そこでは緊張しない男
演習日……になる前に、俺には重要な役目がある。
それはスレイドがアズライトを加工した指輪を婚約者であるフローラ・レリースさんにしっかりと渡せるかどうか。
既に加工は終え、何時に何処で渡すという内容が記された手紙が届いた。
そして現在、教えてくれた場所がこっそりと見える場所で見守っている。
ちなみに、まだフローラさんは来ていない。
スレイドが緊張し過ぎなのか、カチコチの表情になっている。
「……物凄く緊張してるっすね」
「そうですね。普段からサプライズなどしてないのでしょうし……するタイプでもないでしょうから、ラガス坊ちゃまと戦った時よりも緊張してそうですね」
「スレイドはシュラやセルシアと同じく、バチバチにバドルするのが大好物なタイプだから、俺との試合なんて全く緊張してなかったと思うぞ」
というか、普段からあんまり緊張なんてするタイプじゃない。
生死が関わっていたメタルセンチネルの戦いでも、チラッと表情を見ると好戦的な笑みを浮かべてたしな。
だからこそというか、メリルの言う通り普段からサプライズなんてしないから、ガチガチに緊張してしまってる。
あれでちゃんと日頃の感謝を伝えながら、しっかり指輪を渡せるのか?
「なんと、いうか……試合の時とは、別印象」
「それだけスレイドも緊張してるって訳だ。俺としては……あれだけ頑張ったんだし、上手く成功してほしい」
ぶっちゃけルーフェイスに頼りっぱなしの面はあるけど、それでも全くやったことがない採掘作業を何度も何度も続け、ようやく目的の宝石を手に入れた。
活動したのは一日だけど、あれだけ掘って中々でなかったし……途中で心が折れてた可能性は十分にある。
だからこそ、しっかり感謝の気持ちを伝えて成功させてほしい!!!!
「あ、どうやら婚約者の方が来たようですね」
あれがフローラさんか……うん、確かに見覚えがある。
ただ、スレイドとセットで見ると……失礼なのは分かっているが、中々似合わないな。
「お、遅れてしまってすいません!」
「いや、俺が……早く来ただけだ」
よし、ちゃんと会話は出来てる!!
後はきっちり感謝の言葉を伝えて、指輪を渡すだけだ!!!!!
「…………」
「…………」
うぉいいいい!!! なんでどっちも何も喋らないんだよ!!!
直ぐに感謝の言葉が出なくても、こう……会話を続けないと!!
「ラガス坊ちゃま。もう、表情がスレイド様を心配する両親の様になっていますよ」
「今そんなの良いんだよ」
アホか!! 今回のサプライズにガッツリ協力したんだし、上手くいくかどうか心配するのは当然だろ!!!
「ふ、フローラ!!」
「は、はい!!!!」
「お、お前に……日頃から、感謝している。あまり他の生徒と良い関係を築けていない俺をフォローしてくれたり、疲労が溜まっている俺を学園の外に連れ出し、癒してくれた」
「い、いえ! 私は、その……スレイド様の婚約者なのでと、当然のことをしたまでです」
当然のことをしたまでです、なんて言いながらも真正面から普段の行動を労われたからか、頬がゆるゆるになってますよ、フローラさん。
「ラガス坊ちゃま、これは……物凄く良さげな雰囲気なのでは?」
「あぁ、その通りだ。後はもう、指輪を渡すだけだ」
あんなに表情がゆるゆるになっている状態であれば、もう……あれだ、とろけきった状態にするのも不可能じゃない!!!!!
「すぅーーーー……はぁーーーーー……フローラ。これは、いつもお前に世話になっている礼だ。是非とも受け取って欲しい」
「え、あの! その、本当に私は当たり前のことをしているだけで」
えっ!? こ、ここに来てプレゼントを拒むのか!!
いや、それとも卑しい女だと思われないため予防なのか?
「フローラ、受け取ってくれ」
「ひゃ!!!! わ、わわ分かりまし、た」
おぉ~~~~~、手をがっしりと握りながら強引に渡すとは……超男らしいじゃないか!!!
そして恐る恐るフローラさんが箱を開けると……な、泣いてしまった!!??
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