土俵に上がる
「…………難しい、ね」
「うっ、セルシア様はそう思うっすか」
セルシアにそちら側に立たれてしまうと、シュラとしてもこれ以上は何も言えなくなってしまう。
「違う。私たち、なら……倒せる、可能性は、ある。でも……ラガスの、様に、安定性は、ない」
自分たちが万全の状態で、装備や武器を惜しまず使うのであれば、倒せる可能性はあると思っているセルシア。
しかし、ラガスは墓場の攻略の際に、ソロでAランクモンスターであるハイ・ヴァンパイアを討伐した。
そして今回のイレックスコボルト戦では、うっかり羅門の使用を忘れていた。
セルシアも羅門を使用していれば、もっと余裕を持って討伐出来たと思っている。
場所が場所なだけに反動が残るアビリティの使用は好ましくないという意見は解るものの、そこをカバーする為のパーティーメンバーである。
結果として、ラガスは安定してAランクモンスターを討伐出来るだけの戦闘力を有している……というのがセルシアの感想。
対して、自分たち三人だけで戦う場合、可能性があるというだけで、安定性には欠けている。
「安定性っすか。まぁ、イレックスコボルト戦やメリルがソロで戦ったケルベロスも、毒をぶち込まれても自力でなんとかしちゃったっすもんね」
「あれには、驚いた。挑む、機会が、あるなら……挑んで、みたい。でも…………容易に、挑める相手じゃ、ないのは、解って、る」
まだまだ上を目指す気満々であるセルシア。
しかし、背負うリスクの大きさを考えられない程、強くなる事だけに脳を支配されてはいない。
「まぁ~~、それもそうっすね。もうちょい、イレックスコボルトと戦った時、タンクとして踏ん張るべきだったからな~~~」
決してラガスは手を抜いていた訳ではない。
寧ろ全力で戦っていたが、それでもイレックスコボルトを相手に、十分な戦力になれていたかというと、微妙なラインである。
「私も、同じ。紫電崩牙を、使ったん、だから……もっと、ちゃんと、斬るべき、だった」
武器の性能だけであれば、紫電崩牙は十分イレックスコボルトに通じる得物。
Aランクモンスターと戦うのであれば、プライドなど捨てて超高品質の武器に頼るという手段自体は悪くない。
それでも、セルシアには頼ってしまったのだから、それ相応の結果は出したいという思いがあった。
しかし、結果的に途中から全てラガスに任せてしまうことになった。
「……ってなると、もっと強くなるのが一番ってことっすよね。それなら、尚更地下遺跡でもっと探索すべきっすよね!」
「そう、ね。墓場は、もう知ってる、場所だし」
実戦的鍛錬の場という意味では、セルシアにとって墓場も十分それに値する場所であった。
しかし、自分のミスで結果的にラガスを巻き込んでしまったこともあり、トラップという存在が改めてセルシアに緊張感を与えることになった。
「んじゃあ、これからは……効率的に、CランクやBランクのモンスターを倒していくべきっすかね?」
「………………強く、なるため、なら。シュラが、よく、やってる、戦い方で、良いと、思う」
「俺のいつもの戦い方っすか?」
「うん」
シュラは鬼人族の腕力を活かし、大剣だけではなく長槍、戦斧、大斧、ハンマーといった武器まで扱える。
だが、相手が素手で戦うモンスターや、パワーに自身があるタイプのモンスターであれば、自らその土俵に上がって戦ってしまう。
効率的に討伐するのであれば、決して鈍足ではない脚を活かし、強靭な腕力から繰り出される一撃を叩き込むのがベストではあるが、戦いを楽しむ脳筋タイプであるシュラは、よく相手の土俵に上がって戦ってしまう。
「倒す、だけじゃ、なくて……乗り越えれば、今より、強く、なれる……多分」
どのタイミングで更に殻を破り、成長するかは人それぞれ。
ただ、温い戦いを続けていても、成長することは出来ない……それだけは全員に言える事実であった。
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