第45話 <海底王国>

 頭上から差し込む日光。

 ガラスのようなもので覆われた海底にある人魚たちの国。それが海底王国だ。

 ロミリアンと似たような造りだが、海底ならではの装飾が目を引く。

 街の至るところに透明な柱がたっている。

 ガラスのようなものに届くその柱は、中で水泡が立ち上っている。

 あまり火が使えないので、街灯は魔力で光を発するタイプのものだ。

 そして、大広場の奥にそびえているのが王城だ。その門を、海中戦に特化した装備の人魚の兵士たちが護っている。

 幻想的な風景のなかを、ソフィアに連れられてアキトたちが歩いていく。

 海底王国は美しい国だが、やはり街中は異様な感じだった。住民たちは、皆どこか疲れているような表情だった。

 路地裏には、やつれた感じの子どもたちが座りこんでいる。


「……ソフィアさん。あの子たちって」

「そうです。少し貧しい民ですね。以前は誰でも買える価格で魚を売るよう法を整えていたのですが、ここ最近はそれも厳しくて……」


 ソフィアのその言葉に、レティーアの気持ちが沈む。

 レティーアは、子どもたちに寄っていき何かを渡していた。


「金貨をあげるわ。お父さんたちに何か買ってもらって?」

「あ……ありがとう……ございます」

「……勇者様。そのような行動は少し控えたほうがいいかも……」


 なぜかとレティーアが理由を聞こうとした時、レティーアに向かって石が飛んできた。

 アキトが咄嗟に風の魔法で防いだが、当たりどころが悪かったら怪我していただろう。

 石を投げたのは、少し大人びた人魚の少女だった。リーネよりも少し幼いくらいだ。

 いきなりの暴挙に、リーネが少し怒る。


「何するの!あんまりじゃない!」

「うるさい!このめ!その子たちから離れろ!」

「奴隷商人?ソフィア。どういうことだ?」

「実は……ロミオス王国にお願いしたい用件の一つが、そのことで……」


 何でも、子どもたちをお金やお菓子で釣り、奴隷として連れていく非道な人間がいるとのこと。子どもたちの行方不明は、もう五十人を越えているらしい。

 そこでロミオス王国に、奴隷として売られている子を見つけたら、海底王国の資金で購入・保護して返してほしいとのことだった。

 アイマルの性格を考えると、そんなことをしている奴隷商人は、すぐに騎士たちに捕らわれるとは思うが……。

 事情を理解したレティーアは、その少女に謝る。


「ごめんね。そんなこと知らなかったの。許してくれないかな?」

「そんな嘘に騙されるわけ……って!ソフィア様!?」

「ごめんね。貴女たちが苦しむ原因は私たち王族にある。だから、この問題を解決するために勇者様に来てもらったの。それが彼女なのよ」

「っ!とんだご無礼を!」


 その後、何とか説得を続けて頭をあげてもらおうとするレティーア。

 少女と打ち解けるまで、五分ほど必要とした。

 少女たちと別れ、お城を目指すアキトたち。

 移動中の話題は、その奴隷商人についてだ。


「酷い奴もいるものね…!」

「まったくだ。見つけたらボコっていいんだよな?」

「えーと、アキトたちの国の法律で問題なければご自由に。海底王国では、人間に関することは人間の法律に任せるといった感じだから……」


 ロミオス王国では、悪人に対する制裁行為は、死に至らしめるものでなければ許可されている。

 アキトたちは、そんな悪党を見つけたら成敗しようと決めた。

 そしてアキトたちは、広場に繋がる通りへと出る。

 通りでは多くの店が開いていたが、その売り物の魚の値札を見てレティーアが驚愕した。


「……おじさん。この値段ってマジ?」

「おや?地上からの客人かい?悪いがこんな有り様だからな。許してくれ」


 その魚は、ロミオス王国でも人気のある魚で、赤の節に旬を迎えるザンバという魚だった。

 黒くて細長いその魚は、焼いて食べると美味しいことと、その安価な値段から、庶民の食卓によく並ぶ。

 だが、そのザンバについていた価格は、まさかの金貨十枚だった。

 これは、ロミオス王国の貴族の一週間の給金に相当するものだ。

 申し訳なさそうにソフィアが話す。


「どこもそのような有り様で……。本当にごめんなさい……」


 その後も、通りを進んでいくが、どの店も魚が異様に高かった。中には、金貨百枚などという破格のものまである始末だ。

 そして、もうひとつ気になることもあった。

 アキトたちの目の前で、汚れた服装の人魚の男性が、身なりのいい人間の男に何か話している。

 人魚の男性の後ろには、悲しげな表情の女の子。娘だろうか?

 

「何してるんだ?"地獄耳"」


 アキトが、二人の会話を聞いてみる。


「旦那様?うちの娘などいかがです?今なら金貨五枚ですよ」

「ふーむ、よいのか?法に触れたりだとか……」

「グレーですから!ギリギリセーフでしょう」

「……お父さん……やめて……」


 どうやら身売りらしい。

 どうにかしてあげたいが、話に割り込むのは申し訳ない気もする。


「ソフィア。彼らは……」

「最近、身売りまで横行しているの。もう生活はいっぱいいっぱいなのね。それに、ああいった身売りが元で奴隷商人たちも調子に乗っているのかも?早く手を打たないと…!」


 邪神による影響は、さまざまなところに表れていた。

 一刻も早く大海の邪神を倒さなくてはならない。

 アキトたちは、急いで城へと向かおうとする。

 その時、マリアは視界の端で、路地裏を疾走する馬車のようなものを見つけた。

 それだけなら問題ないが、荷台にさっきレティーアと話していた少女や、子どもたちが首輪をかけられて載せられていたのなら、話は違ってくる。


「アキト待って!違法な奴隷商人を見つけたかもしれないわ!さっきの子たちが連れていかれる!」

「何だって!?急いで追いかけよう!どこ行った!?」


 アキトたちは、すぐに怪しい人物を追いかけていく。

 あの少女は、話しているうちに子ども想いの優しいお姉さんだと分かったのだ。絶対に助けたい。

 その思いはレティーアが一番強かったようで、アキトたちを置き去りにしてものすごい速度で追いかけていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます