女豹の剣士けん玉になる

こげにく

第1話 獣剣士リゴ

──稀代の英雄が大剣を手にしたとき、新たな剣士が現れ未踏の世界を手にするであろう──


 僕の名前は飯田来須いいだ らいす、年は16歳。

 小学生の時に両親を交通事故で失い、実家の祖父の元へ引き取られた。

 あれから5年、事故以来まるで脱け殻のような人生を送ってきた僕は祖父の家を出ることを決意した。


 全く知り合いのいない街で夜間高校に通う毎日。でも祖父は僕の考えに理解的だった。両親が残した僅かな貯金と保険金を全額彼の学費および生活費として仕送りをしてくれ、僕は僕でアルバイトをしながら生活の足しにしていた。


 やりたい仕事も、叶えたい夢もない。ただ一刻も早く一人で生きられるようになりたかった。


 ある朝ベッドで目を覚ました僕はいつものように時計がわりにテレビをつける。


【今朝午前2時30分頃、A市を震源とする地震がありました。最大震度は4。引き続き余震にご注意ください……】


 ローカル局のニュースキャスターがしゃべっている。そんな大きな地震があったなんて全く気がつかなかった。

 昨日コンビニのバイトから帰って疲れてすぐに寝てしまったからだろう。


 最近どうもバイト先の労働環境がよろしくない。M県A市、この田舎町では比較的時給の良い深夜のシフトは割りがいいと踏んだのだが、ここ数週、店先のゴミ箱が野性動物に食い荒らされる案件が頻発していた。

 昨夜はぶちまけられた生ゴミを片付けようとしたところ目付きの悪い野良犬が数匹、目の敵のように襲ってきた。


 追いかけられて走り回った挙げ句に今度は猫に囲まれ、店に戻れば店長に怒鳴られ、僕はすっかり憔悴してしまった。

 今どき店の外にゴミ箱を置いておくコンビニが悪いのだ。


【A市で多発する獣害の件数は増加の一途で地元猟友会を動員するなどして被害防止に努めていますが効果は薄く、市長は緊急対策室を設置して……】


 アナウンサーの声がするが、どこか緊張感が無いというか、それがローカルニュースというものなのかも知れなかった。僕は急須でいれた緑茶をお気に入りの湯呑みに注いだ。


 特に僕の住む地区は野性動物による事件が多いようだ。アパートの掲示板に注意換気のちらしがまた一枚増えていた。


 リモコンでテレビのボリュームを下げる。ふと見上げるとテレビ台の上で古い“けん玉”が横倒しになっていた。


「こんなに散らかってたかな。それとも昨日の地震で倒れた?」


 それは亡き両親が買ってくれたオモチャ。僕にとっては数少ない思い出の品だ。


【小さい頃、父さんに教えてもらったけん玉が僕は大好きだった。あの事故以来、まともに触ってない……】


 僕はけん玉を手に取り、木の棒の尖った部分、つまり剣先を元の穴におさめようとした。……が、玉には差し込める場所が無かった。


「あれ? 穴が無い」


 と、思ったらあった。おかしいな、と思い小さなその穴を覗きこむ。


「……ねえ」


「……え?」


「あなたよ。失礼な真似しないでよね」


「うわぁ!」


 玉が……しゃべった!


 驚いて放り投げたけん玉はテーブルの上の湯呑みに当たってお茶を被った。


「あっ……っつい! いきなり棒刺そうとして次は熱湯かけるとか、信じらんないわ! この無礼者!」


「……え? ……え? 何のどっきり? モニター観察番組?」


「あっ、やたっ! 私ったらしゃべれる!」


 玉は勢いづいてまくし立てる。


「あなた何のつもり? あれ? 駄目……頭がぼーっとして思い出せない。何で私はこんな所にいるの? ねぇあなた、何でなの?」


「はぁ? そんなの僕が聞きたいよ! 何で玉がしゃべってんの?」


「うるさいなぁキャンキャンと。もしかしてイヌ族とかかしら?」


 突如部屋に現れた喋るけん玉。その正体を僕は知るよしもない。


 が、仕方がないので“それ”を恐る恐るテーブルの上に置いて話を聞くことにした。再び急須から湯呑みにお茶を注ぐ。


「ふん、茶の心を持ち合わせているのだけは安心したわ。変なことしないでよね?」


「し、しないよ、とにかくきみの名前は?」


「私の名は【リゴ】。アストレア皇国の守護者であり最強の獣剣士」


「じゅうけんし?」


「ええそうよ。正確には“人獣”の最高位。いいわ、少しずつ思い出してきた。もっと質問してちょうだい」


「じゃあリゴ、人獣って何ですか?」


「知らないの? その昔この星に存在したヒトという生物の絶滅後、その書物や遺跡をもとに様々な叡知を吸収した獣族けものぞくが錬成した術が人化よ。それによって進化した種族が人獣と呼ばれているの」


「ヒト……が……絶滅……?」


「そうよ。大昔の地殻変動でね。そしてそれら人獣の最高峰こそが私こと獣剣士リゴというわけ」


【駄目だ……】


 話の意味も、そもそもシチュエーションから理解できない。全て夢ではないか、そうとさえ思えてくる。


「あなたって獣學校じゅうがっこうでの基礎教育も受けていないのね。いったい何処の後進国なのか……、待って。あなたの見た目……肌の色……」


 リゴが、正確にはけん玉が小刻みに震えだした。


「ヒ……ヒト……?」


「あ、あの……」


「ごご、ごめんなさい、そこの鏡で私の姿を写して見せてくれない……?」


 僕は近くにあった卓上鏡をリゴに向ける。そこには、赤い頭と木製の棒、まごう事なき“けん玉”の姿が写し出されていた。


「い、い……」


【イヤああああああああ!!!】


 アパートに泣き声とも遠吠えとも言えない奇声がこだました。




◇ 突如現れけん玉に宿った謎の獣剣士の正体とは……? リゴの素性が解き明かされる!


 次回第2話 【大臣の陰謀】

 お楽しみに!

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