牙を剥く天空の支配者

第22話 <出征>

 道に、無数の魔物の死体が転がっている。その魔物は、ビートリア。

 ビートリアとは、邪神が生み出す魔物の一種で、素早い動きでの空中戦を得意としている。

 そんなビートリアが転がっているのは、ノーヴァ帝国の首都、ノヴィス。

 ノヴィスは、ビートリアの襲撃を受けた直後だった。


「おのれ……なんということを……!」


 ノーヴァ帝国の皇帝、アレキサンドロスは憤りを露にする。先の襲撃で、住民や兵士に多くの犠牲が出てしまったのだ。


「必ずや報復をしてやる!おい!ヨハネスはどうしてる!?」

「はっ!ヨハネス殿下なら今、出征する兵士たちに演説を!」


 


 城の中庭、そこに大勢の兵士が集められている。彼らの前には演説台と、それに乗る一人の男がいる。


「諸君!我らノーヴァ帝国は、非道にも奇襲を受けた!必ずや、亡くなった人たちの仇を討たねばならない!」


 兵士に向かって演説しているのは、ノーヴァ帝国の第二皇子であるヨハネスだ。

 彼もまた、襲撃を受けたことに対して怒りを抑えられない。


「そして、その犯人も分かっている!邪神と手を結んだ魔の国に、我らの裁きを加えるのだ!」


 ヨハネスは、側近の兵士にあるものを持ってこさせる。それは、の国旗が彫り込まれた剣。

 ビートリアの数体が、この剣を使っていたのだ。

 ヨハネスは、証拠となる剣を掲げて、宣言する。


「よって!我らはこれより!闇の国たるロミオス王国を滅ぼす!これは、人類の暮らしを守る聖戦だ!」


 ヨハネスの号令が轟くと、集まっていた兵士たちが叫ぶ。彼らの中にも、襲撃で家族や友人を失ったものが多い。

 

「出発は明日の早朝!それまでに準備を整えよ!解散!」


 兵士が散っていった中庭。残っているのは二人。ヨハネスとメリダだ。


「ヨハネス様。その剣は本物ですか?偽物だった場合、国家問題ですよ。」

「偽物?何が言いたい?」

「もし、ロミオス王国側にノーヴァ帝国の武器で攻撃が起こっていたら?何者かが私たちを争わせようとしてるのではないでしょうか?」

「くだらん。そんなことあるわけないだろう。誰が得するのだ?……それに、国家問題になった場合、責任はすべて親父が負う。俺は何も関係ない」

「得するといえば……スノリア連合国でしょうか?……でも、確かにありえませんね。出すぎた真似、大変失礼しました」

「構わない。俺たちを思って言ってくれたことだ」


 メリダを引き連れ、城へと戻っていくヨハネス。

 その廊下で、呼び止められた。

 声をかけてきたのは、アレック。ノーヴァ帝国の第一皇子だ。


「よぅ、ヨハネス。戦争だと聞いたぞ?」

「その通りですよ。兄上。ノーヴァの正義を貫くときです」

「ふっ……。正義……か。頑張れよ。お前がどれだけやれるかは知らんがな。ハッハッハ!」


 ヨハネスの肩を叩いて、アレックは去っていった。

 アレックがいなくなると、ヨハネスはハンカチで肩を拭う。彼にとって、アレックは心底憎む存在だ。


「どれだけやれるか……だと?少なくとも貴様よりはできるさ」

「ヨハネス様。聞こえてしまいますよ」

「おっと。気をつけないとな」


 その後、ヨハネスは部下を連れて自室へと帰っていった。

 



 そして、次の日。

 ノヴィスの城壁の門が開かれた。待機しているのは、ノーヴァ帝国の誇る騎馬隊。一騎当千の精鋭が何人も含まれている。


「すぅー……進めぇ!我らの怒りを知らしめるのだ!」


 ヨハネスが掛け声を掛ける。それに応じて、ノーヴァ帝国の騎馬隊が一斉に走り出した。

 仇であるロミオス王国を討ち滅ぼさんと。



 ロミオス王国の王城では、緊急で会議が開かれている。広間には、全貴族が集められていた。


「さて、本題に入ろう。先ほど、ノーヴァ帝国から宣戦布告を受けた。我が国は、ノーヴァ帝国と戦争に入る」


 ロミオス国王、アイマル・ロミオスは重い口調で語る。同じく、貴族たちもざわつきだした。

 アイマルは言葉を続ける。


「よって、心苦しいが法律を改訂する。これより、冒険者も戦争に協力してもらう法律へと改訂することを決定した」


 それは、戦える者すべてを動員するということ。

 だが、そうしなくてはならない理由もある。単純なノーヴァ帝国の兵士の強さだ。

 ロミオス王国やノーヴァ帝国を始めとする国々は、巨大大陸ユーロンに存在している。

 そして、ノーヴァ帝国の兵士は、アルカディア王国なき今、ユーロン最強と言っても過言ではない。

 兵士対兵士では、ロミオス王国に勝ち目は薄いのだ。


「何としても生き残り、彼の国と再び友好的な関係を築けるよう、皆で頑張ってほしい」


 いつもは乱れる貴族たちも、今回ばかりは全員が賛同する。これは、国家の一大事だ。

 こうして、ロミオス王国内の冒険者たちに緊急待機令が発令された。

 これより、魔獣や魔物。及びノーヴァ帝国の兵士たちと戦えるよう備えよ……と。




 両国が動くなか、不気味に笑う者たちもいた。

 それぞれの場所で、違う計画を進める。


「ノーヴァとロミオスが殺りあうか。この隙に、スノリアに一手打っておこう」

「順調。あの方の指示通り、うまく動いてくれましたわ。あとは、頃合いを見て再度奇襲あるのみ♪」

「うまくいった。フラム=ベルジュを失ったのは痛いが、計画に支障はない」

「よし、この隙にソウルクリスタルを確保せよ。兵力が削られる今が狙い時だ」


 そして、そのうちの三人は、思考が完全に一致する。


「「「必ずや成し遂げる。すべては、理想の世界のため。邪神王様のために」」」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます