第33話 <一喝>

『……命中。アキト……だったか?あいつは始末した』

「嘘でしょ!?あの賢者の名を持つ彼を!?……本当にやってしまうとは……怖いわね」

『だが、命中率は低い。そこだけが、心残りだな』


 ホルス=スコーパーとレジーナが話している。

 ロミリアンでは、ホルス=スコーパーの一撃によって、アキトが倒されたところだ。


「ま!後は二人ね。さっさとレティーアとヨハネスをやっちゃいましょ?」

『……あのアキト。一瞬こちらを確認しようとしやがった。少し、位置を変えよう」


 ホルス=スコーパーは、万全を期して狙撃位置を変えようと動く。

 そのついでに、新たなビートリアを召喚。ロミリアンに向けて解き放った。







 町を襲い、住民に犠牲を出させ続けているカオス=フリーデン。そんな連中を、リーネが各個撃破していく。

 リーネではトドメには至らないが、かなりの時間活動停止させることはできる。

 そしてまた、一体のカオス=フリーデンを地に沈める。


「やりましたわリーネ!次はあちらのカオス=フリーデンを!」

「そうね。はぁ……はぁ……行きましょう!」


 息を整え、一歩踏み出すリーネ。

 その時、ロミオス王城の正門付近で爆発音が聞こえた。すごい土煙が立ち上っている。

 そして、レティーアのものと思われる悲痛な叫びも聞こえてきた。それは、アキトの名を呼んでいる。

 リーネとマリアの背中に、悪寒が走る。

 まさか……そんなはずは……!

 嫌な予感を無理矢理意識の外に追い出し、異常の原因を確かめに向かう。

 そして、正門前に到着。既にマルコが駆けつけており、ヨハネスと何かを話していた。

 レティーアを見つける。しかし、その腕に抱いているアキトを見て、思わず口を覆ってしまう。

 アキトの左足は……股関節の近くから無くなっていた。辺りにおびただしい量の血液が流れている。誰のものかは、聞くまでもない。


「うそ……アキ……ト……?」

「いや……冗談でしょ……?」

「リーネ……マリア……ごめん……なさい……」


 ポロポロと涙をこぼしながら、レティーアがか細い声で呟く。その背中は、見るに耐えないほど萎縮してしまっていた。

 近くでまた起きる衝撃。止まっていた狙撃が再開された。

 だが、今のコースからすると、敵はこちらを見失ったようだ。

 退くなら……今しかない。


「一旦城内に退くぞ!……レティーア姫!アキトを連れて早く行け!このままだと、ホントに彼は死ぬぞ!」


 だが、レティーアの足に力が入っていない。精神的なダメージが色濃く出ている。

 仕方ないのでリーネがレティーアを、マリアがアキトを支え、撤退する。

 まずはマリアが建造物から出る。周囲にビートリアやカオス=フリーデンがいないことを確認し、門を抜ける。

 リーネが出てすぐ、狙撃攻撃がリーネとレティーアを襲う。

 建物から顔を出した一瞬で、こちらを見つけられた。どこから狙っているのか。ますます謎は深まる。

 だが、そんなことより今は逃げなくては。急がないと、アキトが死んでしまう。

 頭上から降り注ぐ攻撃をかわし、城内へと転がり込んだ。すぐにヨハネスとマルコも駆け込む。

 今回は……こちらの敗北だ。




「医療担当!こっちを頼む!」

「無理だ!こちらは手が放せない!そっちで対応を!」

「出来ないから依頼してんだろ!」


 城内は、負傷者の治療で忙しそうだった。王国の回復魔法使いたちが、右へ左へと大忙しだ。

 平らな床に、アキトを下ろす。すぐにマリアが治療魔法を唱え始めた。

 それでも、命が助かるかは絶望的だ。それほど、アキトの受けた傷は大きい。

 報せを受けたアイマル、カトレア、アナスタシアの三人がすっ飛んでくる。

 アキトの怪我を見て、カトレアとアナスタシアがその場で倒れかけてしまう。


「ヨハネス様……彼は一体……?」

「いや……いやぁ!アキト様ぁ!」


 アイマルは言葉を発せず、カトレアは半狂乱で泣き叫んでいる。

 壁際では、レティーアが膝を抱えていた。脇にあるエデンからは、光が失われかけている。

 レティーアの心が壊れかけている。エデンはそんな彼女を見限ろうとしているのだ。

 レティーアのもとへヨハネスが近づいてくる。


「あまり気に病むな。ホルス=スコーパーが一枚も二枚も上手だった。対策を練って、奴を討てばいい。違うか?」

「……」

「……ちっ!しゃあねぇ……」


 アキトが心配で、治療中のマリアの側を彷徨いているリーネ。

 彼女は、先ほどから生きた心地がしていない。


「ねえ?助かるよね?」

「話しかけないで!集中が途切れる!……助かるかは……分からないわ」


 聞きたくなかった。助かるとだけ聞きたかった。

 欠損部位は足だったため、即死とはいかなかったが、このままでは失血死のリスクは捨てきれない。

 目に見えて焦るリーネ。

 その時、鈍い音が鳴った。静まる広間。

 リーネの隣では、アナスタシアが目を見開いている。その視線の先には、二人の人物がおかしな光景を繰り広げていた。

 ヨハネスが、拳を固く握りしめてレティーアの頬を殴っていた。少なくとも、こんな状況で見る光景ではない。


「ちょ……ちょっと!何やって……」


 その先の言葉は、マリアによって塞がれた。

 その目には、黙って見届けてとのメッセージが込められている気がする。


「いい加減にしろ……」


 低い声でヨハネスがレティーアに訴える。


「いつまでそうしてるつもりだ!?お前が勇者なんだ!勇者がこんなところでへたるな!」

「うるさい……!私だって!それくらいは!」

「分かってる?自惚れるな!自覚が足りてない!エデンの試練で何を得た?エデンだけではない、多くの人を守る決意を得たはずだ!」

「なっ!?なんでそれを!?」

「それを果たせ!惨めでも無様でもいい!命の限り足掻け!お前が希望なんだ!務めは最後まで成し遂げろ!勇者だけは……絶望しちゃいけない。諦めてはいけないんだ!」

「っ!……ヨハネス様。」

「それに……見てみろよ。これでもまだ諦めて縮こまっている気か?」


 ヨハネスの指差す先を、レティーアは見る。他の全員もつられて見て、涙を流す。

 そこには、目を開けてこちらを見つめるアキト。意識を取り戻し、帰ってきたのだ。


「彼が無茶した訳が分かるか?……多分な、彼はお前を守ろうとしたんだろう。狙撃という脅威を取り除く形でな。」

「……え?」

「勇者は人類の希望。皆、お前を信じて戦ってるんだ。そのお前が諦めたら、もう世界は終わりなんだよ。」


 ヨハネスは、レティーアの胸ぐらを掴む。そして、迫力ある声で告げる。


「いいか?カオス=フリーデンとかなら俺たちでも対処・討伐はできる。だが、ホルス=スコーパークラスの上位邪神はダメだ。奴らは、お前が倒すんだよ!」

「……ええ!それが、私の役目だから!」

「お前は、人類の希望なんだ!俺たちは、希望を守る要。俺たちの負傷は、お前が気にすることじゃない。……まだ、床でショボくれている気か?」


 少しだけ、優しい口調に戻るヨハネス。

 そこまで言われると、レティーアの答えは決まっている。

 そんなの……違うに決まっている!

 エデンの刀身に、元のような光が戻ってきていた。

 エデンを持ち上げ、自身の胸の前に持ってくるレティーア。決意新たに、宣言する。


「ごめんなさい……。私はもう挫けない。皆が信じてくれる限り……最後まで戦い抜く!」

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