第20話 <光差す町>

 激しい攻防が繰り広げられている。

 フラム=ベルジュが剣を凪ぐ。その攻撃を、レティーアが防いでいる。

 舞い散る火の粉。焦げていく地面。フラム=ベルジュの炎は、周囲のすべてに火をつけていく。

 対するレティーアも負けていない。エデンの力を引き出し、互角以上に渡り合っている。


『よい!よいぞ!血沸き肉踊るこの感じ!これこそが戦いというものよ!』

「やあああぁぁぁっ!!」


 響く高い音。エデンとサンドリアンが、何回目とも分からない激突を起こした。

 一度退き、態勢を立て直す両者。

 周囲の魔力が集まり始めた。どうやら、お互いに奥義を放とうとしているらしい。

 一気に決めて、形勢逆転を狙っている。

 先に技の構築が完了したのは、フラム=ベルジュだった。


『我が炎。神の火。身の程を忘れし獣に与える死の火炎。生命にあるべき滅びを!"天地焼却の魔炎オリジン・エンペラーフレイム"!』


 漆黒の炎が地を這いずる。

 それは、触れるものすべてを溶かしながらレティーアへと迫っていく。

 これが、フラム=ベルジュ最強の一撃。灼熱の邪神と呼ばれる由縁。

 万物を灰へと還す無慈悲な炎が、現代で再び放たれた。

 その時、レティーアの技も構築完了。炎を打ち消さんと放つ。


「"トリトンシェイバー"!」


 猛烈な水の塊が炎に衝突する。黒い炎を消すには至らないが、炎の進行は阻止できている。

 ……が、邪神最強の一撃は容易に止められない。レティーアの技が逆に燃やされていっている。

 

【必要なのは、イメージ……】


 フラム=ベルジュの炎が迫るなか、レティーアはその時をじっと待つ。


【大事なのは、皆の想い……】


 レティーアの持つエデンが、刀身を発光させ始めた。

 レティーアは、さらにもうひとつ大技を放とうとしているようだ。

 嫌な予感がしたのだろう。フラム=ベルジュが黒い炎を掻き分けて突撃してくる。

 フラム=ベルジュの追撃を、レティーアは受け流す。詠唱を止めることはない。

 剣での攻撃では効果が薄いと見たフラム=ベルジュは、レティーアに向けて回し蹴りを放つ。

 一度に三本の足がレティーアを襲うが、それを難なくかわす。

 エデンの刀身から雷が放たれ始めた。技の発動はすぐそこまで迫っている。

 さすがに慌てるフラム=ベルジュ。飛び下がってから魔力を魔炎に流した。

 勢いを増し、レティーアの魔法を焼きつくして進む炎。それは、瞬時にレティーアまで到達、その身を呑み込んだ。

 勝利を確信するフラム=ベルジュ。マーロがいるクリスタル山に向けて進もうと、背中を向けた。

 炎がかきけされた。フラム=ベルジュは振り返り、絶句する。そこにいるレティーアは、火傷ひとつない。


『バカな!?人間ごときがあの炎に呑まれて無事だと!?』

「私は、最後まで諦めたりしない。私の隣を歩んでくれる仲間のため!ここにお前を討つ!」


 エデンの刀身が光に満ちた。成功するかは五分五分。

 それでも、レティーアは挑戦する。フラム=ベルジュに接近、エデンに蓄積した魔力を解き放った。


「いっけぇ!"希望の剣ソード・オブ・レイ"!」


 ……それは、ソルティアが編み出した必殺の一撃。勇者にのみ許される奥義。

 愛する者を、人類を救済する聖なる攻撃。そして、邪神を討ち滅ぼす力。

 かつて邪神王を行動不能に追い込んだ一撃は、フラム=ベルジュの全身を蝕む。

 あの邪神王でも無事では済まなかったのだ。その配下たるフラム=ベルジュでは、死へと直結する威力だろう。


『ぐわぁ!?まさか……こんな早くに……それだけの力を……!』

「成功した……!フラム=ベルジュ!アルカディアの仇は……討たせてもらった!」

『ぐふっ!?……見事。だが、忘れるな……。邪神は……ワシのみに非ず……。他にも……天空の……』


 生命活動が停止し、体が朽ちていくフラム=ベルジュ。それはやがて、塵となって風に運ばれていった。

 最後に気になることを呟いていたが、今は置いておこう。折角の勝利なのだ。

 フラム=ベルジュが討たれたことで、放たれていた炎が鎮火した。同時に、空を飛ぶガーゴイルたちも消滅していく。

 レティーアは、エデンを天に掲げた。その勇姿を、エルモンドたちアルカディア王国の人々が見えるよう、祈りを込めて。

 拍手が巻き起こる。いつのまにか、ルクスヴァニラの住民たちが集まっていた。

 彼らは、皆一様に勇者の再臨と、レティーアの偉業を誉め称えている。


「レティーアー!」


 リーネが飛び付いてきた。

 嬉しいのだが、人が見てる前ではやめてほしい。恥ずかしいから。

 リーネに続いてアキト、マリアもこちらに来てくれる。


「素晴らしいわ!本当に邪神を討つなんて……!」

「見てみろ。彼らの笑顔を。レティーアが守った笑顔なんだ」


 ……あれ?おかしいな。

 レティーアは、感情が制御できずにいた。目から涙が止めどなく溢れてくる。


「レティーア?泣いてるの?」

「いや、泣いてないもん!」


 まだ目に涙を残して、レティーアも笑顔を作る。



 人類の歴史が動いた瞬間。かつての勇者でも討伐できなかった邪神の一体が、今ここに討たれたのであった。

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