第16話 <緊迫する町>

 翌朝、アキトが目を覚ますと何やらエントランスの方が騒がしかった。

 何事かと思い向かってみると、王国から騎士団が来ていた。隊長は、アキトの伝令を国王に届けてくれたあの男だった。


「あれ?何かありました?」

「ん?おぉ!アキト殿か!陛下がお主に感謝していたぞ。報告ご苦労とな。……実は、昨夜遅くに爆発事件が起きてな。天使様が亡くなったのだ」

「昨夜の音……。あれは爆発音だったのか」

「それで、今ルクスヴァニラに警戒体制が敷かれてるのだ。君も何か分かれば知らせてくれ」


 男は、部下を引き連れて宿を後にした。

 宿の従業員の女性は、普段の業務に戻っていく。


「アキトさん。町に出掛けるんだろう?気を付けなさいよ」


 自室に戻るアキト。既にリーネとマリアが目を覚ましていた。

 二人に一連の事を話す。驚いてはいたが、すぐに平静さを取り戻していた。

 町に出る支度をして、出掛ける。今日は防具屋を見る予定だ。全員の防具を新調したい。

 防具屋は、歩いて二十分ほどのところにあるらしい。アキトたちは、目的地に向かって歩く。

 道中、色んな声が聞こえてきた。昨夜の事件のことだ。


「聞きました?天使様がお亡くなりになられたって」

「四丁目のメルセデス家のお嬢さん。行方不明らしいわよ」

「何ですそれ?昨夜の事件に関わりがあるんですかね?」

「そういえば、夕べ嫁が城壁を飛び越える何かを見たって」


 憶測と事実が混ざって噂になっていた。このままでは、不確かな情報が出回ってしまうだろう。

 アキトたちは、噴水広場までやって来た。

 そのはずれ、広場の一角に規制線が張られ、ルクスヴァニラの兵士たちが行き来していた。


「ここが事件の現場か……」

「っ!アキト。これって……!」


 リーネが何かを拾った。それは、紫色の鈍い光を放つ羽毛。ガーゴイルの翼の一部だった。


「ガーゴイル……。だとしたら、今回も邪神が?」

「その通り。奴らの関与が疑われます」


 気がつくと、アキトたち以外の人が止まっていた。何者かが時間停止を行ったのだ。

 そして、それはゆっくりと姿を見せた。四対の翼。緩いウェーブがかかった橙の髪。腰に帯びた刀。

 それは、天使だった。


「私は戦天使ミカエル。君たちがアキトのパーティーかな?」

「ええ。その通りです」

「なるほど、強い目だ。ルミエールが気に入るのも分かる気がする」

「それでミカエル様。邪神は何の目的でガーゴイルを?」


 リーネが尋ねる。

 確かにそこは気になるところだ。天使も神もいるルクスヴァニラを狙う理由は無い。返り討ちに遭うのが関の山だ。


「私たちはこう考えている。そうまでしてでも、レティーアさんを始末したいと」

「なんてこと……!レティーアのためにそこまで……!」

「最悪なのは、こいつらが偵察だった場合だ。偵察なら、奴らの本軍が近くまで来てるでしょう」

「確かに最悪だ。……情報ありがとうございます、ミカエル様。僕たちは戦いの準備をしておきます」

「頼みました。もし本当に戦闘になれば、貴方たちにも声をかけるでしょうから」


 ミカエルは、光の粒子となって消えていく。すると、止まっていた時間が動き始めた。

 人々は、ここにミカエルが現れたことも知らない。


「……状況は、思ったよりまずいな」


 その後、アキトたちは防具屋にたどり着いた。変人で有名な店主が切り盛りしてる店だ。

 店内に入ると、ピエロの化粧をしてエルフの伝統装束を着たドワーフがいた。

 これは……別の意味で変人だろう。


「らっしゃいやー!さぁ!何をお求めで!?」

「えっ!えと……防具を……」

「私は……ローブかな?」

「すいません。うちの女子が困ってるんで普通に接客してくれません?」


 ドワーフの店主は、アキトの頼みを無視してレジに座る。自由に選んでくれとのことだろう。

 アキトは、この店で最も自分に合った魔導士礼装を購入した。これでさらに、魔法耐性が上がったことになる。

 リーネとマリアは、どれにするか決めかねていた。困っていると、店主のドワーフが声をかけてくる。


「試着室空いてますよ。試してみては?」


 とりあえず、候補の防具を持って試着室に入る。どんなものか着心地を確かめなくては。

 まず出てきたのはリーネだ。選んだのは魔法金属鎧オリハルコンプレート。表情を見る限り、あまり気に入ってはないようだ。

 続いてマリアが出てくる。彼女のローブは、ふわふわの素材で出来ている。ロミオス王国は比較的温暖な環境のため、下手すると倒れてしまいそうだ。

 決めかねていると、店主が防具を見繕ってくる。


「いっそこういうのはどうです?」


 差し出されたのは、ビキニアーマーと露出多めのローブ。

 当然、試着前に返品となった。

 結局、今より少し性能のいい防具を買って、店を出ることにした。まさか防具を買うだけでここまで苦労するとは思ってもいなかった。

 店の外に出ると、暗くなっていた。空に雲が広がっている。

 雨が降るのだろうか?だとしたら早く宿に帰らなくては。

 駆け足で宿に戻っていくアキトたち。噴水広場に差し掛かったとき、ようやく異常に気づいた。

 なぜ気づけなかったのだろうか?

 今まで、道に人間や亜人は一人もいなかった。遭遇したのは、すべて使だ。

 そして、噴水広場には多くの天使たちが構えていた。その中には、ミカエルとルミエールの姿もある。


「あっ!アキトさん!貴方も参加を!邪神軍が来ます!」

「来るぞ!あの雲すべてが敵だ!」

「ひっ……!アキト!あれはまずいって!」


 リーネにつられて空を見上げる。そして、言葉を失った。

 雲だと思っていたそれらは、すべてがガーゴイル。数万数十万はいようかという大軍勢だった。


「あいつら……!そこまでしてレティーアを!」

「必ず守ろう!勇者は私たちの希望だから!」


 先制攻撃を仕掛けるべく、天使の一団が空へ舞い上がった。

 ……それが、命取りになるとも知らず。

 城壁の外から炎の塊が飛んできた。それは天使の羽を焼き、墜落させる。

 飛び立った一団は、全員が落下による衝撃で死亡した。

 咆哮が響く。聞き覚えのある声が聞こえてくる。


『聞け!ワシは灼熱のフラム=ベルジュ!偉大なる邪神王様の将にして、最高神マーロへの挑戦者である!』


 このとき、天使たちもアキトたちも自分たちの勘違いに気づいた。

 邪神軍の標的。それはレティーアではなく……



 ……この世界の最高神、マーロだった。

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