双刻のヴァンパイア降る荒野

いすみ 静江

プロローグ

001 プロローグ――天の呟き

 吹き荒ぶ風に砂が巻かれる。

 まるで、白と黒の惹き付ける力が交互に煽るように。

 砂の谷間には、小さな男と女の影が揺らめいていた。

 強く打つ砂風に掻き消されながらも、生きようとしている人だろう。


 我は、てん

 かみともとも呼ばれしモノだ。


「……おお、神よ!」


 どうやら砂地の民が生意気にも我を呼びよるか。

 どうれ、下界を覗いてやろう。

 むう。

 若い娘を失いし両親だな。

 ガイナとシーニア夫妻から祈祷の叫びが届いたが、煩わしい。

 あれが、エルライミサ・オルビニアンか。

 銀髪が褐色の肌に映える美しさの中に、何かくんっと匂いよる。

 ただならぬモノであるとな。

 暫く、奴らの動きを天として、見守らなければなるまいな。


 遥か高みの虚空より、千里眼が踊る。




 ◇◇◇


 我はこの書を後の世へ残そう――。



『逢魔が時の刻印書』


 旅籠のエルライミサは、一日中働くと聞く。

 昼も夜も働いている。

 飲みや泊まりの客は、逢魔が時、エルライミサとその影法師に遭遇し、まるでウズムシのようだと吐きながら嘲笑する。


 エルライミサは姉であり、エルライミサが妹でもある。

 決して、同じ年の同じ月日に産まれた双子ではない。

 姉は二十三歳で、その下に妹がいる姉妹ではないかとは、噂による。



 この旅籠の止めを刺す話が、岩の碑に残っている。


 昼の妹が問う。


"母さん、どうして姉さまと同じ名なのですか?"

 

 妹に母は告げたらしい。


"妹のエルライミサよ、姉のエルライミサは、ひとたび亡くなったのだよ"


"姉さまは何故今生きているのですか?"


"墓に、それは見たこともない大蛇が現れ、命の種を与えて、息を吹き返したようだね"



 夜の姉が問う。


"父さん、どうして妹のエルライミサと同じ名にしたのか?"


 父は答えたとも噂される。


"姉のエルライミサよ。お前を大切に埋めたときのことだ。ほっそりとした腕がぬっと砂利を被せた所から伸びたのだ"


 姉をあしらいにくいと分かっていて、父は続けた。


"死んだと思った姉の魂一つ分、二人目も名を同じにしたのは、俺が、祟りを恐れたからだ"



 姉は妹に、妹も姉に文をしたためる。


 ――エルライミサ姉さまへ。

 邪魔をするのはやめて。

 青空の昼に働くのは、私がしていればいいのよ。

 愛されるのも一人でいい。


 ――妹、エルライミサへ。

 アナタばかり愛される。

 私が愛を独り占めにできないならば、青暗い夜の務めこそ、代わって欲しい。

 姉だからって、夜は嫌なの。

 夜の仕事は、もう、干からびるまでしたくないから。



 ――そしてまた、逢魔が時が来る。


 ◇◇◇


 何せ絵空事ではないからの。




 ◇◇◇

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