第17話 <邪神強襲>

「そうきたか……!マーロ様を狙うとは……!」


 ミカエルが歯がみする。

 幸いにもレティーアとマーロ様は同じところにいるため、護衛の天使たちを動かす必要はないが、読みが外れたことで予測が狂う可能性があった。

 アキトたちには、なぜマーロ様が狙われたのか分からない。

 マーロ様は確かに強いが、邪神軍の障害になるとすればやはり勇者であるレティーアだろう。それでも、奴らはマーロ様を狙った。

 心を読めるルミエールが、アキトの疑問に答える。


「恐らくは、神剣の顕現を阻止するためね」

「神剣?なんですかそれ?」

「神剣グランドライト。宝珠と呼ばれる物をエデンに装着して儀式を行うことで顕現するの。儀式のやり方は、マーロ様のみが知ってるわ」

「神剣は、邪神に対抗する最大の力。だから奴らはマーロ様を狙ったんだろう」

「……あれ?教会ではそんな伝説習いませんでしたわ」

「それは、昔顕現に失敗したからだ。儀式直前に邪神王の襲撃を受け、そのまま決戦になったのさ」


 つまり今回も、最大の脅威である神剣を封じようとしているのだろう。

 勇者を狙うよりもマーロ様を狙うほうが成功しやすいと判断されたに違いない。

 ただ、レティーアは今この町にいる。それはつまり……。


「……調査不足だろうな。……あれ?これはフラム=ベルジュを倒すチャンスでは?」

「え!?どういうことアキト!」

「レティーアがエデンを手にするまで耐え抜けば不意を討てる。さすがのフラム=ベルジュも、奇襲ならば……!」

「ええ!きっと倒せますわ!」


 その時、城壁の外に赤黒い破片が見えた。

 また、フラム=ベルジュの必殺技。ソウルクリスタルを利用したあの炎が放たれようとしている。

 破片は、城壁の一点を狙って一気に襲いかかってきた。その温度は、城壁を軽く溶かすことができるだろう。

 災厄の炎が城壁に向かう。その前に、ミカエルを始めとする天使たちが立ち塞がる。


「絶対に!やらせはしない!」

「「「連携魔法!"聖盾障壁ハードパージウォール"!」」」


 無数の炎が障壁に当たる。爆発と延焼を繰り返す邪神の炎は、魔法を行使している天使たちを一人ずつ灰に変えていく。

 障壁が薄くなり、一部に穴が空き始めた。一体どこまで耐えきれるかは分からない。

 十数分にも及ぶ炎の猛撃が収まった。生き残ったのは、ミカエルを含む当初の三割。

 

