第13話 <レティーアの記憶2>

 ユースリアと共に城に帰ってきたレティーア。

 邪神軍の動きは早く、既にアルカディア城までガーゴイルが押し寄せていた。


「くたばれっ!」


 城門に群がるガーゴイル数体が、一瞬で倒される。槍に付いた血を拭うその仕草は、殺しだというのに気品に溢れていた。


「っ!ヨハネス皇子!」

「レティーア姫か?ここは危険だ。露払いをさせてもらおう」

「ありがとうございます。ですが、それには及びません。これはアルカディアの問題です。ノーヴァの皇族の方を巻き込むわけには……」

「ならばこうしよう。俺は勝手に暴れさせてもらう。ちょうど鬱憤が溜まってるんだ」


 ノーヴァ帝国の馬引きが、ヨハネス専用の馬を連れてくる。黒い毛並みが美しい立派な馬だ。


「レティーア姫。貴女も勇者として戦うのだろう?お手並み拝見とさせてもらおう」

「分かりました。ヨハネス皇子も気を付けて」

「ふんっ!誰に物を言っている?"炎天花"!」


 レティーアに鎌を振り下ろそうとしたガーゴイルに、ヨハネスの一撃が決まる。

 胴体深くに突き刺さった槍は、やがて熱を帯び始めた。それは炎となり、ガーゴイルを焼いていく。

 炎でガーゴイルが赤くなったとき、ガーゴイルの体内から炎は一気に爆発を起こした。四散するガーゴイルの破片。


「すごい……。これが……」

「いつまでそうしている?貴女も民のために戦え」

「ヨハネス様!帰還を!」

「そうか。ノーヴァ帝国の支援はここまでだ。復興には尽力しよう」

「ありがとうございます!お気をつけて!」

「ふんっ!行くぞ。……邪魔だ害鳥どもがっ!」


 ヨハネスが自身の槍を全力で投擲する。進路を塞ぐガーゴイルを粉微塵にして、槍は落ち始めた。

 地面に落ちる前にヨハネスが受け止める。空いた道を、ノーヴァ帝国の騎馬隊が走り抜けていった。


「レティーア様!エルモンド殿下がお話があると」

「分かったわユースリア。貴女も逃げて」

「私は、最後までレティーア様と一緒です」


 仕方がない。ユースリアと共にエルモンドの元へ急ぐ。城内には、負傷した兵士たちが引き上げてきていた。邪神の攻撃は止まらない。

 エルモンドは王の間にいた。レイザースとイザベラもいる。


「兄様!私も戦います」

「レティーア。君を呼んだのはその件だ。父上からお話がある」

「お父様?」

「レティーアよ。ユースリアと共に逃げなさい。急いで」

「っ!なぜです!?私の勇者の力があれば、ガーゴイルなんて!」

「……ガーゴイルの数が多すぎる。もしかすると、近くに上位邪神がいるやもしれん。お前が殺されてはもう光は無いのだ」

「私が……負ける?そんなこと!」

「あるかもしれないの!レティーア聞いて?昔の大戦でもね、勇者ソルティアは苦戦を重ねたの」

「そんな……!お母様まで!」

「もし敵が六大邪神なら、聖剣を持たないレティーアでは負けるのだ!理解してくれ!」

「お父様……!私は……、こんなときに……」

「……ユースリア。レティーアを頼む」

「お任せください。レティーア様、行きましょう?」

「嫌よ……。護られる勇者って……何よ?」

「レティーア!行くんだ!」

「緊急!緊急!報告します!ぐわぁっ!」


 王の間に兵士が駆け込んできた。だが、緊急報告の前に殺される。

 扉を破壊して、2体の邪神が入ってきた。どちらも、かなりの強者だ。


『ユウシャ。コロセト、メイレイ』

『カクゴシロ。ニクキユウシャメ』


 口調が固い。それほど高位の邪神ではないだろうが、邪神である以上は強い。


「レティーアに手出しはさせない。僕がここで止める」


 エルモンドが前に歩みでる。その手には、アルカディア王国に伝わる神器、聖槍ロキタニアが握られている。


「私も戦うぞ。王だからと見くびるな!」

「支援なら私ね。覚悟なさい!」


 レティーアを逃がすため、レイザースとイザベラも戦う準備をする。


『『オモシロイ。コノワレ、ジャシンコウメタリスニカナウト?ズニノルナニンゲン』』

『お前こそ邪魔だ。メタリス』


 足音が響く。レティーアたち、王の間にいる全員の頬を冷や汗が伝う。威圧がすごい。

 僅かに残っていた扉を焼き払い、別の邪神が現れた。巨大な二振りの剣を持つ、龍のような邪神だ。


『よくぞ出会えた勇者よ。ワシはフラム=ベルジュ。さぁ、刃を交えようぞ』

「フラム=ベルジュ……。灼熱の……六大邪神……!」

「くっ……!本当に六大邪神とは……!」

「レティーア様!逃げましょう!」

「ひっ……!ええ!行かないと!」

『逃がすとお思いか?』


 フラム=ベルジュが走り出す。右腕を振り上げて、レティーア目掛けて剣による一撃を放つ。

