第27話 <開戦>

 夜中、部屋から響くシャワーの音で目が覚めた。そして、誰がいるかは想像に難くなかった。

 アキトは、カトレアを部屋に帰そうとベッドから降りようとする。

 そんなアキトの腕を、横合いから掴むものがいた。反射的に振り返ると、ベッドにはすでにカトレアが潜り込んで、気持ち良さそうな寝息を立てていた。


「……もう手遅れだったか。"転送トランスファー"。」


 送り先は……カトレアのベッドでいいだろう。

 カトレアを起こさないように魔法で部屋まで送り届けた。

 ……さて、カトレアではないなら、シャワー室を使っているのは誰なのか?ゆっくりとシャワー室に近づくアキト。

 中から人の気配がする。シャワーの音はもう聞こえないので、着替えの最中だろうか?

 相手が女性だった場合を想定し、下着を着け終わるであろうタイミングを見計らって、アキトはシャワー室に突入する。


「えっ!?アキトさん!?」

「おま……レティーア?」


 シャワー室には、レティーアがいた。予想通りの下着姿だ。

 まずは服を着てもらう。話はその後だ。

 数分後、服を着たレティーアをベッドに座らせる。事情聴取の始まりだ。


「なんで、こんな夜中に僕の部屋に?」

「えと…話したいことがあったけど、アキトさん寝てたから。……だから、シャワーでも浴びようかな~……って。」

「いろいろ言いたいことはあるけど、話ってなに?あと、さん付けしなくていいからね?」


 そう言うと、レティーアは静かに話し始めた。内容は、主にノーヴァ帝国のことだった。


「ノーヴァ帝国のヨハネス皇子は、アルカディア王国で助けてくれたんです。……なんとか、戦いは避けられないかな?」

「うーん。仕掛けてきたのは向こうだからなー。こちらがどうこうするのは……」

「……そうだよね。私たちじゃ……どうしようもないよね」


 少し、泣き出しそうな顔になってしまうレティーア。見ているとこっちが辛い。


「ねえ?……アキト。私、今とっても悲しいの。少しだけ、こうしてもいい?」


 言うやいなや、アキトの肩に頭を乗せてくるレティーア。湯上がりの彼女からは、何だかいい匂いもする。

 胸がドキドキする。とりあえず落ち着いてもらおうと、レティーアの頭を撫でようとする。

 その時、窓の外から轟音が響き、折角の機会がお預けとなってしまった。

 少し残念だが、今はそれどころではない。先程の音は、おそらく壁上の魔導固定砲の発射音だろう。つまりは、敵襲だ。

 参戦したほうがいいかもしれない。

 そう考えたアキトとレティーアは、急いで準備をする。

 ドアがノックされ、騎士が一人入ってきた。


「敵襲!アキト殿!援護をお願いしたい!あと、レティーア殿も!」

「分かりました。敵はビートリアですか?」

「いえ、ノーヴァ帝国の騎馬隊です!」


 レティーアが息を呑んだのが伝わってきた。相手は騎馬隊。であるなら、ヨハネス自身が率いていてもおかしくはない。

 騎士に続いて部屋を出る。廊下を走っていると、途中でリーネとマリアも合流。城壁へと急いだ。

 無駄に長い階段を駆け上がり、五分ほどかけて壁上にたどり着く。そこは、悲惨な光景が広がっていた。

 魔導砲を使う魔法使いの腕に、ノーヴァ帝国製の矢が突き刺さっていた。的確に狙撃してきたのだろう。

 また、投石機を使われたようで、大砲やバリスタなどは一部、またはボディーすべてが壊されていた。

 これでは、壁上からの援護攻撃は期待できそうにない。幸いにも、周囲に飛行している魔物や魔獣は見当たらない。

 ノーヴァ帝国軍に動きがあった。

 きっちりと整列していた騎馬隊の合間から、一人の人物が歩み出てくる。体全体を鎧で覆った、ノーヴァ帝国の騎士だ。

 その顔から、女性だということがわかる。


「私は!ノーヴァ帝国五将の一人!レジーナよ!邪神と手を結びし魔の手先よ!我々との戦闘を申し込む!」


 なにを言われたのか理解できなかった。

 ロミオス王国が邪神と手を結んだ?冗談じゃない!現に、ルクスヴァニラにフラム=ベルジュの炎は放たれてしまった。

 だが、そんなことは置いておこう。これで、アキトには一つハッキリとしたことがある。

 あの様子だと、帝国も邪神による被害を受けた。そして、その現場にロミオス王国の何かがあったのだろう。

 つまりこの戦争は、第三者の悪意ある策略というわけだ。

 そして、恐らくそれは邪神を放った一派だろう。何を考えているかは分からないが、早急に排除しなくてはならない。

 ……とりあえずは、目の前の敵を倒さなくてはならない。

 邪神をどうこうしてる間に、ロミオス王国は滅んでしまいました。……なんて、冗談では済まされないからだ。

 こちらの意図を伝えようと、アキトは息を大きく吸う。

 だが、そんなアキトよりも早くに口を開くものがいた。


「私は!アルカディア王女のレティーア!ノーヴァ帝国の将よ!ヨハネス様と話をさせてほしい!」


 どうやら、レティーアはまだ諦めていないらしい。緊張した面持ちで、レジーナを見つめる。

 ……だが、望んだ答えは返ってこなかった。


「それはできない!ヨハネス殿下に会いたくば、この私を打ち倒してから行ってみなさい!」


 その一言が放たれた途端、ノーヴァ帝国の騎馬隊が突撃の陣形に切り替わる。

 そして、その言葉を聞いたレティーアも城壁から飛び降りた。慌てて後を追うアキトたち。

 下まで降りると、城門の前に多くの兵士や騎士が待機していた。その光景を軽く見て、レティーアの元へ向かう。

 

「レティーア。僕も行こう。お互いに誤解しているこの状況を、どうにか正さないと。ヨハネス皇子なら、話もわかるはずだ」

「ええ。私もそう思う」


 そんな二人の後ろから、立派な馬が近づいてきた。上には、ロミオス国王のアイマルが騎乗している。


「レティーア殿。この軍の指揮権をお主に預けたい。必ずや、勝ってくれ」

「アイマル王……。分かりました。皆!準備はいい!?」


 レティーアの声に反応して、叫び返す兵士たち。気合いは充分だ。ゆっくりと開かれていく城門。


「分かった。それじゃあ……」



 時を同じくして、ノーヴァ帝国軍にて。


「ノーヴァ帝国の騎士たちよ!覚悟はできたか!」


 こちらも、ロミオス王国軍に退けをとらない大声だ。騎士たちが叫び返す。


「ならばよし!総員!構え!では……」


 

 そして、レティーアとレジーナが同じ命令を、同じタイミングで下す。


「「突撃開始!」」

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