第36話 <天空の攻防>

 レティーアが飛ぶ。空高く、どこまでも。

 その途中、ホルス=スコーパーの手によって放たれた新たなビートリアが迎撃に向かってくる。だが、レティーアの敵ではない。

 最初の一体を切り払い、返す刀でまとめて数体を四散させる。

 全方位からビートリアが迫ってくるが、それを気配で感じたレティーアはエデンを持って回転。刃からの真空波で的確に切り裂いていく。

 その姿は、まさに剣神。邪神の軍勢が一方的に打ち倒されていく。

 だが、黙ってやられるビートリアではない。

 突如、加速してレティーアの周囲を飛び回る。攻撃はしてこない。

 高速で動く羽音がうるさく、周囲の音が聞こえづらくなっている。


「何を…?まさか!?」


 反射的に上、ホルス=スコーパーを見上げる。

 ホルス=スコーパーは、ソウルクリスタルを掲げて砕こうとしていた。

 間違いない。水晶邪法ブレイカーを発動させるつもりだ。

 ビートリアは、そのための誘導。ホルス=スコーパーの勝利のための犠牲。

 味方の損害すらも厭わない邪神の攻撃。それゆえに、三千年前は人類が追い詰められる結果となった。

 やがてソウルクリスタルは砕かれ、その破片がホルス=スコーパーを包んでいく。

 ホルス=スコーパーの弓が形を変える。それは、レジーナが使っていた拳銃というらしい物とよく似て、それでも、もっと長い別の何かに変わった。

 恐らく、ロミリアンで急に狙撃の威力が上がったのは、あれを使ったからなのだろう。


『いかに勇者といえど、完全には見切れまい』


 ホルス=スコーパーは、手に持ったその何かをレティーアへと向ける。矢は……手に持っている様子はない。

 

「矢を構えていない弓矢なんて!」


 ガラクタ。そう思って速度を上げるレティーア。ホルス=スコーパーに動きはない。

 もう少しで刃が届く。そんな距離まで迫ったとき、猛烈な突風がレティーアを横へと押し流す。

 ……レティーアの進路に、ホルス=スコーパーの攻撃が通過したのは同時だった。

 あのまま進んでいたら……。そう考えると、全身を寒気が襲う。


『ちっ…!アキトめ……』

「今の……やっぱりアキトの魔力!」


 間一髪レティーアを救ったのは、アキトの魔法。嫌な予感がしたアキトが、瞬時に対応したのだ。


「お前……。いつの間に矢を…?」

『矢?そんな物は使っていない。ここまで食い下がった褒美に教えてあげよう。これは、ライフルというものだ。鋼で鋳造した弾丸を使う』

「鋼!?そんなものを高速で…!」


 道理であのふざけた威力の訳だ。先端が金属の矢と違い、そのライフルとやらは金属の塊を放つのだから。

 

『あのパイデルン法国も同じような武器を作りやがったからな。これは私だけの専売特許。だから、私自ら出向いて滅ぼしてやったよ』

「なっ!?パイデルンを襲った災厄って…!」

『無論。私が引き起こした無数の竜巻のことだろうね』


 なんとホルス=スコーパーは、パイデルン法国の滅亡にも関わっていた。

 しかも、その理由は理不尽極まりないもの。到底許せはしない。


『他にも飛行船だとか気球だとか……。空を支配する私に喧嘩でも売ってるのかと思ったよ』

「なぜ、それを私に教えてくれるの?」

『そりゃあ勿論……


 背後から聞こえる破裂音。

 咄嗟に後ろへと剣を凪ぐが、少し遅かった。脇腹を襲う衝撃。

 レジーナが、カオス=フリーデンの背に乗ってレティーアへと発砲していた。

 地上へと滴る血液。かなりの深手を負ってしまった。

 ホルス=スコーパーがライフルを向ける。


『最後にいいことを教えてあげよう。レジーナが乗っているカオス=フリーデンだが、どうやらお前の侍女を食い殺したそうだ。稀に出会える高級食材だったとさ。虫けらでも腹の足しになるんだな!』


 その言葉と、ホルス=スコーパーの笑いにレティーアの我慢が限界を迎える。

 何と、ホルス=スコーパーのライフル射撃を打ち返す。それは、レジーナを乗せたカオス=フリーデンの右翼を穿ち、地上へと降下させた。


『なに!?今の攻撃を…!』

「このおぉぉぉっ!!」


 ホルス=スコーパーは、レティーアとユースリアの仲が良かったことを知っててあのような言葉を言ってきていた。

 当然、それはレティーアの逆鱗に触れる。

 先ほどとは別人のような速度でエデンを振るう。

 遠距離用の武器しか持っていないホルス=スコーパーは、対処のしようがない。すぐに、水晶邪法の時間切れとなる。

 レティーアは、攻撃の手を休めない。

 ホルス=スコーパーの全身を余すところなく斬っていく。いかに硬い邪神といえど、限度はある。


『ちっ…!ここまでとは…!フラム=ベルジュがドジっただけではなかったということか…!』

「これで!墜ちろぉ!」


 ホルス=スコーパーの脳天に強力なスマッシュ。

 その一撃に耐えきれず、ホルス=スコーパーは地上へと墜落した。瞬時にアキトたちが包囲する。


「空での会話は聞かせてもらった!お前たちがパイデルン法国を!ユースリアさんを!」

「ここで倒す!逃がしはしない!」

「ノヴィスへの侵攻……。死をもって償うといい!」


 苦しみながらも起き上がったホルス=スコーパーに、レジーナが近づく。


「どうする?撤退する?」

『いや、逃がす気はないだろう。ならば、ここで皆殺しにしてくれる』


 空からレティーアが帰ってくる。

 全員が揃ったところで、ホルス=スコーパーとの最終決戦が始まった。

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