「はぁ……はぁ……。凌いだわよ。」

『あぁ?ワシの炎を防ぎきるとはな。面白いではないか!メタリス!進軍せよ!』

『『ガハハハッ!ガーゴイルドモ!ツヅクノダ!』』


 二体のメタリスがルクスヴァニラに向かう。多数のガーゴイルを引き連れて、天使の防御網を突破した。

 城壁を破壊して、町に流れ込む邪神の軍勢。大通りを駆け上ってクリスタル山を目指す。

 だが、それは予想通りだ。アキトたちが罠を仕掛けている。


「今だ!やるぞマリア!」

「ええ!人類をなめないで!」

「「連携魔法!"鎖状捕縛結界キャッチリストラクション"!」」


 メタリスの足元に浮かぶ巨大な魔法陣。それは、魔力の鎖を出現させてメタリスを縛り上げた。

 強固に固定されるメタリスたち。抵抗を試みるが、鎖はほどけるようすはない。


『『チクショ!ハズレヤガレ!』』

「よし、止まった!やれリーネ!」


 アキトの掛け声で、金色の軌跡が走り抜ける。

 メタリスを踏み場にして空中へ跳ぶ。リーネはそこで、体を大きく回した。

 手に持ったミスリルソードが、遠心力で大きく弧を描く。一種の真空状態となったその空間に、ガーゴイルが次々と吸い寄せられていく。

 触れるものを破壊するリーネの攻撃に、巻き込まれて散り散りになっていくガーゴイルたち。

 メタリスが引き連れていたガーゴイルは、すぐに全滅した。

 リーネは、狙いをメタリスに変更する。

 一度地上に降りて急加速。メタリスの脚を狙って、ミスリルソードを振り抜いた。

 アキトとマリアが本気で強化魔法をリーネにかけていたことも影響し、メタリス一体の右脚を切り落とすことに成功した。

 絶叫とともにバランスを崩すメタリス。拘束されているので、不格好な姿勢だ。


『ヤッタナ!"ジュウヒロウ"!』


 残るメタリスがリーネに魔法を放つ。

 放たれたのは重疲労という魔法だ。呪い系統の魔法で、決まると一生疲労感に襲われるという迷惑かつ凶悪な魔法だ。

 その魔法は、マリアの魔法で対抗する。


「反転せよ。呪いの力。"鏡面魔法ミラージュ"」


 メタリスの魔法は、向きを180度変えて戻っていく。

 メタリスは、自分自身の呪いにかかり、脱力してしまう。

 二体の頭の位置が重なった。同時に討てるチャンスだ。決めるのは、もちろんアキト。


「彼の者に私の魔力を。"魔力増強パワー・ドーピング"」

「終わらせる!"超剛弓ギガ・バリスタ"!」


 アキトが使うことのできる魔法の中で、最も貫通力の高い一撃が放たれる。

 その風の矢は、メタリス二体の頭を貫通して遠くへと飛んでいった。

 史上初めて、勇者以外の人間が中位以上の邪神を討伐した。それも二体だ。

 リーネとマリアに安心の表情が戻る。


「よし!いけそうじゃない!」

「あとは……。レティーアが帰ってくるのを……!」


 背後から感じる殺気。リーネが反応して迎撃を選択する。

 激しくぶつかる剣。リーネのミスリルソードが軋んだ音を出した。


『余興は楽しめた。本番といこうか。……しかし、ワシの滅剣サンドリアンでの攻撃を受けて耐え抜くとは』

「ちっ……!かなり厳しいわよ!」

『うむ?貴様らは見覚えがあるぞ。燃えてはいなかったのか』


 まずい!レティーアがいることを気づかれたかもしれない。

 ここで退かれては、人類は恐怖に怯えて暮らすことになってしまう。なんとしても、レティーアにエデンで戦ってもらわなくては。

 幸い、フラム=ベルジュに撤退する気はないようだ。サンドリアンに込められる力がより一層強まる。


『はぁ!吹っ飛ぶがいい!』

「くっ……!あぁ!」


 遂に耐えきれず、リーネが飛ばされた。

 建物にぶつかり、すぐには動けない。

 そこに迫るフラム=ベルジュ。両手に持った剣に炎が宿る。


『……まずは、お前から焼いてくれよう。』

「だめ!やめてぇ!」

「くそっ!やめろぉ!」

「ミカエル急いで!私じゃ無理!」

「ちくしょぉ!私も間に合いそうにない……!」


 倒れるリーネ目掛けてサンドリアンが叩きつけられる。

 激しい土埃と黒煙で、視界が塞がれた。リーネが脱出したようには……見えない。


「うそでしょ……。リーネ……!」

「くそっ!僕は……守れなかった……!」

『……?妙な手応え?』


 サンドリアンが弾き返される。土埃の中から光が溢れてきた。

 リーネを庇うようにして、一人の女性が立っていた。彼女が持つ剣が光を放っている。


『ふん!やはりいたのか。さぁ!ワシと刃を交えるのだ!』


 フラム=ベルジュが走り出す。

 エデンを手にして現れたレティーアは、冷静に相手を見据えてから戦闘を開始した。

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