第9話 <灼熱の神>

 最高神マーロに会うべくパイオンの町を出るアキトたち。

 門を出るとき、カイジと出会った。何やら落ち着かない様子だ。


「カイジさん?どうかしたのか?」

「ん?あぁ、魔王遺跡の近くにホロゥ村があるだろ?遺跡の調査に向かった兵の休憩地にさせてもらったんだが、定時連絡がなくてな。様子を見に行った兵たちも同様だ」


 どうにも嫌な予感がする。あの周辺には強大な邪神がいるかもしれないのだ。

 もしかすると…兵士たちもそいつに……。 


「そうだ!アキト君が調べてくれないか?見つけたら兵長がお怒りだと伝えてくれ」

「はっ!?……まぁいいか。マーロ様のところに向かうついでだしな」


 カイジからの頼みで、ホロゥ村に立ち寄ることにした。

 五時間ほど移動する。その間、複数の魔物や魔獣に襲われたが、アキトたちの相手ではない。

 そして、ホロゥ村に着いたのだが……。


「なんなんだ……。これ……?」

「ウソ……。そんな……」

「あぁ……神よ」

「酷い……。こんなことって……酷いよ……」


 ホロゥ村の住居は、殆どが燃やされた後だった。焦げ跡には、複数の焼死体がある。服装から、住人と兵士なのだろう。


「定時連絡がないわけだ。何者かに殺されたんだからな」

「こんな……。絶対に許せない……!」


 レティーアが怒りを抑えきれていない。

 老若男女関係なしに炎で蹂躙されたこの地を見て、何か思うのだろう。それは、アキトたちも同じだ。

 そんなとき、アキトは見つけた。瓦礫の中に光るものを。

 気になって取り出してみると、それは剣だった。ロミオス王国で使われているものとは形が違う。


「これは……ノーヴァ帝国の剣じゃないのか!?」


 この惨状を引き起こしたのはノーヴァ帝国なのか?

 考えにふけるアキトだったが、マリアが探知魔法で危険を察知する。


「アキト!急いで隠れて!なにか来る!」


 全員が瓦礫の中にうまく身を隠す。

 段々と足音が聞こえてきた。地鳴りもしているということは、かなりの大物だろう。心なしか、気温も上がっている気がする。

 やがて、それは姿を見せた。

 六本の脚。魔獣ケンタウロスを彷彿とさせる造形。手に構える二振りの大剣。炎を纏う禍々しい体。その顔は、ドラゴンに似ている。

 そいつは、辺りをキョロキョロと見回している。まさか、自分達を探しているのか?

 アキトがそう考えていると、そいつは決定的な瞬間を見せた。

 突如手に持った剣を地面に突き刺す。そのまま右手を突きだして魔力を放出している。

 やがて魔力は、まとまりのある形に揃えられ、ガーゴイルが出現した。その数は三十体。


【間違いない……。こいつが邪神だ……!】


 だが、炎を操る邪神はたくさんいるらしい。個体名が特定できずにいる。……本当は、名無しの邪神がいいのだが…。

 名前持ちの邪神というのは、どいつも決まって凄まじい力をもっている。今の人類に勝てるかは分からない。

 その邪神は、生み出したガーゴイルと共に何かを探していたが、諦めたのか帰っていった。

 瓦礫から出て、全員の無事を確認する。


「……行ったな。皆、無事か?」

「ええ。なんとかね」

「見ましたか?あいつは……!」

「そうだ。あいつが邪神。ホロゥ村を焼きつくした元凶だ」

「あいつが……!絶対に許せない!」

『……ならば、挑んでみせろ』


 レティーアの発言に答えるかのような声が聞こえた。慣れたもので、瞬時に戦闘できるよう構える。

 リーネの後ろに、いつの間にかさっきの邪神が立っていた。背後には、さっきよりも多くのガーゴイルを引き連れている。


「そんな……!帰ったはずじゃ……!」

『バカが。帰る素振りを見せれば出てくると思ったまでよ』


 相当に頭の回る邪神のようだ。口調もはっきりしていることから、かなりの強者だろう。


「くっ……!じゃあ望み通り戦ってあげる!」


 レティーアが武器を構えて突っ込む。地を蹴って邪神の頭上に移動し、渾身の力を込めて剣を振り下ろす。

 ……が、邪神は防御することなくそのまま受けた。激しく散る火花。

 レティーアの持つ剣に亀裂が生じる。


「なっ!?うそでしょ!?」

『児戯だな。弱い……』

「やべぇ!レティーア下がれ!」


 アキトが警告を発する。脊髄反射の要領で後ろへと飛び下がるレティーア。

 瞬間的に感じる暴力的な風圧。レティーアが立っていた所を邪神の剣が通過した。あのままいたら、体は粉微塵にされていただろう。


『ふん……。貴様の動きに見覚えがあるぞ?どこだったか……?』

「まさか……。レティーアの故郷はお前が!?」

「レティーアがどれだけ苦しんだと思ってるの!次は私が!」

「行けリーネ!援護する!"火炎柱ファイアピラー"!」


 アキトの魔法が邪神の体を炎で包んだ。ダメージはないように見える。

 

『教えてほしいのか?いいだろう。"火炎柱"』


 突進するリーネを猛烈な炎の奔流が呑み込んだ。骨も残さず焼かれていく。

 アキトの魔法とは比べ物にならない威力だ。


「いやぁ!リーネさぁぁん!」

「ちっ……!貴様ぁ!」

「ふぅ……。間一髪でしたわ……」

『うん?そこの僧侶。間一髪とは一体……?』


 邪神の背中に衝撃が走る。ダメージはないが、驚いたのは事実だ。

 背中を斬りつけたのはリーネだ。焼けたどころか火傷の一つもない。


「うそ……。これでも駄目なんて……」

『なるほど。すんでのところで幻覚魔法か。なかなかやりおる』


 これが邪神。規格外の化け物。

 勝ち目を見いだせないアキトたちの前で、邪神が新たな動きを見せる。


『やはり戦いとはこうでなくては。ソウルクリスタルよ!その力をワシに寄越せ!』


 ソウルクリスタルの欠片が空中に浮かぶ。邪神は、その欠片を躊躇いなく破壊した。

 

「なに!?何てことを!」

「やめなさい!ソウルクリスタルを砕けば……この世界に何が起きるか!」

『フハハハハハッ!邪神が邪神たる理由がこの力よ!』


 砕かれた破片が赤黒く染まっていく。無数に分かれた破片は、空中で停止し、地上に降り注いだ。


「皆!私の近くに!我らをこの地より逃がしたまえ!"長距離転移テレポート"!」

『フハハハハハッ!燃えろ燃えろ!焼け落ちろ!』


 ソウルクリスタルの破片は、その地すべてを焼き払った。

 僅かに残った瓦礫も、人々の死体も、残すことなく全て。

 焦土の上で高笑いをしている邪神は、目的を果たしたと言わんばかりに、ガーゴイルを引き連れて去っていった。

 

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