諦めない理由は何?

あの学生、結構粘るな。

いくら生命力を身体能力や魔力に変えてるとはいえ、もう五分以上は戦ってるよな。


シュラが完全に楽しんでるから……っていうのも一つの理由だとは思うけど、これまたちょっとびっくりだ。


「ラガス坊ちゃま、二人が起きそうですよ」


「おっと、シュラの邪魔はさせないぞ」


睡眠弾をぶち込み、起き上がって主人……ルカ・キシウスだったか。

加勢しようとした二人を眠らせ、邪魔を防いだ。


ぶっちゃけ、そんなに効果は高くないけど、俺とメリルにやられてボロボロな状態なら、あっさり効いてしまう。


「万が一シュラを倒せたとしても、私とラガス坊ちゃまがいる訳ですが……おそらく、そこまで頭が回っていませんよね」


「どうだろうな。シュラを倒した後でも、ぶっ倒れずに俺とメリルも倒すつもりかもしれないぞ」


まっ、さすがに無理だろうけどな。

一気に寿命、数十年分の生命力とか使われたら分からないけど、それは色んな意味で無理だろ。


「それはなんとも……生意気ですね」


「こらこら、向こうは貴族の令息なんだぞ」


「おっと、そうでしたね」


「でも……本当に鬼気迫る表情だな」


両国に自身の力を示すことが出来るチャンス。

それを考えれば、必死になって上を目指して少しでもかちあがろうとするのは解る。


ただ、生命力を削ってまで望むか? と思ってしまう。

生命力を身体能力や魔力に変え始めたのは、俺たちの試合から。


それまで普通に対戦相手を倒している。

三回戦まで上がってくる時点で、それなりの強者であるのは間違いない。

決して執事とメイドにおんぶ抱っこではないからな。


三回戦進出……その時点で悪くない戦績。

にも拘わらず、命を削ってまで俺たちに勝とうとしている。


「何か、絶対に負けられない理由でもあるのかもな」


「えっ、私の知らないところで恨みを買ったのですか?」


「そんな訳ないだろ!」


街に着いてから、普通に大人しくしてるっての。

セルシアとちょっと激しく模擬戦するぐらいしか……うん、普通じゃないことはしてない。


「リングの上で初めて会ったし、名前をハッキリと覚えたのも今さっきだ」


「では、恨みの買いようがありませんね」


「だろ……だから謎なんだけどな」


もしかして、在籍してる学園の方から、絶対に俺たちを潰せ!!! 的な命でも下されてるのか?

それなら、あそこまで何が何でも勝つ!!!! って表情で戦い続けるのに納得は出来る。


でも、こんなところで、さすがに命までは削りたくないよな、普通はさ……ルカ・キシウスが異常者には見えないし、マジで明確な理由が見つからない。


「ラガス坊ちゃま、このままでは中々終わりませんよ」


「別に良いんじゃないか? 観客たちはシュラとルカ・キシウスのバトルに熱を上げてる。どう考えても俺たちの勝ちは決まってるが、熱いバトルが観られるなら、観客たちにとってそこら辺は関係無いだろ」


「……ですね」


多分、スタミナに関しても生命力で補ってるんだろうな。


けど……そろそろ戦い始めてから、十分近くになる。

出力を見る限り、数年分ぐらいか? それぐらいは確実に消費してる。


元の寿命がどれぐらいかは知らないけど、本当に容赦なく削ってくな。


ただ、後五分ぐらいが限度……でもなさそうだな。

生命力を回復力に変換してやがる。

ここまでくると、ちょっとイカれてるな。


シュラを相手にいい勝負出来てるけど、まだ本気じゃない。

加えて、楽しいと思える相手とのバトルなら、あいつは延々と続けられる。

だから……どんなに頑張っても、無駄に寿命を減らすだけ。


残酷な言い方かもしれないけど、その結果は変わらない。


「シュラ!!! あと少しだぞ!!!!」


「うっす!!!!」


なので、あと五分以内には確実に終わらせる。

可哀想かもしれないが、無駄に寿命を散らすよりはよっぽど良い筈だ。

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