第37話 <激情の暴風>

 ホルス=スコーパーは、手に持つ弓の大きさを変える。近距離でも戦えるような短さへと変化する弓。


『崩弓アルカノイド第三形態、短弓』


 弓が形状変化を終えると同時に、踏み込みの音が聞こえる。

 レティーア、ヨハネス、リーネの三人が同時タイミングで三方向からホルス=スコーパーを襲撃。

 一撃でいい。そんな覚悟が伝わってくるかのような攻撃だ。

 さすがに慌てるレジーナ。だが、ホルス=スコーパーはレジーナを抱えて跳躍。いつの間にか構えていた矢を放つ。


『思い知れ。"連続する機関矢ラピッド・マシンガンアロー"』


 その矢は、空中で分裂する。

 一本が二本に。二本が四本に。四本が八本に。どんどん増えていく。

 そして、レティーアたちに迫る頃には、数えきれないほどの数になってしまっていた。

 わずかに残る瓦礫の間をすり抜け、器用に矢をかわしていく三人。

 矢の雨が途切れる頃には、ロミオス王城前は更地になっていた。

 その中央に降り立つホルス=スコーパー。新たに矢を取り出し、アキトへと切っ先を向ける。

 一方のアキトも、既に魔法の構築は済んでいる。詠唱まで行った、大魔法だ。

 お互いが、必殺の念を込めて技を繰り出す。


「"神罰の波動ジャッジメント"!」

『"凶・死剛弓イービル・デスバリスタ"!』


 それは、互いの中間地点で衝突。とてつもないエネルギーとなって拡散される。

 その合間から、さらに飛んでくる矢。

 先ほどのホルス=スコーパーの一撃は、ただの囮。本命は、後のこっちの攻撃だった。


『"累積発動"。"超剛弓ギガ・バリスタ"!』


 一度の発射が、無数の発射へと変わるホルス=スコーパーの魔法。

 点を制圧するための魔法が、面制圧の要領で襲い掛かってくる。


「うおっ!?"打消……ダメだ多すぎる!」


 一回の魔法では打ち消しきれないほどの風の矢が荒れ狂う。一つ一つが死を纏うその矢は、かすっただけでも充分致命傷になりうるだろう。

 故に、打ち消さない。全力を以て回避に専念する。

 幸いなことに、ホルス=スコーパーは軌道を弄っていないようだ。真っ直ぐにしか飛んでいっていない。

 よく見ていれば、どこに来るかが分かる分、回避は楽だ。

 それに、アキトを相手しているホルス=スコーパーの背中はがら空きだ。

 それを見逃すレティーアではなく、ヨハネスと共に攻撃を決める。


『ぐっ…!?しまった……。私としたことが……』

「これならどうだ!"炎天花"!」

「"流星剣"!」


 炎を纏う槍が、流星のごとき威力のある剣が、同時にホルス=スコーパーを捉える。

 だが、直前に体を捻られたのか、決定的とはいかない。そしてそれは、大きな隙となってしまう。


『ようやく捉えた……。"天変地異"』


 風が動きを変える。渦を巻いて、すべてを巻き上げながら空へと昇っていく。

 それは、ロミリアンのほぼ全域で見られた。そこら中を、無数の竜巻が暴れまわっている。

 リーネとアキトは近くの物にしがみついて事なきを得たが、レティーアたちは飛ばされる。

 竜巻の一つが城を直撃。塔の一つをへし折り、同じく巻き上げる。

 塔から、誰かが投げ出された。アキトが狙撃眼スナイプアイで確認すると、それはマリアとアナスタシアだった。

 アナスタシアの身に何が起きたのか。それをヨハネスが理解する。

 だが、地上ではレジーナとホルス=スコーパーが、それぞれマリアとアナスタシアに狙いをつけていた。


「これで、回復役は居なくなるわね。」

『レティーアよ。お前が友と思っているあの女。今から私が撃ち抜いてあげましょう』

「レジーナ!アナは関係ないだろ!」

「やめて!マリアは動けないのよ!」


 二人の悲鳴ともとれる叫びを無視し、銃と弓が同時に放たれた。

 状況を理解し、怯えるアナスタシア。だが、既に銃弾は近くまで迫ってきている。

 そしてそれは、マリアへの矢も同じだった。


「「うわああぁぁ!!」」


 ヨハネスとレティーアの悲鳴が聞こえる。そこに現れる救世主。


「……させるもんか!」


 マリアとアナスタシアの前に立ちはだかったのは、ノーヴァ帝国の将軍、マルコだった。

 得意の強化魔法を駆使し、腕力を強化。凶弾から二人を守る。

 ホルス=スコーパーは、すぐさま次の一射を用意。マルコへと放つ。


「もう読んでいる!"反転インベージョン"」


 アキトの魔法を受けた矢は、その向きを百八十度回転。ホルス=スコーパーへと帰っていく。


『……小賢しい。"暴風の舞いゲイル・カーニバル"』


 鋭い切れ味を誇る風が出現。舞踊を踊るかのようにホルス=スコーパーの周りを回転する。

 ホルス=スコーパーの矢を、アキトたちの肌を、何もかも関係なく風は切りつけていく。

 そして、遂にアキトとリーネが空中へと投げ出された。

 眼下では、レジーナがホルス=スコーパーに魔力を送り、ホルス=スコーパーは弓を元の大きさに戻してある。

 つがえられている矢には、見るからに危ない光が密集している。

 やはり、大技で決めてくるようだ。


『これで終焉だ。"付呪エンチャント全属性破壊魔矢フルマテリアルアロー"!』


 莫大なエネルギーと魔力が込められた一撃は、アキトたちへと向かってくる。

 咄嗟に、防御障壁を展開する。一枚ではない。一気に二十枚だ。


「緊急魔法!"四方拝"!」


 アキトたち全員をカバーする二十枚にも及ぶ四方拝。

 だが、ホルス=スコーパーの矢は障壁を容易に打ち破って迫ってくる。あと……五枚……四枚……。

 諦めかけたその時、不意に聞こえる声。


「彼の者に私の魔力を。"魔力増強パワー・ドーピング"!」


 アキトへと流れ込む優しい魔力。

 これは、マリアの魔力だ。上を向くと、マリアが目を覚ましていた。


「アキト!支援はしたから必ず防いで!」

「任せろ!"四方拝"!」


 再度展開する四方拝。それは、ホルス=スコーパーの矢と拮抗している。

 だが、それでも防げない。障壁は、不気味に数を減らしていっている。

 そして遂に、最後の一枚に到達してしまった。障壁にヒビがはいっていく。

 そして……。


『……へぇ。私の矢が虫けらごときの魔法に負けるなんてね』


 最後の一枚を打ち砕く寸前で、矢は停止。

 ホルス=スコーパーの攻撃は、ギリギリのところで防がれたのだ。

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