第12話 <レティーアの記憶1>

「やあっ!」


 気合いのこもった一声。

 アルカディア城の中庭で、男女が武器を手に訓練していた。その周りを、兵士たちが囲んで戦い方を学んでいる。


「いいぞ。これはどう受ける?」


 突き出される槍の一撃。少女は、剣の腹で受け流して反撃の攻撃を叩き込む。

 剣の一撃をかわした青年は、槍を収めて汗を拭った。


「ふぅ……。今日はここまでだ。さすがはレティーアだな。覚えが早い」

「エルモンド兄様。今日もありがとうございました!」


 訓練が終わると、様子を見ていた兵士たちが歓声をあげる。


「すげぇ、見たかよ」

「ああ。俺たちの護衛なんて要らねぇよな?」

「こらお前ら、殿下達の前でサボりの相談とはな。城の周りを10周ほど走ってこんか!」

「「教官!お許しを!」」


 兵士たちが訓練に戻っていく。中庭に残ったレティーアとエルモンドは、少し話をしていく。


「エルモンド兄様。この力を使う日はくるのでしょうか?」

「……おそらくな。勇者が生まれるということはそういうことだからな」

「そう……ですか。叶うなら、こんな力なんて使わずに済めばいいのに……」

「それは、誰もが思ってるさ」

「レティーア様ー!エルモンド様ー!陛下がお呼びですよー!ヨハネス様がいらっしゃったようです。」

「ノーヴァ帝国の……。行きましょう兄様」


 呼びに来たメイドに付いて王の間に向かう。

 王の間に入ると、中には四人の人物がいた。アルカディア国王レイザースと、王妃イザベラ。レイザースに挨拶をしているのが……。


「ほぉ……。初めましてレティーア姫。それに、エルモンド王子。ご存じだろうが、私の名はヨハネス。ノーヴァ帝国の第二皇子だ」

「初めまして。今回ヨハネス様のお世話をさせていただいている、ノーヴァ帝国の軍師メリダにございます」

「さて、ヨハネス殿。突然の訪問はどうされたのか?」

「単刀直入に言わせて頂こう、レイザース王よ。私の愚兄のアレックが婚約者を探している。そこで、アルカディア王国の娘はどうかという話になり、私が参ったのだ」

「それは……レティーアのことか?」

「まさか。レティーア姫と私の兄ではとても釣り合わない。まだゴブリンのほうがマシでしょうよ」

「ヨハネス皇子。さすがに言い過ぎでは?アレック皇子があまりにも……」

「構わない。奴などそんな扱いで十分だ」

「申し訳ありませんエルモンド様。補足を。ヨハネス様とアレック様は仲があまりよろしくなく、ついこのような言い方を……」

「慎めメリダ。……返事は急がなくて構わない。断ってくれてもいい」

「では、私たちはこれにて失礼させていただきます」


 ヨハネスとメリダが退室していく。残されたアルカディアの王族で、話し合いを開く。


「父上。ノーヴァ帝国とは彼のような人ばかりなのでしょうか?」

「ふむ……。聞いたことがある。ノーヴァ帝国は完全実力主義。皇子でも例外はない。そして、ヨハネス皇子がアレック皇子よりも強かったはずだ」

「え?ならばなぜあんな態度を?」

「レティーア聞いてね。ノーヴァ皇帝アレキサンドロスはアレック皇子がお気に入りなの。だから、ヨハネス皇子の皇位継承権は二位なの」

「彼は、その事が気にくわないんだろうな」

「……複雑ですね」



 アルカディア城の廊下を、二人の人物が歩いている。ノーヴァ帝国の皇子と軍師だ。


「ヨハネス様?よろしかったのでしょうか?」

「何がだ?」

「アレック様の件です。いい娘を紹介してもらえとの陛下の御命令を……」

「無理でした……と、報告しておくさ。俺は、アルカディア王国には美人が多いと思う。バカ兄貴には勿体ない」

「……もう最近は隠さなくなりましたね。その毒を吐く癖」

「ふん。親父の前では抑えてるがな」


 素の口調で喋るヨハネス。アレックとだけでなく、アレキサンドロスとも仲は良くない。


「さて、国へ帰るぞ。馬引きを呼べ」

「はっ!ただちに」


 急いで駆け出すメリダ。

 アルカディア城の廊下に、独り言がポツリと漏れる。


「……今なら、仕掛けてもよさそうだ」



 ヨハネスとの面会を終えたレティーアは、彼女専属の侍女ユースリアと共に、城下町に降りていた。

 ちょうど昼過ぎということもあり、市場や飲食店が賑わいをみせている。


「うわぁ……。ユースリア!あれは何!?」

「レティーア様はしゃいでますね。あれはうまの串焼きですね。馬のようで馬ではない魔獣肉です」

「魔獣肉?食べられるの?」

「大丈夫な肉ですから。美味しいですよ」

「へぇー。食べてみたいな」

「分かりました。買ってきます」


 ユースリアが露店に向かっていく。

 戻ってきた彼女の手には、串焼きが3本握られている。

 うまの串焼きには、甘辛いソースが塗られていて、食欲をそそる香りに満ちていた。レティーアは、城の食事も好きだが、こういった町の露店の食べ物のことも気に入っている。


「うっ!美味しい……!」

「そうでしょうとも。大通り一の人気ですからね」


 レティーアはその後も、町を見て回った。別の露店、アクセサリー、ファッション。

 行動は大通りだけとイザベラに制限されているが、それでも楽しい。

 気づけば、もう陽は傾き始めていた。


「時間ですね。帰りましょうか」

「そうね。楽しかったわ。また来たいな」


 二人は並んで城へと帰っていく。

 こうして一日が終わり、また明日を人々は生きる……


 ……はずだった。

 大通りに、いや王都に突然絶叫が響き渡る。


「敵襲だ!急いで避難しろぉぉ!」


 警告と同時に、危険を知らせた兵士がいた城壁から火の手が上がった。炎は、意思を持ってるかのように城壁の上を燃やしていく。兵士たちの断末魔が聞こえてきた。


「えっ!?何が!?」

「レティーア様!避難してください!」


 大通りにいた人々はパニックを起こしている。人の波に呑まれる二人。

 そこで、レティーアはあるものを見つけてしまった。そいつは、城壁の上で炎を気にせず座り込んでいる。

 半人半鳥で、鎌を持つ化け物。奴は……。


「兵士よかかれ!国を守れ!」

「隊長!あれは……ガーゴイル!」


 邪神の軍勢であるガーゴイルの襲撃。それはつまり……。


「上位邪神の……襲撃……?」


 異常事態が起きている。

 レティーアは国を守るために、そして勇者の使命を果たすために、ユースリアと共に城へと急ぐ。

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