第11話 <最高神マーロ>

 朝、朝食を摂り終えたアキトたちは、早速クリスタル山を登ることにした。マーロ様は、標高千三百メートルの地点で待っているらしい。そこに、レティーアに関する大事なものがあるとか。

 宿の従業員にお礼を言って、登山道の入り口に立つ。入山料として銅貨五枚を支払い、登り始める。

 クリスタル山は、登頂が難しい山だ。表面がキラキラと光っているため、視界が悪い。その上、滑り落ちる可能性もあるというおまけ付きだ。

 アキトたちは、挫けることなく登っていく。

 アキトたちは、王国でも最上級の冒険者パーティーなのだ。これくらいどうってことない。

 休憩を挟んで登る。休んで登る。そう繰り返していると、山の中腹でルミエールに会った。


「お早い到着ですね。素晴らしいです。」

「マーロ様を待たせるわけにはいきませんから。」

「そうですか。マーロ様はこちらの先にいらっしゃいます。」


 ルミエールの誘導に従い、横に曲がる。このままマーロ様のところまで連れていってくれるようだ。

 その道中、ルミエールがアキトに質問をしてくる。


「……それで、貴方は何を見てきました?」

「……?何をとは?」

「ここに来る前に。何か見たのではないですか?」

「……ええ。恐らくは、灼熱の邪神を」

「っ!フラム=ベルジュですって!?」


 ルミエールが動揺を見せる。

 かつては天使たちも、邪神によって多くの被害を出したのだ。またあの光景が繰り返されると考えてしまったのだろうか?


「……取り乱しました。すいません」

「いえ、おきになさらず」

「確かに一大事です。さて、マーロ様はこの先です」


 そこは、いくつもの洞窟がある場所だった。

 神々しい雰囲気を放つ洞窟をまっすぐに進んでいく。奥には、白い髭を伸ばしたお爺さんが居た。


「あなた様が……!あなた様がマーロ様ですか?」

「マーロ様。私に用があるのでしょうか?」

「うむ。ワシがマーロじゃ。久しいのうレティーアよ。急に呼び立てて悪かったの」

「久しい?以前会ったことがありますか?」

「なにっ!?忘れたのか……。お主が五歳の時のことじゃ」

「すいません。私…記憶が……」

「記憶喪失!?……これを渡すのはまだ早いか……」


 マーロ様は後ろを振り返る。そこには、うっすらと輝く剣が安置されていた。相当な業物だとアキトでも分かる。


「マーロ様。レティーアを呼んだ理由とはもしかして……!」

「そうじゃアキトよ。邪神に復活の予兆がある。どうも封印を解いた阿呆な人間がおるようじゃ」

「では……!ホロゥ村跡地で会ったのは……!」

「邪神に遭遇した!?よく生きておったの」

「そうですよ。自分でもそう思います」

「ふむ……。これは急いだほうがよいな。……レティーアよ。お主に自分の運命を知る覚悟はあるか?」

「っ!……はい。自分の運命を知ることで、アキトさんたちに恩返しができるなら!」

「そうか……。ならば付いてくるのじゃ」


 マーロ様は洞窟の入り口に歩いていく。

 外に出ると、二つ隣の洞窟に入っていった。アキトたちも続く。

 そこは、普通の空間とは違っていた。壁も天井も虹色に輝いている。ソウルクリスタルの力が強いのだ。

 マーロ様が止まった。視線の先には、丸い形のソウルクリスタルが置かれている。

 壁よりも濃い光を放つそれは、レティーアに反応して強く輝くようにも見える。


「これは、このクリスタル山の中心とも言うべきものじゃ」

「これが……!」

「ソウルクリスタルは、すべてを知っておる。覚悟が出来たら手をかざすのじゃ。必ずや記憶を戻してくれる」


 レティーアの手が震えている。誰しも過去を知ることは一種の恐怖がある。過去を全く覚えてないのなら尚更だ。

 震えるレティーアの手をアキト、マリア、リーネの手が包む。少しでも安心してもらうためだ。

 震えがマシになった。気持ちが落ち着いたのだろうか?


「ありがとうございます。もう……覚悟は決めました」


 レティーアは、ソウルクリスタルに手をかざした。レティーアの体から線が伸びてクリスタルと同調する。

 クリスタルは、光を回転させながら周囲に映像を投影した。


『まってー!エルモンド兄様ー!』


 映像には、無邪気に走る少女と幼い少年が映し出される。


「っ!今のは……?」

「おい、エルモンドって……」

「そうですわ。アルカディア王国の第一王子……」

「え…?同名の別人じゃないの?」

「いえ……。これは……」


 レティーアは気づく。恐らくはアキトたちも気づいているだろう。

 これは、レティーアの記憶なのだと。そして、エルモンドを兄と呼ぶということは……。


「……思い出したかの?そなたは五歳の時にワシの元へ来た。……アルカディアに誕生したとしてな」

「私が……。勇者……」

「しかし、なぜ記憶を失うようなことに……?」

「それは、きっとこのクリスタルが教えてくれるじゃろう。じゃが、ワシはどうにも嫌な予感がするのじゃ」

「えっ?何故です?」

「それは……マーロ様の勘……ですか?」

「神様にも勘ってあるんですね」

「違うぞ三人とも。人が記憶を失う原因は、主に二つだ。頭に強い衝撃を受ける。心が現実に耐えきれず、自分を守ろうとする。……どちらも、レティーアにとっては辛いことさ」


 重い沈黙が洞窟内を支配する。レティーアが記憶を取り戻したとき、何が起きるのか?

 それは、マーロ様でも分からないだろう。


「だから、この先は無理に見なくても……」

「ありがとうアキトさん。でも、見させてください。現実からは、逃げたくありません」

「……頑張って。貴女を取り戻して」

「レティーア。無理はしないでね?」


 マリアとリーネの言葉に笑顔を見せるレティーア。大きく深呼吸をする。

 意を決して、再びクリスタルに手をかざした。先ほどよりも多くの映像が投影される。

 アキトたちは、その映像をじっと見つめる。レティーアに起きた事の真実を知るために。

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