 響く金属音。フラム=ベルジュの攻撃を、エルモンドが受け止めていた。


「絶対に……生きろ!希望は……絶えさせない……!」

『ふむ。貴様も中々。勇者の前に貴様と殺し合いだぁ!』


 エルモンドとフラム=ベルジュの戦いが始まった。だが、勇者の力を持たないエルモンドでは、歯が立たない。


「ぬっ!では私も参戦だ!」

「レティーア!必ず生き延びるのよ!」


 レイザースとイザベラ、それにエルモンドが命を賭けて作ってくれた時間。その僅かな間に、レティーアとユースリアは隠し通路から逃げ出した。

 扉を閉めると、いくつもの悲鳴が聞こえた。誰のものかは……想像したくなかった……。

 どれほどの時間走り続けただろう?出口が見える。

 そこは、アルカディア王都の近くの湖畔だった。少し高いところから、城を見る。

 ユースリアは泣き崩れ、レティーアは目を疑った。

 あれほどまでに繁栄していた王都が、燃えていた。やけ崩れる王城。灰に変わっていく住居。……もう、あの頃のアルカディア王国は存在しない。

 判断が遅れてしまう。それが命取りとなった。

 レティーアたちに、ガーゴイルが襲いかかる。瞬時にユースリアが反応し、レティーアを庇った。

 彼女の右足に、鎌による切り傷が刻まれる。


「いっ……!くっ……!」

「ユースリア!よくも!」


 城の兵から借りた剣で、ガーゴイルの首を落とす。すぐに絶命した。


「ユースリア!大丈夫!?」

「うっ……!えぇ。とりあえずは……」


 歩くことはできるようだ。少しずつ休憩を挟みながら、二人は逃亡を続ける。

 目的地はロミオス王国。アルカディア王国と同盟関係にあったロミオス王国なら、保護してくれるだろう。

 旅は順調……な訳もない。ユースリアの右足の傷が悪化している。


「申し訳……ありません」

「ううん。謝るのは私。貴女は私を庇ったんだから。……今日はあの廃墟で休みましょう」


 レティーアは、偶然見つけた廃墟で休憩を取ることにした。何かの工場だったようだ。


「そういえば、ここに昔は国がありましたね」

「そうね。原因不明の厄災で滅んだ国、パイデルン法国……」


 とりあえず、ユースリアを安静にさせておく。眠くなったレティーアは、そのまま目を閉じた。



 体を揺する感じがして目を覚ます。ユースリアがレティーアを起こしていた。


「どうしたの?」

「……邪神です。入ってきました」

「そんな……!どうしたら……!」

「……レティーア様。今までありがとうございました」

「えっ……!何言ってるのよ?ユースリア」

「私は、ここまでです。足が動かせないから……。一緒には逃げられません」

「嫌よ。何でそう決めるの!私が背負うから!」

『コ……エ?ウエ……テキ……ユウシャ……イル?』


 大声を出したので、邪神に気づかれてしまった。早く逃げないと危ない。


「レティーア様。お許しを!」


 乾いた音が鳴った。ユースリアがレティーアの頬をひっぱたく。動揺するレティーアに、ユースリアは続ける。


「貴女は生きなきゃダメなんです!エルモンド様も、陛下たちもそう望んだ!貴女だけでも逃げるんです!」

「ユースリア……!くっ……!ごめん……」


 レティーアは立ち上がる。その目には、涙が光っている。

 そして、レティーアは走り出す。皆の想いを背負って走り出す。


「……謝らないで。それでいいんです。貴女は生きなきゃ」


 邪神がユースリアを見つけた。真っ黒な体を持つ巨大な龍のタイプだ。


『ユウシャ……チガウ。コレ……エサ!』

「レティーア様……。どうか……。……ごめんなさい。少しだけ……わがままを……許して」


 ユースリアの脳裏に、レティーアと過ごした日々が流れていく。

 城下町で笑い合ったこと。レティーアを捕まえるため、執事たちと追い回したこと。それに何より、初めてレティーアに会ったときの事。ユースリアにとってそれは、かけがえのない大切な時間。


「嫌だ……。死にたくない……。レティーア様……助け……」


 邪神の牙が、ユースリアの体に食い込んだ。

 ……廃墟からは、骨が砕かれるような音が、しばらく聞こえていた。




「うっ……!うっ……!うわあぁぁぁぁっ!!」


 レティーアが、涙混じりで叫ぶ。いくつもの山を越え、森を抜け、走り抜ける。

 ある森に来たときには、心が耐えきれずに、全ての記憶が失われてしまっていた。

 行くあてもなくさ迷っていると、ゴブリンたちと出会ってしまう。

 襲われるかと思ったその時、彼女の救世主たちが現れた。

 彼らは……。


 

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