ってほしい!我々はその子たちを保護したのだ!それの何が悪い!?」

「そうだろ!?そうだよな!?」


 男の脅しのような一声。

 少女は気分を害する。

 鎖と首輪で自由を奪って暴行することが保護?ふざけるのもいい加減にしてほしい。

 だが、レティーアはその言葉を聞いて、剣を収めてしまう。

 少女は、目にしていることが信じられなかった。やはり勇者でも、同じ人間の味方をしてしまうのだろうか?


「分かっていただけましたか!こちらとしてもその子たちの幸せを……」


 レティーアは、商人の言葉を無視して少女に近づく。

 思わず身構えてしまう少女。

 勇者も、奴らの同類なのか疑ってしまう。

 レティーアは、そんな少女に一言。


「……本当に、保護してほしいと言った?」


 それは、優しい口調。

 少女は、思わず涙を流す。子どもたちの手前、抑えていたものが一気に溢れだす。


「……一言も……言ってない!助けて!勇者様!」


 少女の言葉を筆頭に、他の子どもたちも叫び始める。


「助けて!お姉ちゃん!」

「貧しくてもいい!家に帰りたい!」

「パパとママにあいたいよー!」

「なっ!?貴様らーっ!」


 下請けの男が武器を取り出す。怯える子どもたち。

 レティーアが、ゆっくりと振り返る。鬼のような形相で、男たちを睨む。


「……だそうよ!覚悟なさい!」


 瞬間的に抜刀。居合い切りで男の武器を破壊。即座に返した刀身で、男の腹部を裂く。

 兄貴の血を見た子分は、驚きつつもようやく戦闘のために武器を構える。

 だが、時すでに遅し。

 自分の間合いまで距離を詰めていたレティーアの攻撃。

 勇者の攻撃を見切れるはずもなく、その男は持っていた武器ごと切り飛ばされた。

 激しく壁にぶつかる男。

 商人は、その様子を見て慌てふためく。


「なぜだ!勇者は我々を守るのではないのか!?」


 レティーアの怒りが増す。

 勇者は、すべての命あるものを守る存在。命を売り物にするような輩を守るものではない。

 レティーアが、攻撃の構えを取る。

 言葉では無駄だと判断した商人は、建物に向かって何かの合図を出す。

 魔力の高まりを感知した。


「えっ!?魔法使い!?」

「やれ!勇者といえど邪魔させん!焼き殺してしまえ!」

「応えよ我が炎の意思!我が望みは其の死にあり!"超熱火炎インフェルノフレイム"!」


 建物から放たれる巨大な炎の波。

 商人と魔法使いは同時に口元を歪めるが、それはレティーアも同じだった。

 炎の波が突然進路を変える。それは、魔法使いがいた部屋に侵入し、部屋に引火。激しく燃え上がった。

 驚いたのは、当然奴隷商人だ。


「はぶべっ!?一体何が!?」

「僕の魔法、術式操作。彼女が組んだ術式に介入させてもらった」

「なっ!?魔法使いの性別を知ってるだと!?何者……」


 そう言いかけた商人は、声の主を確認して驚く。

 それは、ロミオス王国でもトップクラスの知名度を誇る賢者アキトだった。

 アキトの手には、膨大な魔力が渦を巻いている。

 商人に、もう勝ち目は残っていなかった。

 そんな商人に近づくレティーア。

 そして、商人の目の前まで来る。


「覚悟はいいわね?もう二度とするな!」


 レティーアのパンチが、商人の頬に深々と入る。

 その威力から、商人の意識は一瞬で飛ばされていた。

 遠くから、ソフィアと人魚族の兵士たちが駆けつけてくるのが分かる。

 レティーアは、少女と子どもたちの拘束と首輪を手際よく外していく。

 こうして、海底王国でのちょっとした騒動は幕を下ろすことになった。

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