はぐれた時のために
「そんなことが、あったんだ」
パートナー専用寮に戻ってから、セルシアに本日起こったことを全て伝えた。
あまり表情に変化がないのはいつものことだが、俺がイーリスの父親……リザード公爵様に依頼されたことに関しては、全然怒ってないっぽいな。
「そうなんだよ。てな訳だから、イーリスと従者? と一緒にウィルキリアって街に行くんだけど、セルシアも来るよな」
「勿論、行く。かなり、楽しそう」
かなり楽しそう、か……つまらなくはないだろうけど、個人的には未知の閑居王に近いと思うんだよな。
「ラガス様、悩ましい表情をしていますが……何か問題でもあるのですか?」
「いや、特に問題はないですよ、キリアさん。ただ、出発する前に色々と用意はしないといけないなと思って」
一応俺の魔弾アビリティを使えば、寒さはどうにかできる。
でも、万が一はぐれた時のことを考えると、個人個人で防寒具は用意しておいた方が良いんだよな。
先日の一件で多くの貴族に感謝の品を貰ったけど、その中に防寒着とかはなかった。
当たり前と言えば当たり前なんだけどな。
仮にそれが送られてきたら、俺の未来を読んでるのかと思ってしまう。
「そうですね。服、手袋など色々と用意は必要ですね……もしかしてラガス坊ちゃま、その道具にも大金を使うつもりではありませんよね」
「はっはっは! 安心しろって。適当な物は買わないけど、二人の作業着ほど高い者は買わないよ」
「作業着?」
頭の上にはてなマークを浮かべるキリアさんとルーンに、メリルは大きなため息を吐きながら俺が行った決断を伝えた。
「「ッ!!!???」」
まっ、そういう反応にはなるよな。
それはもう予想出来てた。
「ら、ラガス様……それは、本当なのですか?」
「勿論本当ですよ。メリルの表情を見れば、一目瞭然かと」
「そ、それは……そうですね」
俺の決定だからこそ、メリルは大きなため息を吐き、シュラは嬉しそうに……豪快に笑ってる。
「ラガス、超太っ腹」
「いや、セルシア様。太っ腹どころの話ではありませんよ」
ルーンがセルシアの感想を訂正する。
服に白金貨五十枚……前世の俺なら、絶対にしない決断であったのは間違いない。
そんな気の迷いすら起きないだろう。
ただ、二人の今後を考えれば必要な物……装備なんだよ。
「まっ、出発する日までに色々と装備品は整えておこう」
期限までに防寒具系はきっちり揃える。
それで寒さはなんとかなる。
でも、雪山? での行動というか……ちゃんと動けるのかどうかだけは心配だ。
実家で生活してる時に、雪が降った時に森に入ってモンスターと戦った経験はあるけど、その経験を体が覚えてるかどうか。
後、雪崩の可能性を考えると、音魔法は絶対に仕えないな。
持ち雪崩が起きたら……全員が助かるのは難しい。
癪だけど、イーリスが同行する以上、あいつを死なせる訳にはいかない。
仮に死なせてしまったら……ッ。考えただけで恐ろしい。
客観的に考えれば俺に非はないというか、そもそも参加を決定したリザード公爵様が悪いって話だと思うんだが、そんな常識的な考えが通じる世界じゃないしな。
「ラガスさん、何難しい顔してるんすか? もし良かったら、夕食の時間まで体を動かしてスッキリしましょうよ!!」
「……だな」
「私も、参加する」
夕食になるまでルーフェイスも混ざり、軽く汗を流してから、思いっきり夕食を腹にぶち込んだ。
翌日から依頼を達成するために、色々と必要な道具を買い始めた。
俺的にはいくらでも金を使って良いと思っているが、それはメリルに制限された。
セルシアはバルンク様に今回の一件を報告したら必要経費を送ってもらった様で、自分の分は自分で払っていた。
因みに、必要経費と一緒に送られてきた手紙には、俺宛てにセルシアが正室であれば、イーリスを側室にしても構わないと書かれていた。
……バルンク様、今のところその可能性はゼロなので安心してください。
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