大海からの侵略者

第39話 <新たなる邪神>

 暗く、深いその洞窟。その奥で、一方的な虐殺が繰り広げられていた。


「また来るぞ!構え……ぎゃああぁぁ!」

「逃げろ!一旦退避!……ぐぁっ!」

「そん……な……。助けて……」

「ふざけるな!邪神の僕となった裏切り者め!」

「ちが……う……。もう……いや……助けて……うぐっ…!」

「くそっ!迎え撃て……ぎゃああぁぁ!」


 その洞窟は、壁一面が淡い光を放っている。だが、一部では壁に血が付着し、おぞましい赤い光となって周囲を照らしている。

 その血に反応し、どこからともなく不気味で高い咆哮が聞こえるような気もしている。

 そんな無数の人々の死体を踏み分けて、ある一人の人物が進む。その後ろには、禍々しい魔力をみなぎらせる二体の化け物も付いていた。

 惨劇を振り撒き、死者と、死よりも辛い運命を迎えることになる哀れな犠牲者を増やしながら、そいつらは進んでいく。


『しっかし……ホントに張り合いがない雑魚どもね。アタイが本気を出すまでもないわ』

『ヒャッヒャッヒャッ!俺様は満足してるぜ!食い物やら苗床やらが大量だ!スノリアとかいう地域はこれでもらったな!』

「お二方。もうすぐ目的地ですよ。あの御方の御前です。……しかし、ここまで楽な道のりとは……。改めて、ヴィーザ=ティアマドー様に感謝を」

『俺様も礼を言うぜ!美味しい仕事だったしな!ヒャッヒャッヒャッ!』

『下卑た笑いを止めなさい。あの御方……の御前よ』


 三人(一人と二体)が今居るここは、あの邪神王を封じたクリスタルダンジョン。その最深部だった。

 その最奥の部屋。巨大なソウルクリスタルが圧倒的な存在感を放つこの部屋に、足を踏み入れる。

 一際巨大なソウルクリスタルには、見ているだけで恐怖するような二体の化け物が封じられている。

 それは、六大邪神の一体と、伝説の邪神王だった。


「変化無し……予想通りですけど……どうすれば復活を…?」

『帰ろうぜー。地道に魂を捧げて復活していただくしかないだろうよ』

『あら。だったらアタイに任せなさい。この大陸の人間すべての魂を捧げてご覧にいれるわ』

『へぇー。楽しみに待ってるとするよ。……まぁ、お前ならホントにやりそうだな。なあ?マジョリア=オケアーノ』

『そうよ。そして、あの勇者たちに防ぐ手だては無い』


 マジョリア=オケアーノの言葉を聞き終えたヴィーザ=ティアマドーは、転移魔法を起動。自らが住まう洞穴へと帰っていった。

 残されたのは、マジョリア=オケアーノと、それを解き放った者。

 ここに来た本当の目的は、計画遂行の為の巨大なソウルクリスタルの確保だった。


「それでは、手近な塊でも持って帰るとしますか?」

『ふーん……これね』


 そう言うやいなや、即座に壁の一部を破壊。巨大な結晶を持ち帰ろうとする。

 そこで、マジョリア=オケアーノは気づく。

 床には、ヴィーザ=ティアマドーが利用するだけ利用して放置していった、哀れな女性たちが倒れている。


『……可哀想に。今楽にしてあげましょう』

「ひっ…!嫌…!やだぁぁ!!」


 最後の力を振り絞って出された悲鳴も関係なく、通路一杯を水が満たしていく。

 彼女たちは、水の中でもがいていたが、やがて窒息していった。亡骸が、水中を漂う。

 そして、その魂は近くの邪神王に吸収されていく。


「……怖い怖い。これが、大海の邪神の力……か」

『ふふっ!改めてアタイの力に感激したのかい?じゃあ行こうか。新たなる、海が支配する世界を創るために』


 そして、その人物とマジョリア=オケアーノは転移魔法を起動。最後の準備へと取りかかる。

 クリスタルダンジョンには、再び不気味な静寂が戻っていた。






 クリスタルダンジョンが存在する、ユーロン大陸の中心にあるユーロン最大国家。聖ブリテン王朝。その首都である王都キャメロットでは、難しい顔をした男と、神々が話し合いを行っていた。


「アーサー王よ。お主の国はどのくらいの被害が出たのじゃ?」

「はい。我が国の誇る聖騎士団二個小隊が全滅したと。敵は、邪神二体と聞きました」

「ふーむ……。ワシの見立てでは、残るはホルス=スコーパーのみと思っていたのじゃが……これは、急ぎレティーアにも伝えねばならぬ。頼めるか?ルミエール」

「はい。お任せください」


 大天使ルミエールは、命令を受けてキャメロットを飛び立っていく。

 男とその神は、話し合いに戻る。だが、大体の状況は把握できた。

 他の神たちは、各々が為すべきことをするために、持ち場へと向かっていく。


「ところで……そのレティーアとは例の勇者の?」

「そうじゃよ。既にフラム=ベルジュの討伐にも成功しておる。恐らくは……ソルティアよりも実力はあるだろう」

「ほぉ、それはマーロ様も安心したのでは?」

「そうじゃよ。楽観はできないが、完全に希望が絶えることはないと思っておる」

「……最高神様に言うことではないかもしれませんが、油断は禁物ですよ。……どうも、邪神を手引きしている者がいるようだと報告を受けております」

「知っておる。奴らを解き放った……」

「違います。その者たちを囃し立てた者がいると」


 それは、マーロ様でも初耳だった。やはり聖ブリテン王朝の諜報軍は優秀だ。


「それは……伝えた方がよいな。ミカエルよ。急ぎルミエールを追いかけてくれ」

「かしこまりました」


 続いて、ミカエルも城を飛び立った。

 それからも、アーサーとマーロ様は話し合いを続ける。世界を守るためにできることは、すべてやっておかなくてはならない。

 そして、丁度その頃に、ロミリアンで天空の邪神ホルス=スコーパーが討伐されたのだった。

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