第41話 <不死身の怪魚>

 雷が荒れ狂う。金色の光は、木を砕いて地を穿つ。

 そこへ追撃として、金色の矢が無数に放たれる。全範囲殲滅攻撃。

 攻撃をしているのは、二人の天使。大天使ルミエールと、戦天使ミカエルだ。

 彼女たち最上位クラスの天使たちと渡り合っているのは、見たこともない不気味な魔物。

 下半身が魚、上半身が人?みたいな人魚のような見た目だが、手には槍を持っていて、口に当たる部分からはイカのような触手が生えている。

 そして何より、ここまで彼女たちが苦戦するのには、訳があった。


「しつこい!"神の炎エデンフレイム"!」


 ミカエルが放った炎が、その化け物を包み込む。

 猛烈な異臭を放ちながら、焼け焦げていく魔物。

 異変はすぐに起きる。

 燃えたはずのその魔物から、焦げた部分が剥離。何事も無かったかのように再び立ち上がる。

 話を戻そう。彼女たちが苦戦する訳は、この驚異の再生能力だった。最早、不死身と言ってもいい。

 こんな魔物は聞いたことがない。初めて遭遇する敵に戸惑う天使二人。

 それでも、諦めずに戦い続ける。

 どうにか、再生の方法だけでも知りたい。


「ミカエル!そっちは大丈夫!?」

「ああ。こいつら、雑魚のくせになかなかしつこいからね」


 この魔物は、単純な力だけならガーゴイルよりも格段に弱かった。だからこそ、不死身の能力の質の悪さ。

 二人は今、少なくとも二十体はいるであろう化け物に包囲されている。

 魔力の限界も近い。まさに絶体絶命だ。


「くっ…!こいつら……何者なの?」

「こんな魔物が自然発生するわけ無い。邪神の配下だということは予想できるが……」

「何の邪神?って話よね。こんな奴、三千年前には遭遇しなかった」


 困惑していると、近くの茂みから槍が投擲される。

 咄嗟にかわしたが、魔物の二体が急接近。口の触手でルミエールを捕らえる。

 反転し、援護に向かおうとするミカエルだったが、そんなミカエルの前で、バリケードを組み始める魔物たち。

 ルミエールを捕らえた魔物は、触手の奥の牙で肩に噛みついて固定。後退を始める。

 バリケードは、その魔物を守るように移動し続ける。

 どうやら、ルミエールを連れ去るつもりのようだ。


「ルミエール!早く引き剥がして!」

「……できない!この触手には、魔力の発現を阻止する作用があるみたい!助けて!」

「くっ!ならば回り込む!」


 翼を広げ、飛翔するミカエル。その時、バリケードを組んでいた魔物たちが一斉に槍を投げる。

 それは、ミカエルの両翼を貫いた。

 重力のまま、地面へと落ちていくミカエル。油断して防御魔法をかけていなかったが故の出来事だった。

 地に伏して呻くミカエルに近づく魔物たち。その内の一体が、ルミエールと同じようにミカエルを捕獲する。

 ルミエールの言った通り、魔力が使えなくなった。

 引き剥がそうにも、触手はヌメヌメしているので、手が滑ってしまう。


「ミカエル!!」

「そんな…!こんな奴らに…!」


 魔物たちは、一気に速度を上げて逃げようとする。

 もう、望みは薄い。


「くそっ!ルミエール……すまない…!」

「そんな!誰か!」

「……なにしてんだぁ!」


 聞き覚えのある声。

 魔物たちが振り向くと同時に、その首が飛ばされる。

 疾風の如く現れたその少女は、次々と魔物を斬り倒していく。

 そして、ミカエルとルミエールを捕らえていた魔物も両断。二人を救助した。

 呆気にとられる二人の前で、その少女は動きを止める。周囲に、動いている魔物はいない。


「ミカエル様!ルミエール様!平気ですか!?」

「貴女……リーネ!」

「どうして……ここが?」

「道中でおかしな巨人王アトラスと遭遇したんです。それで、こっちに何かいるんじゃないか?って」

「巨人王ですらこいつらから逃げ出したのか……」

「それよりも気をつけて!まだ終わりじゃない!」


 ルミエールの警告と同時に、倒れていた魔物たちが起き上がる。

 斬られた魔物も、体を裂かれた魔物も、すべてが動き出す。

 リーネも、その異様な光景に息を呑む。


「どういうこと…?」

「分からない。でも、来るぞ!」


 一斉に飛び上がる魔物たち。

 だが、そこへ次々と魔法が連続して叩き込まれる。

 炎が、氷が、電気が。あらゆる属性の魔法が、魔物たちを蹂躙した。

 ミカエルが振り向くと、そこにも懐かしい顔触れ。


「アキト!来てくれたの!?」

「はい。ですが、何ですかこいつらは?」

「こいつらは……私も知らないのです」

「ルミエール様でも!?……レティーアとマリアは知ってる?」

「ごめんなさい。私は何も……」

「恐らくの予想だけなら……」

「そうか……知らない……マリア?予想できるの!?」


 その言葉に、天使二人も驚いた。天使が知らなくて人間が知ってることなどほとんどないからだ。

 アキトは、マリアに続きを促す。


「あれは、スクイッツと呼ばれる魔物かなと思ったのですけど……」

イカたちスクイッツ……か。誰がそんな名前つけたんだ?」

「アキト。そこは今突っ込むところじゃないよ。それで、奴らの再生の秘密は分かるのか?」

「そこまでは……。ただ、私の知る記録では討伐に成功していました」

「ならば、必ず不死は崩せるというわけか」


 アキトたちの魔法で倒された魔物-----スクイッツたちが起き上がる。

 やはり、絶命には至っていないようだ。

 睨み合う両陣営。先に動いたのは、スクイッツたちだった。

 アキトたちも、迎撃する。


「僕に考えがある。少しだけ、時間をくれ!」


 アキトは、ある魔法の準備を進める。

 その間、主にレティーアがスクイッツたちを次々と斬り伏せていった。

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