第29話 <遭遇戦>

 レジーナを撤退させた後、アキトたちはレティーアを迎えにいく。

 ノーヴァ帝国の陣のなかで、レティーアは休憩を取っていた。


「おつかれさん。大将を撤退させたようだな」

「ええ。何とか勝てたわ」

「アイマル陛下が待ってる。帰ろう」


 そう言うと、レティーアと共にロミリアンに帰ろうとする。

 その時、どこからか馬の鳴き声が聞こえてくる。

 動揺する一行の前に、陣の壁を突き破って三騎の騎馬が現れる。そのうちの一人に、見覚えがあった。


「貴方……ヨハネス皇子!?」

「ホントに生きていたのか。久しいな、レティーア姫」


 黒い毛並みの馬に乗って話しているのは、ノーヴァ帝国の第二皇子で、ロミオス王国を襲撃した軍の指揮官であるヨハネスだ。

 ヨハネスは、アキトを一瞬見ると、視線をレティーアに戻す。


「それで、なぜ貴女は仇敵と共にいる?アルカディア王国を滅ぼしたのはロミオス王国だぞ?」

「違う!そんなわけ……ないじゃない!」

「そうだ!なんで僕たちがそんなことを!」

「うるさい!こちらには証拠もあるのだ!これを見てみろ!」


 ヨハネスが取り出したのは、一本の剣。その剣には、ロミオス王国の国旗が彫りこまれている。


「先日、首都ノヴィスがビートリアに襲われた。その中の何体かがこれを使っていた!ロミオス王国の冒険者!何か言い分はあるか?」

「ああ!こちらも見せたい物がある!」


 アキトが取り出したのは、ホロゥ村で拾った剣。ノーヴァ帝国で普及している剣だ。

 アキトが取り出した剣を、あり得ないものを見るような目で見るヨハネス。だが、その表情をすぐに元に戻す。


「これは、ガーゴイルが持っていた物だ!お前たちノーヴァ帝国こそが、アルカディア王国を滅ぼしたのではないか!?」

「たわけ。そんな剣、今拾ったのではないか?この場でノーヴァの騎士から奪ってないと証明できないだろう」


 確かにそうだ。ここで手に入れてないと完璧に証明する方法はない。

 どうしようか考えていると、ヨハネスを先頭に三騎の騎馬が突っ込んでくる。

 どうやら、実力行使に出たようだ。

 アキトの脇をリーネが走り抜ける。

 攻撃の構えをとるヨハネス。繰り出される槍に、リーネがミスリルソードをぶつける。

 激しい火花が散る。

 押されたのは、リーネの方だった。靴底を削りながら押し流される。


「嘘っ!?この威力……フラム=ベルジュに匹敵する!?」


 騎馬による突進力を差し引いても、ヨハネスの一撃は非常に重い。どこから力を引き出しているのか分からない。

 ヨハネスが槍を戻し、旋回してくる。旋回のタイミングで、残りの二騎も攻撃を仕掛けてくる。

 ヨハネスほどの威力はないが、それでもかなりの衝撃がリーネを襲う。

 たまらずバランスを崩してしまうリーネ。間髪入れずに、ヨハネスの追撃が襲いかかる。


「でえぇいっ!」


 眼前に迫る槍。思わず目をつぶるが、痛みはいつまでもこない。

 恐る恐る目を開くと、ヨハネスの攻撃をレティーアがエデンで受け止めていた。少しずつ、レティーアが後ろに押される。


「くっ……!すごい……力……!」

「俺の一撃がこの程度とは……。さすがは勇者といったところか」


 レティーアに迫る残りの二騎。そこに、アキトからの魔法が飛んでくる。


「やらせない!"刃狼"!」


 赤い狼が、ノーヴァ帝国の騎馬二人を襲う。

 馬に大ダメージを与えるその魔法は、二騎の騎馬を倒し、騎乗する騎士を落馬させた。

 落馬の衝撃で、足を折ってしまう騎士。もう一人は目立った外傷はないので、腰の剣を抜いてアキトと対峙する。

 睨みあうアキトとノーヴァ騎士。リーネを回復させているマリア。武器をぶつけ合っているレティーアとヨハネス。

 戦況は、完全に互角だ。

 先に動いたのはノーヴァ騎士。アキトは魔法使い。魔法を放たれる前に決めてしまおうと距離を詰める。

 だが、彼は知らない。アキトが無詠唱で魔法を使えることを。


「これでどうだ!"風拳波ウィンドブロー"!」


 風の暴力がノーヴァ騎士を襲う。顎に痛い一撃を貰ったノーヴァ騎士は、脳震盪を起こしてその場に倒れる。


「ついでだし。なんか悪いけど……"睡眠スリープ"」


 足の骨を折った騎士もついでに眠らせるアキト。用心するに越したことはない。

 リーネの回復を完了したマリアとリーネもアキトに合流する。


「恃む。二人の力を貸してくれ」

「「もちろん!何か考えがあるんでしょ?」」


 リーネとマリアがアキトに手を添える。

 アキトは、手に魔力を集めていく。魔法の狙い先は、レティーアと戦っているヨハネスだ。


「これで!"狙撃雷電スナイプボルト"!」


 アキトの手から電流が迸る。

 その電流は、ヨハネスの乗る馬に迫る。

 ヨハネスの馬は、反射神経で電流を避ける。だが、不意に暴れる馬に対応しきれず、ヨハネスが落馬する。


「くそっ……!なんだってんだ!?」


 顔をあげるヨハネス。その首に、エデンが突きつけられる。


「勝負あった!話を聞いて!」

「ちっ……!……仕方ねぇ」


 大人しく武器を置くヨハネス。

 アキトが近づき、交渉に入った。


「ノーヴァの皇子よ。ロミリアンで交渉できないだろうか?アイマル王からそう伝えるよう言われている」

「……仕方ない。お互いの誤解を解くとしよう」


 交渉は纏まった。三日後、ロミリアンで会談を開く。

 ヨハネスは、馬に騎士二人を乗せて本陣へと帰っていく。

 アキトたちはそれを見送ると、自らもロミリアンへと帰っていく。





「ふぅーん。ロミリアンで会談……ね。……チャンス♪邪魔な勇者と解放者を消せるわね」


 どこからともなく声が聞こえる。声の主は、女性だ。

 その女は、不気味に笑う。その横では、無数の羽音が響いている。それに混じり、龍が鳴く。


『……それで?私は今回も狙撃なのかな?』

「そうよ。よろしくね♪=


 

 ……そして迎える会談の日。

 それは、大きな波乱の幕開けとなる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます