第30話 <会談>

 ロミリアンに、ノーヴァ帝国の国旗をはためかせた一団が入ってくる。

 ヨハネスを先頭に、ノーヴァ帝国五将と呼ばれるうちの三人、レジーナ、アインツ、マルコが、そして軍師メリダも付き従う。

 そしてもう一人、アイマルが知らない女性も同行している。

 ノーヴァ帝国の一団は、ロミオス城前で止まる。将軍の三人が整列し、ヨハネスとその女性が馬から降りる。

 女性は、迎えに出てきたアイマルに対し、優雅な作法で一礼。


「初めましてアイマル王。私、ノーヴァ帝国フローレンス公爵家の一人娘、アナスタシア・フローレンスと申します。」

「公爵家?ヨハネス皇子よ、どういうことかな?」

「彼女は私の婚約者です。話し合いを冷静に進めるため、連れて参りました」


 それなら納得と、アイマルは一行を大会議室に通す。

 中では既にアキト、レティーア、カトレアが席についていた。リーネとマリアは、椅子の後ろで立っている。

 ヨハネスたちを席に誘導し、アイマルも椅子に座る。ノーヴァ帝国の将軍たちが、ヨハネスの後ろに控える。

 ロミオス王国とノーヴァ帝国、両国の話し合いが始まった。


「まずはロミオス王国の被害からだ。灼熱の邪神によって、ホロゥ村は焼失。ルクスヴァニラも少なからず被害を受けた」

「神都が!?それに……フラム=ベルジュだと!?……確かに、邪神と手を結んだのならば、ルクスヴァニラはともかく、ホロゥ村とやらを襲う理由は無いな」

「それで、そちらはどのような被害を?」

「あぁ。首都ノヴィスの住居の大半が破損。住民、兵士ともに多数の死傷者が出た」

「やったのはビートリアですか?」

「そうだ。……えと、名前が分からない。名乗ってもらっても?」

「失礼。僕はアキトです。一応、Sランクの冒険者なのでご存知では?」

「あの賢者と名高いアキトか。先日は、失礼したな」


 とりあえず、お互いの被害状況は分かった。

 次に、この戦争のおとしどころを探る。だが、こちらはそう上手くはいかないと思われる。

 なんせ、ノーヴァ帝国側は話し合いをしているのは皇帝ではなく皇子なのだ。勝手に話を進めていいものか分からない。

 だが、ヨハネスはお構いなしに話を進めていく。


「ちょ、ちょっと待ってほしい!」

「アイマル王?何か問題か?」

「いやいや!アレキサンドロス皇帝に確認をとらなくてよいのか!?」

「構わない。ほっといてくれていい」

「へ?」

「アイマル様。私めから補足を」


 口を挟んだのはメリダだ。軍師という立場上、話し合いを滞りなく進めることも、彼女の役目だ。


「ヨハネス様は現在、アレキサンドロス陛下と仲が良いとは言い難く、ついこのように言ってしまわれるのです」

「ヨハネス様。アレック様だけでなくアレキサンドロス様とも?」

「そうだったな。アレックとの不仲はレティーア姫は知っていたな。まぁ、おや…父上ともそうなのだ」


 今一瞬親父って言いかけなかったか?

 そう思ってしまうアキトだったが、言葉にはせず留めておく。

 その後、気にするなと言われたので、特に気にすることもなく話を進めていく。

 勘違いとはいえ、戦争を始めたのはノーヴァ帝国だ。

 ヨハネスは、全責任はノーヴァ帝国にあるとして、賠償金や復興のための人材をだすと申し出ている。

 アイマルも、戦争を仕掛けられたとはいえ、被害が大きいのはノーヴァ帝国だとして、ヨハネスの謝罪だけでいいと申し出る。

 お互いの賠償が決まり、後は正式な終戦宣言の調印式を残すのみとなる。

 ロミオス王国の騎士が、終戦宣言の書類を運んでくる。

 アイマルとヨハネスが席を立ち、書類が置かれた机の前まで歩いていく。

 ようやく戦争は終わる……。

 安堵するアキトたち。

 だが、突然アナスタシアが飛び上がるように席を立ったことで、不吉な予感がしてくる。

 彼女の様子に、ヨハネスも何か感じたらしい。


「おいアナ?一体どうした?」

「ヨハネス様……。何か……不気味な気配が近づいています」

「何!?どういうことかな!?」

「彼女が首にかけているペンダントは、気配察知の魔法を常に発動しているのです。……アナ、不気味な気配とはどういう……?」


 その時、控えていたレジーナが突然笑いだす。

 不気味な笑いが部屋を包む。

 既に、アキトとレティーア、アインツ、マルコ、ヨハネスも臨戦態勢だ。

 武器を向けられ、魔力を感じているにも関わらず、レジーナは笑いを止めない。

 彼女は、少し笑いを抑えて話し始める。


「さすがはアナスタシア様。まさか気づかれるとは」

「何だと!レジーナ!貴様は一体!?」

「怖い顔しないでくださいよ。ヨハネス様。アナスタシア様が怯えてしまいますよ?」

「くっ!アインツ!マルコ!レジーナを引っ捕らえよ!」

「「はっ!」」


 レジーナに向けて飛び出す二人の将軍。

 その突進をかわしたレジーナは、アイマルの方に顔を向けて、言葉を発する。


「こんなとこで油を売ってていいの?外は危ないよ?」

「何!?それは一体……?」


 レジーナが指を鳴らす。

 彼女の足元に魔法陣が現れたところで、アキトは彼女が何をする気かを察した。


「早く捕まえて!転移で逃げる気だ!」

「もう……遅い♪」


 マルコが自分の槍を投げつける。

 それは、レジーナの腹部に刺さる寸前で空を駆け抜ける。

 少しだけ、レジーナの転移魔法が早かった。

 そして、入れ違いに騎士のブルックが部屋に突入してくる。表情から、何か緊急事態なのだろう。


「何があったのだ!」

「アイマル陛下!カトレア姫様!避難を!現在ロミリアンをビートリアの大軍が襲撃!ノーヴァ帝国の騎士の方たちと協力して応戦しています!」

「まさか……アキト!」

「くっ……!レジーナが邪神を放った者か!」

「なっ!それはどういう……?」

「説明は後で!僕たちも参戦します!行くぞ三人とも!」

「「「勿論!行きましょう!」」」

「ヨハネス殿。貴方も避難を……。」

「アイマル王よ。心遣いは感謝するが、これはレジーナが招いたことだ。どうか、アナスタシアを安全なところまで……。アインツ!マルコ!俺たちも行く!ビートリアを殲滅せよ!」

「「はっ!」」

「ヨハネス様……。おきをつけて……」


 アキトたちのパーティー、そしてヨハネスと二人の将軍が部屋を飛び出していく。

 そんな彼らに、ブルックは慌てる。

 急いで後を追うが、もう廊下に姿はない。

 聞こえるかは分からないが、とりあえず伝えなければならないことを叫ぶ。


「中位邪神も確認しています!恐らくは、=!警戒は怠らないでください!」

 

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