第44話 <異常事態>

「それで?海底王国で何が起こっているのだね?」


 ソフィアがアキトを見て態度が変わったことから、話題がそれることを恐れたアイマルが尋ねる。

 ソフィアは、海底王国からの使者で来たのだ。当然、この魚不足の説明だろうと予想はついている。

 ソフィアは残念そうにしたが、アイマルへと向き直って事の次第を説明する。


「実は、魚がほとんど捕れなくなってしまったのです。人魚の民たちも飢えてしまうほどの量なので、とてもじゃないけど輸出には……」

「急に?何か異変や予兆などは?」

「……一つだけ。魚の不漁と同時期に、新種のイカのような生き物を見たと報告が……」


 その発言に、アキトたちが反応した。

 それを見ていたアイマルは、すぐにある考えに思い至る。


「アキト殿。何か心当たりがあるのだろう?」

「はい。ここに来る前にイカのような魔物と交戦しました。恐らくは……スクイッツという……」

「スクイッツ!?」


 その単語を聞いたソフィアたちの様子がおかしい。

 何とか平静を保てているソフィア。だが、お供の人魚たちは明らかに動揺していた。

 やはり、スクイッツについての情報を海底王国は持っているようだ。


「ソフィア……姫。スクイッツについて何か知ってます?」

「敬語やめて!あと、昔みたいにソフィアでいい……こほんっ。……スクイッツは、邪神が生み出す魔物よ」


 薄々そうだと思っていたが、実際に聞くと衝撃を受けるものだ。

 そして、特性からどの邪神なのかも予想がついた。

 レティーアも気づいたようで、ソフィアへと尋ねる。


「それってやっぱり……大海の六大邪神の?」

「はい。大海の六大邪神……マジョリア=オケアーノ。それが、あいつの名前です」

「……やけに詳しいな?」


 海底王国は、なぜこんなにも邪神の情報を持っているのだろうか?

 その理由はすぐに分かる。

 他でもない、ソフィアが教えてくれた。


「初代勇者のソルティア様。あの方と私のご先祖様が一緒のパーティーだった。海底王国に伝わる邪神の逸話は、すべてご先祖様の口伝よ」

「つまりは、魚不足は邪神が原因。このままでは、海底王国が危ないな」

「それだけではありません」


 ソフィアの表情から、余裕が消える。その瞳には、焦燥の念が見てとれる。

 まさか……邪神が何かしようとしているのだろうか?


「先日、海底奥深くに聖なる力を感じました。恐らくは、ソウルクリスタル……」


 アキトの顔から血の気が引いていく。

 レティーアは、まともに立っていられないほどすくんでしまった。

 マリアが震えながらも、邪神に関する記述を思い出す。


「再生神話……第二節二項。

『母なる海は、滅びを運ぶ。海に住まう魚たち、異変に気づいて逃げにけり。滅びは止まらず陸地を包む。』」


 かなりまずいことになった。

 マジョリア=オケアーノは、水を支配する能力があるということは推測されている。

 そして、ソウルクリスタルを海底に運び込んだという。どうする気なのかは容易に予想できる。

 マジョリア=オケアーノは、大津波を引き起こしてユーロンを海に沈めようとしているのではないだろうか?

 もしそうだった場合、一刻も早く止めなければならない。どんな事態になるのか予想できないことが怖かった。

 だが、マジョリア=オケアーノ討伐に関しては、最大の難関があった。

 マジョリア=オケアーノは、六大邪神の中では五番目の強さと言われている。

 それでも厄介と言われるのは、海上での戦闘となるので万全とは言い難い状態の戦闘になってしまうからだ。

 さすがのアイマルも、頭を抱えてしまう。


「ふーむ、レティーア殿では海上での戦闘には向かないし……かといって、アキト殿たちでも無理だし。うーん?」


 流れる沈黙。

 そこでソフィアは、ある提案を持ちかけた。


「一度、海底王国にいらしてください。王と一緒に考えましょう」


 ソフィアが、視線をアキトに向けて口元をにやつかせている。

 これは、またあのパターンか。

 きせかえ人形にされる未来が見えたが、無理やり意識の外に追いやって忘れようとする。

 城の外まで出ると、アイマルが見送りにやって来る。


「レティーア殿。必ずや世界を救ってくれ…!」

「勿論です。そのためにも、まずは海底王国へ行ってきます!」

「出します。歓迎しますよ」


 そして、レティーアたちを乗せた使者専用の乗り物は、海へ向かって走り出した。

 数十分間揺られたあと、ロミリアン近くの海水浴場へとたどり着いた。

 なるほど。確かに海が汚れていた。魚がいなくなる訳だ。

 海水浴場のはずれ。そこに、海底王国へと通じるトンネルがあるらしい。

 長い長い階段に苦戦しつつも、何とか下まで降りていく。

 やがて、光が見える。

 その光が溢れる穴から顔を覗かせると……。

 その街には、たくさんの人魚族が暮らしていた。

 レティーアたちは、遂に海底王国へとたどり着いたのであった。

 

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