第21話 <襲撃の裏側で>

 フラム=ベルジュが討たれたその日の夜、裏路地を歩く一人の男がいた。

 その男は全身を黒い服で覆い、気配探知阻害の魔法をかけて歩いている。

 突然、男の足元に黄金の矢が刺さった。瞬時に反応して飛び退くと、後ろから風の矢も飛んでくる。

 二発の矢をかわし、男は犯人を睨む。


「……誰です?どうして気づきました?」

「当然。私はルミエール。気配以外にも気づく方法はありますよ」

「僕も一応賢者だ。気配ではなく魔力を探知した」

「なるほど。……それで、天使と賢者が何の用です?」


 男は、警戒を解くことなく二人------ルミエールとアキトを見続ける。


「今回の一件、おかしなことが多かった」

「その通り。ルクスヴァニラの城壁には、結界が張られています。ですが、その結界をガーゴイルは易々と突破して町に侵入した」

「邪神ならともかく、侵入したのはガーゴイル。不自然すぎるだろ?」

「……それで?それと僕がどうつながるのです?」

「……結界に、細工された跡が見られた。魔の存在でも通れるように」

「その細工に使われた魔力を逆探知したら、お前にたどり着いたんだ」


 男は歯がみする。まさかそんな見落としがあるとは思ってもいなかった。

 半歩後ずさる男に、ルミエールとアキトは指を突きつける。


「「お前が、フラム=ベルジュを町に招いた犯人だ!」」

「ちっ……!そこまで知られたか。だが、大いなる計画の邪魔は……」

「もういい。その変化魔法を解くんだ」

「「なっ!?」」 


 男とルミエールが、同時に驚いた。

 男は変化魔法を見破られたことに。ルミエールは男が変化魔法を使っていたことに。

 驚愕する二人をよそに、アキトは解除魔法を唱える。

 変化を解かれたそいつは、体に大きな特徴があった。

 黒い服からのぞく、聖なる紋章が浮かぶ右目。背中には、純白の翼がある。

 そいつは、紛れもなく天使だった。

 そして、ルミエールはその顔に見覚えがある。


「あなた……ニィエル!?」

「……。」


 その天使は、ニィエル。ミカエルの部下の一人だ。

 ニィエルは無言を貫いている。だが、その目には深い憎悪の感情が溢れている。


「どうして?だって貴女は!?」

「……どうして?それを聞きますか?」


 心が凍りつくかのような威圧。一介の天使とは思えないほどのプレッシャーだ。

 その迫力に、アキトの頬から冷や汗が流れる。

 

「私は、世界の真実を知った。すべてはこの世界を守るため。……世界を存続させるため。世界を統べるに相応しいのはマーロじゃない。邪神王様よ!」


 世界の……真実?

 ニィエルの口から語られた言葉は、よく分からない。

 ニィエルは、片手で虚空を掴み、引っ張る。その手には、ニィエルの武器が握られている。

 悪しき者に死の救いをもたらす、天の大鎌。

 その切っ先をルミエールに向け、ニィエルは飛翔する。


「私は!貴女たち神の欺瞞を打ち砕く!それが!邪神王様のためとなる!」

「……そうか。そこまで堕ちたか」


 突如として響く声。

 声のした方向をニィエルが向くと、何者かが手をつきだしていた。


「ニィエル……許せ。"天翔る光の閃光シャイニングライト"」


 突きだされた手より放たれた黄金の光は、狙い違わずニィエルの胸部を貫通した。

 左の翼が根本から千切れ、地上へと落ちていくニィエル。

 その光景を、ルミエールとアキトは見届けた。ニィエルには、彼女なりの正義があったのだと思って。

 ……それでも、邪神を呼び寄せて町の人を危険にさらしたことは許してはいけない。

 地上に叩きつけられたニィエルは、苦しみに顔を歪めたあと、動かなくなる。地面を、赤い液体が濡らしていった。

 ニィエルを倒した人物は、ゆっくりとルミエールたちに近づいてくる。

 四対の純白の翼。頭上に光輝くのは天使の輪。

 戦天使、ミカエルだった。


「……ニィエル。どうしてこんな」

「……ミカエル様。世界の真実ってなんだと思います?」

「世界の真実……だと?……それが、ニィエルをこうまで突き動かしたのか?」

「恐らく。僕は、何か嫌な予感がするんです」

「アキトの言う通りだろう。これは、調べてみる必要がありそうだ」


 ニィエルの体をルミエールが調べている。

 そこで、あるものを見つけた。


「この宝玉……なんと禍々しい……」


 ルミエールの手には、赤黒い宝玉が握られていた。その魔力は、闇の塊ともいうべきものだ。


「うん?何だそれは?」

「もしかして……邪神の維持を行うもの?」

「……そうか!邪神の復活は完全じゃない!」


 アキトとミカエルは、同じことを閃いた。これが正しければ、人類でも邪神に勝てる!

 理解が追いつかないルミエールは、二人に詳細を尋ねた。


「邪神は恐らく、完全復活に向かっている段階なんだ」

「だから、体の維持を行う必要がある」

「そこで、この宝玉の出番というわけだ。邪神を放った術者がこれで維持を補助する」

「つまり、この宝玉を、もしくは術者を倒すことができれば……」

「「邪神と戦うことなく、倒すことができる」」


 光明が見えた。

 フラム=ベルジュの言葉から、少なくともあと一体は六大邪神がいると予想される。

 だが、この理論なら被害を抑えつつ討伐ができるかもしれない。

 三人は、顔を見合わせて喜んだ。絶対に勝てると。

 ニィエルの件は残念だったが、収穫はあった。これは、大きな一歩となる気がする。

 三人は、手を合わせて誓う。

 すべての邪神を倒し、人の世に真の平和をもたらそう……と。

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