第31話 <混乱>

 ロミリアンの町は、一言で言うとパニック状態だった。

 突如として襲いかかってきたビートリア。この突然の事態に、住民は我先にと避難する。

 だが、その避難行為は騎士たちの戦闘の邪魔となっている。

 現に、墜落したビートリアに剣を突き立てようとした騎士が、住民とぶつかってビートリアを逃がしてしまった。

 また、ビートリアは高い機動力を武器とする戦闘が得意だ。避難先や戦闘中に撹乱攻撃をしかけるなどは常である。

 アキトたちは、予想以上に戦況が不利だと感じる。

 今の状態に加え、ビートリアはルクスヴァニラを襲撃したガーゴイルと変わらないほどの数がいる。いずれ、押しきられてしまうだろう。

 頼りとなる壁上の兵装は、先の戦闘で壊れてしまっている。期待はできない。

 咆哮が響く。

 レティーアが振り返ると、黒い龍が住民の男性を咥えて建物の陰に隠れるところだった。

 忘れることはない。あの特徴的な体は……!


「カオス=フリーデン……!なんであいつが!?」

「レティーア?カオス=フリーデンはフラム=ベルジュの眷族じゃ……?」

「いや、ここにいるということは天空の邪神の配下なんだろう。」


 レティーアの侍女だったユースリアの敵!復讐心にレティーアが燃えている。

 とりあえず、ビートリアとカオス=フリーデンを倒し、住民を避難させる。邪神討伐はそのあとだ。


「行くぞ!まずは住民を避難させるんだ!」

「ええ!」


 その時、空の一点が光る。それに気づいたのはリーネだ。

 レティーアに体当たりを仕掛け、自らも地面を転がる。

 レティーアが立っていた所に、何かが直撃した。激しく舞い上がる土煙。地面は大穴を穿たれていた。


「なっ!?狙撃された!?」

「一体誰が……?」


 その時、再び飛来する攻撃。

 マリアが反応し、防御結界を展開する。

 結界に命中し、大音量を立てる攻撃。結界には風の矢が刺さっている。

 どうやら、弓矢で狙撃してきたようだ。ならば、距離はかなり近いはずだ。

 だが、想像以上の威力のようで、結界に亀裂が生じ始めた。矢の威力は……一切弱まっていない。


「くっ……!弾け……ない……!」

「まずい!力を抜け!」


 アインツがマリアを突き飛ばす。その瞬間結界が崩壊し、矢が地面を穿った。

 再び起きる衝撃波。収まったとき、一行は顔を青くした。

 アインツの右腕が、肘から先が無くなっている。どうやら、さっきの攻撃で吹き飛んだようだ。


「おい!?大丈夫か!」

「ヨハネス様……ご心配には……及びませんよ……。」

「息も絶え絶えじゃないか。マルコ!アインツを下げろ!」

「くっ!だが、今ので射ってきた方向は分かった」

「アキト!それ本当!?」

「ああ。一発目は恐らく、南から放たれた。そして、二発目は一発目よりやや西から射たれた。……なら!三発目は南西方向からだ!」


 アキトは南西に向けて結界を展開する。

 すると、三発目の矢がから放たれてきた。

 南西を警戒していたアキトはそれに気づかない。

 矢が刺さる直前に、レティーアがエデンで迎撃する。直撃の反動に耐えきれず、レティーアが弓なりに飛ばされた。

 飛来した矢はアキトの左足を掠めて、近くの建物に直撃。倒壊させた。

 建物の倒壊で、ようやく攻撃に気づくアキト。訳が分からない。


「バカな!?反対まで一瞬で移動した!?それに……北東は海がある。海上から放ったとでもいうのか!?」


 そして、もうひとつ恐ろしいことがある。

 北東にはロミオス王城の搭が建っている。そこから射たれたのではないだろう。

 ならば、自然と発射点は北のロミオン海のどこかということになる。

 それは、敵が高い威力を維持したまま百メートルを越える城壁を越えて狙撃できる能力を持っていることになる。

 ……まさか、城壁の上から射ってきたのだろうか?


「マリア!狙撃眼スナイプアイで南半分を見てくれ。僕は北半分を!」

「分かったわ!」

「私に万里を見る眼を!「"狙撃眼"!」」


 同時に魔法を起動し、スナイパーを探す。

 すると、四発目の矢が北西から飛来する。それは、アキトたちに当たる前に建物にぶつかって消えた。


「……嘘!南にはいない!?」

「何!?北にもいないぞ!」

 

 ならばと思い、東と西も確認しようとする。

 五発目となる矢が飛んできたのは、その時だった。方向は……南からだ。

 その攻撃は、近づいてきたカオス=フリーデンに直撃。体を粉々にして絶命させる。

 ここで、ヨハネスが疑問を口にする。


「大体五秒間隔……?それに、時々建物や邪神に当たるのは何故だ……?あんなに的確にこちらを捉えていたのに」

「まさか……周りの様子は見えてない?」


 アキトたちはバラけて移動することにした。

 誰が狙われているのか。どこなら飛んでこないのか。それを確かめるためだ。

 大体五秒間隔ということで、通信コミュニケートの魔法で逐一連絡を取り合い、備える。

 飛来する矢から逃げ切り、五分経ってから元の位置に集まるアキトたち。犠牲者は……奇跡的にいない。

 そして、実証の結果分かったことは二つ。

 狙われたのは、アキト、レティーア、ヨハネスの三人だった。他のメンバーは、全く飛んでこなかったという。

 そして、アーチ状の建造物の側ならば、攻撃間隔が延びることも分かった。

 だが、肝心のスナイパーと狙撃位置は未だに分かっていない。


「くそっ!一体どこから……!?……射ってきてる!?」


 間一髪矢をかわすヨハネス。段々と、余裕も無くなってきた。


「狙われてるのは私たち三人!なら、他の皆はビートリアとカオス=フリーデンを!……絶対!ユースリアの恨みを晴らして!」

「任せて!ユースリアさんの仇は必ずとるから!」


 リーネが指をたてて、真っ先にカオス=フリーデンに斬りかかっていく。

 リーネの援護をするもの。ビートリアを撃破するもの。

 役割を分けてそれぞれが動き始める。


「よしっ!なら僕たちは……!……敵を探しながら生き残るぞ!」

「「当然!」」


 そして、更なる矢がレティーアを狙う。

 見つかるのが先か。全滅が先か。

 根比べともいえる戦闘が、幕を開けた。

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