第18話 <覚醒>

 試練に挑み続けているレティーア。虚ろな目で足を進める。

 彼女の心は、もう壊れかけていた。

 リーネとの別れを乗り越えれば、次に待っていたのはマリアの死。

 そこで動揺して、また戻る。精神的なダメージだけが積もりに積もっていく。

 次で、二万回目の挑戦。エルモンドたちの悲鳴を無視し、アキトたちと出会う。

 問題は、ここからだ。レティーアの心が壊れるのが先か。試練をクリアするのが先か。

 それは、誰にも分からない。

 そしてまた、レティーアたちの前にフラム=ベルジュが立ち塞がった。剣を振り上げる。

 刹那、すべての時が止まった。どこからか、声も聞こえる。


『……ア!……ーア!レティーア!聞こえるか!?マーロじゃ!』

「……マーロ……様?」

『聞こえとるの!一大事じゃ!ルクスヴァニラが邪神の襲撃を受けておる!』


 レティーアの全身から血の気が引いた。試練で見た光景が、現実になるかもしれないという恐怖からだ。


『お主を引き戻す!今は逃げるのじゃ!』

「待って!すぐに試練を乗り越えます!あと一回!あと一回待ってください!」


 時が戻る。

 フラム=ベルジュの攻撃でリーネが死亡するが、振り切って走り出す。

 これは虚像。もたつくと現実になるぞ。

 自分に言い聞かせ、ただひたすらに走る。

 彼女の瞳に、いつの間にか光が戻っていた。諦めない、希望の光が。

 マリアとアキトの死体を無視して、道の先、光の中心へたどり着いた。

 輝きを放つのは、聖剣エデン。それは、勇者の到着を喜んでいるかのように見えた。

 剣の柄に手をかける。エデンを、抵抗なく持ち上げることに成功する。

 エデンを空高く掲げ、光を解放する。レティーアを覆っていた漆黒が消え去り、元の洞窟へ戻ってきた。

 遂にレティーアは、試練を克服したのだ。


「おぉ!レティーア!遂にやったのか!」

「はい。ですが、時間がありません。私をルクスヴァニラまで!」

「任せろ!それはワシの仕事じゃ」


 マーロ様が指をならす。瞬時に転送魔法が起動し、レティーアは大通りに立っていた。

 目の前には、建物にぶつかり倒れるリーネ。フラム=ベルジュが、今まさにトドメを刺そうとしていた。


「あの時は、死なせてしまった。……でも、今の私には、守る力がある!」


 気づけば全力で走っていた。落とされる双剣にエデンをぶつける。

 黒煙と炎、そして金属音が鳴り響く。

 黒煙が晴れ、フラム=ベルジュと対峙するレティーア。

 フラム=ベルジュが攻撃をしてくる。その様子を冷静に見極めてから、レティーアは攻撃に移った。

 突進するフラム=ベルジュ。その口から炎を吐き出し、レティーアを焼き殺そうとしてくる。

 だが、レティーアも対抗してエデンの力を解放。濃密な魔力の塊で、炎を防ぎきった。

 交差するレティーアとフラム=ベルジュ。すれ違い様にお互いが剣を振るった。

 空を舞う血。レティーアの肩口に斬閃が刻まれる。

 だが、フラム=ベルジュの傷が大きい。右腕に、大きく斬られた痕がハッキリと残っている。


『なに!?ワシの体に傷じゃと!?』


 驚愕で顔を歪めるフラム=ベルジュ。フラム=ベルジュにとっては、体に傷がつくこと自体が初めてなのだ。

 

『かつての勇者でも不可能だったのに!貴様……!奴よりも……強いというのか!?』


 ソルティアも、フラム=ベルジュに傷をつけることはついにできなかった。

 それに、聖剣の力を手にした直後に引き出せてることからも、レティーアの資質が分かる。

 

『面白い!それでこそワシと戦うべき相手よ!』

「無駄口を……!リーネに対する仕打ち!命であがないなさい!」




「すげぇ……。圧倒的じゃんか……!」


 目の前で繰り広げられる光景に、アキトは驚愕している。

 メタリスを倒してから、まだ五分。その間に起きた出来事は、アキトが今まで体験したことのないほど忙しい。


「助かった……。でも、やっぱりレティーアは……!」


 リーネがアキトの隣に立ち、同じく驚いている。


「すごい……。もしかして、ソルティア様よりも強いのかしら?」


 リーネに回復魔法をかけつつ、マリアが呟いた。神話で語られるソルティア以上の強さを、レティーアが見せつけている。

 とても信じられない光景だ。人間と邪神が互角なんて……。

 一際大きな音が鳴る。レティーアが、フラム=ベルジュの持つ剣を一本弾き飛ばした。




『ぐぬぬ。よもやこれほどとは……!』


 フラム=ベルジュは、内心焦っていた。力は、レティーアが勝っている。フラム=ベルジュは、経験を生かして戦っている状態だった。


『まずい……。このままでは押しきられる。あの方に……どう顔向けすればよいのだ……!』


 思考の途中でも、レティーアの攻撃は止まらない。体をひねった攻撃で、サンドリアンが一本飛ばされた。


「とった!ここで決めてあげる!」

『くそっ……!……そうか。ならばこうだ!』


 フラム=ベルジュは、地面を削って砂ぼこりをあげた。

 レティーアが振り払うと、フラム=ベルジュは逃げている途中。通りを曲がるところだった。


「待て!逃がさない!」

「止まれレティーア!罠かもしれない!」


 アキトが警告してくれるが、もう追い詰めている。罠はない。

 そう判断して、通りを曲がった。


「……え?」


 レティーアの口から、声が漏れる。

 そこでは、フラム=ベルジュが待ち構えていた。……周囲にソウルクリスタルの破片を漂わせ、民間人を地に伏せさせている状態で。


『貴様が避ければ、あの者らは灰となろう。さぁ、どうする勇者よ!』


 フラム=ベルジュが腕を勢いよく振り下ろす。

 それに呼応するように、ソウルクリスタルは、邪神の炎となってレティーアに向かって降り注いだ。

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