010 信じられない――嘘だと言って

『告白する前だけれども、そのショックは大きかった。シンクロ体質の私は、今度は、紫藤くんとだ』


 ズ――。

 ズガガガガガッガガガッガア!


 突然のことに、声が透明な風となる。


「――スフ」


 落ち着け、落ち着け、俺。


 先ず、俺の臀部が下から突かれた。

 道路工事の揺れなんてものではない。

 俺の頭をアップテンポに揺する。


「き、気持ち悪い」


 心は悶えまくる。

 何が起きたか想像の範疇から出ている!

 痛みは、すぐさま脳に刺さった。


「イタタタ。痛いだろう!」


 縦に聖花ちゃんのかがみ屋が揺れる。

 二重にも三重にも見える。

 神棚も崩れるように落ちた。

 ガラスが、パンと鳴る。

 俺だって右だか左だか分からない。

 この勢いで、天井にぶつかりそうだ。


 サアア……。

 次は何が?

 俺の前方から何かがハイスピードで迫る。


「うお! 眩しい!」


 俺は、光から目を背けた。

 それは先程のテレビのある方からだ。

 何が起きたのか知りたい気持ちがもたげた。

 真っ直ぐ首を上げる。


「な……!」


 床下から天井へと突き抜けた。

 あれは、『龍』ではないか?

 黒と白の光る龍が絡み合う。

 巻き付き合って、円を描きながら溶け合っていく。

 渦巻く陰と陽の勾玉となる。


「どこかで見た家紋、陰陽勾玉巴おんみょうまがたまともえのようだ。どこで見たのかな?」


 そんな、どうでもいいようなことに頭を使えるんだ。

 俺は、生きている。

 大丈夫だ。

 この揺れを乗り切ろう。


 ◇◇◇


 ――あれから数分経つのか?

 揺れは、永遠に続くと感じられる。

 これは、大地の怒り、大地震だ!

 地震だと思った瞬間、人は何もできないものだ。

 何かの下に隠れることもせず。

 聖花ちゃんは、山菜そばのどんぶりにしがみついている。

 聖花ちゃんのお父さんは、長い揺れに、柏手を一つ打った。


 俺は、何があっても聖花ちゃんを守ると誓ったじゃないか。


「どうしたらいい?」


 どうしたらって、どんぶりが割れたら危険だ。

 俺が座布団を投げて聖花ちゃんの頭にかけようとした。

 しかし、一ミリ先の彼女が今はいない。


 イナイ?


 いないなんてあるか!

 いや、よく見給え。

 寧ろ俺が一人なんじゃないか?


 頭の上から血の光が降り注ぐ。

 これは、覚えのある眩しさだ。

 片方の腕をぬうっと闇へと出す。

 そのシルエットが俺の首へと伸びた。


「くっくくく……。よくきたな、紫藤壱流!」


 現れたな魔のモノめ。


「エルライミサ・オルビニアンか?」


 また、あのどずんと胸に脈打つ声だ。

 男とも女とも分からない。


「早く、私の所へ、黒い古書を持ってくるのだ。ほほほ。ははははは……!」


 では、これは影。

 本体は別にあるということか。


「とにかく、聖花ちゃんと出会わなくては」


 ◇◇◇


「……ありがとう、紫藤くん。私はどうにか元気みたい。シンクロの絆が外れたじゃない。寂しいな」


 十六年間の人生で初めての大地震だと思う。

 抱えていた丼はもうない。

 頭に座布団を投げられた気がしたが、それもない。

 気持ちが真っ白になった。

 暫くして、真っ暗なのに気が付いた。

 お父さんは?

 紫藤くん、皆は?


「――生きている?」


 声を絞り出すのよ。

 もっと。


「お父さん、生きている? お父さん!」


 大きく揺れたあと、私は大切な人の命を確かめようとした。


「國坂さんは無事なのかしら?」


 同じ旅館にいたのだから、地震の被害が及んだかも知れない。

 そして、気が付いたように、さっき一緒にいてくれた彼も。


「それから、紫藤くんもどこにいるの?」


 どうやって、この闇の中を探したらいいのか。

 分からなくても考えるんだ。

 今、あるものは何?

 スマートフォンなんてない。

 あるのは――私の細い首。

 ここから大きな声を出すんだ。

 二つの肺に大きく風を吸い込む。


「おげっ」


 口の中がガジャリとした。

 砂粒でも噛むような感覚が気持ちが悪い。

 はしたないが、仕方がない。

 唾と一緒に、吐き出す。

 だが、出したソレが、どこに落ちたのかも分からない。


 まるで、空中に浮いているような感じもある。

 ここは、本当に日本のどこかなのだろか?

 不思議な空間だ。


 声を出したい。

 いや、出すんだ。

 喉がカラカラになっている。

 それに、顔に向かって砂嵐が吹きつける。

 けれども、この名前だけは叫びたかった。


「お父さん――!」


 聞こえないのかな。


「私はここにいるから……」


 空間を握りしめた。

 ザリッとしていることに驚きつつも、胸の前に拳を持っていく。

 バラバラと砂粒を風に任せた。

 全てが、果てしない空間に吸い込まれていく。


「このザラリとした砂が――。砂が、知っているのだろうか?」


 何を?


「お父さんの行方を!」


 私は、何も持っていないと思っていた。

 気が付くと、半纏姿だった。


「ああ、山菜そばのときのままだ」


 懐に、何か痛い物が入っている。

 古書。

 光り輝いているから、白い古書だ。

 こんな所に眠っていた。


「こんなモノは要らないよ。私が大切にしたいのは、大好きなお父さんじゃない……」


 涙が、ぽろっぽろと零れるのだが、空間が拭っていった。


「生きているのか教えて! 生きているって教えてよ――」


 風船が割れたように、私の心は、はち切れた。


 私は、どこかの地に足がついた。

 これって、場所が変わったってこと?

 聞いたことがある。

 読み物で、『転移』だとか、『転生』だとかって。


「私も『転移』か『転生』をして、この覚束ない足元に今いるってことかな」


 頭は、金平糖さん再来になってしまった。


 プピ?

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