第14話 <聖剣をその手に>

「そんなことって……ひどい……」


 涙混じりの言葉。今の映像を見て、リーネが大きなショックを受ける。

 アキトもマリアも、目に涙を浮かべて見届けた。

 ……レティーアの真実を。そして……アルカディア王国が滅んだ日を。レティーアを生かした人々の生きざまを……。

 攻め滅ぼしたのは、やはりフラム=ベルジュだった。これで、奴を生かしておく理由はない。

 だが、倒せない。リーネもレティーアも歯が立たなかった。どうすれば倒せるというのか?

 答えは、マーロ様が教えてくれる。


「レティーア。今の光景を思い出して、覚悟は揺らいだか?」

「……いいえ。むしろ強くなりました。絶対にフラム=ベルジュを許せない。……あのドラゴンは……ユースリアを殺したあいつは……」

「勿論……恐らくはフラム=ベルジュが放った中位邪神、カオス=フリーデンじゃ」

「やっぱり……。だとしたら、なんとしてでもこの世から……!」

「ふむ。今なら大丈夫。ついてきなさい」


 マーロ様は、最初の洞窟に戻っていく。

 洞窟の奥には、強大な力を秘めていると予想される剣が置かれている。これこそが、邪神に対抗する切り札だ。


「これは、聖剣エデン。かつての勇者ソルティアと共に邪神を封じた伝説の剣じゃ」

「なっ!これがあの!」

「すごい。伝承に聞いていた通り、あったんだ……!」

「今のお主なら資格があるやもしれん」


 気になる単語が出てきた。資格?

 意味が分からず、アキトが聞き返す。


「どういうことですか?聖剣は勇者が使うのでは?」

「そうじゃ。じゃが、使うためには聖剣に認められる必要がある。試練を乗り越えて、力を剣に示すのじゃ」

「……マーロ様。アキトさん。私にやらせてください。必ず手にして、邪神を倒しますから……!」

 

 レティーアがエデンに近づいていく。

 レティーアの胸のアザが、眩い光を放ち始めた。


「やっぱり。あれは勇者の紋章だったのね」

「さて、悪いがお主たちはここまでじゃ。試練は一人で行わねばならん」

「えっ!?見届けくらいいいじゃないですか!」

「待てリーネ。……何か、理由があるんですね?」

「うむ。試練は一人で行う。その内容は、心の強さ、勇気を確かめるもの。周りに友がいては、心の支えになってしまう」

「……孤独でどこまで自分を保てるか……。そんな試練だというのですか……!」


 いかに勇者といえど、相手は邪神。一応は神なのだ。そして、勇者といっても人間には変わりない。

 当然、勇者の仲間となるからには犠牲がつきまとう。仲間の死に毎回反応していては、心が耐えきれない。遠からずに殺される。

 そうなると、世界は破滅へと至る未来しか残らない。

 そうならないよう、己の心を保ち、たとえ何が起きても進めるような力があることを示す。それこそが、エデンが勇者に課す試練なのだ。


「仕方ないわ。私たちはレティーアを信じて待ちましょう」

「うん。レティーア……。頑張って」

「じゃあ、レティーアが試練を乗り越えたら知らせるとしよう」

「お願いしますマーロ様。マリア、転移魔法でルクスヴァニラへ送ってくれ」

「ええ。我らに道を示したまえ。"長距離転移テレポート"」


 アキトたちの姿が消える。残ったマーロ様は、試練に挑んだレティーアを見て呟く。


「……若人ばかりが、なぜこんな使命をもつのじゃろうか……?」




 レティーアは、漆黒の空間にいた。頭で、もう試練は始まっていると自覚する。

 目の前には、糸のような細さの道がある。


「多分……踏み外さずにゴールにたどり着け。ってことね」


 意を決して踏み出す。すると、漆黒の空間に人影が浮かぶ。

 笑顔で手を振るのは、エルモンドだ。レイザースとイザベラ、ユースリアもいる。

 思わず手を伸ばそうとするが、思い止まる。彼らは虚像。手を伸ばせば試練は失敗する。

 後ろ髪を引かれる思いで歩きだす。道の先はまだ見えない。

 エルモンドたちに変化が起きる。真っ赤な炎がエルモンドたちを包み込む。同じようにレイザースたちも炎に呑まれた。

 逃げ出したユースリアも、巨大な黒い影に襲われる。

 すべて、あの光景の再現だ。


「っ!……そうよ。もう繰り返さないために私は進む!」


 自身に言い聞かせ、止まりそうになる足を無理やり動かす。

 重なる四つの悲鳴。やがてそれは、恨み言に変わる。


『なぜだ。なぜ私は焼かれなければ……!』

『レティーアめ。何も成せずにワシたちを殺しおって……』

『熱い……。レティーア。貴女もこの苦しみを味わいなさい……!』

『痛いです……。助けてって言ったのに……。なぜ見捨てたんですか……?』

「くっ……!エデン……。質が悪いわよ……!」


 愛していた者からの恨みは、精神に響く。だが、ここで止まっては彼らの仇は討てない。

 涙を一滴落として、心を整理する。これでまた、進むことができる。

 しばらく歩くと、また見覚えのある顔が出てきた。アキトにリーネ、マリアだ。


『大丈夫か?共に進もう』

『『私たちもいるからね?任せて!』』


 今回は、何事もなく四人で進んでいく。道中、会話までできた。

 まるで本当に旅しているかのような感じ。安心しきったところで、それは起きた。

 レティーアの前に、フラム=ベルジュが立ち塞がる。フラム=ベルジュは、その剣でレティーアを両断しようとする。


『やめてぇぇっ!』


 身代わりになったのはリーネだ。右半身と左半身とに両断される。鮮血が、漆黒の空間に赤い領域を作り出す。


「いやっ!リーネさぁん!」


 虚像だということを忘れ、手を伸ばす。

 道が細いので、すぐにバランスを崩して落ちてしまった。

 ……目を覚ますと、そこはスタート地点。最初と何一つ変わっていない。


「そういうこと……!途中リタイアはできないのね……!」


 再び道を進むレティーア。またしても、エルモンドたちが現れる。

 同じ光景を繰り返し、アキトたちと出会い、リーネが犠牲になる。

 レティーアは、どうしてもそこから先に進めていなかった。リーネの死と同時に、手を伸ばして落ちてしまう。

 何度も出会い、別れ、やり直す。この無限ループから抜け出せない。


「うっ……!もういや……。でも、やらないと……」


 そしてまた、歩きだす。これで、三百回目の挑戦だ。

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