宝物庫にはなかったので

「お疲れ様です、ラガス坊ちゃま」


「お疲れ、ラガス」


「ありがと。まぁ……試合はこっちが一方的にボコっただけだけどな」


特に疲れたという気持ちはない。

寧ろスッキリとした気持ちしかない!!!!!


多分……多分だが、あの容姿を見る限り普段が王子らしい王子だと思うんだよ。

だってバカ第三王子についてちょろっと調べたけど、暴君王子的な内容は全くなかったんだ。


もしかしたら巧妙に隠していたのかもしれないけど……そういうことが出来るなら、今回の件ももう少し上手くなんとかやる筈でしょ。


ただ、あの自分がセルシアを想う気持ちは絶対に間違っていないとでも言いたげで、自信満々の表情はムカついたから思いっきり殴れて超スッキリした。

それだけは間違いない。


「いやぁ~~~~、結構容赦なかったっすね。ドラゴニック・ビルドアップまで使ってたっすよね」


「向こうがそれなりに良い装備を身に着けてたからな。最初の数撃なんか殴った感触はあれど、ダメージが入った感覚は無かったからな」


ダメージ身代わり効果が付与されたマジックアイテムでも身に着けてたんだろう。

それに、結構本気で殴ったのに治癒不可能な状態にはならなかった。


それはやっぱり身に着けていた防具とかの効果があったからだと思う。


「ラガス殿、愚息の相手をしていただき誠に感謝する」


「い、いえ。ちゃんと報酬があるんで。だから頭を上げてください」


お偉いさんに頭を下げられるのはどうもむずむずする。

だからそんなきっちり頭を下げないでほしい。


ほら、後ろで薄っすらと意識がある愚息さんが心底驚いた顔してますよ。


「アルガ国王の名に誓い、この結果を覆させるようなことはさせない。そして愚息が暴走してラガス殿たちに迷惑を掛けないことを約束する」


「よろしくお願いします」


仮に……仮にそんなことが起こってしまったら、迷惑が掛かるのは俺たちじゃなくてアルガ王国側だからな……暴走した第三王子君が王族という権力を乱用するのかもしれないけど、さすがに兵士や騎士……暗部の人たちも王命には逆らわないから安心しても良い……よな?


「そして報酬に関してなのだが、空間魔法のアビリティ結晶は宝物庫にあったので夕食が終わった後にでも渡そう。だが、セルシア殿の細剣に関しては少々時間が欲しい」


「そうですか……分かりました。七日以内によろしくお願いします」


「う、うむ。分かった。七日以内に必ず」


悪いが、そう長い間この国に居続けるつもりはない。

夏休みは夏休みでのんびりしたいんだよ。


此処に来るまでの時間は決して短くない。

実家に帰省もしたいし、そこまでそちらに合わせられないんだよ。

騎士たちは若干……ほんの若干怒ってるっぽいけど、帯剣している剣に手が伸びることはなかった。


にしても、セルシアが望む雷の名剣は宝物庫に無かったのか……最低でもランク七って言ってから向こうはちゃんとランク八か九の細剣を用意するつもりなんだろうな。


その気持ちは良いんだが、やっぱり七日が限界だな。


「ラガス坊ちゃま、もう少し期限が短くてもよろしかったのではないですか?」


「宝物庫にセルシアが望む細剣がなかったなら、素材集めから始めないと駄目だろ。王族の権力とかを考えたら七日あれば丁度良いかと思ったんだ。あんまあり短くし過ぎて中途半端な物をセルシアに渡されても困るからな」


「なるほど、それもそうでしたね。視野が狭まっていました。しかしラガス坊ちゃま、ガルガントに戻ってから夏休みが終わるまであまりのんびりとしている暇はないと思いますよ」


「えっ、そうなのか?」


確かに実家へ帰ることを考えればまた移動でそれなりに時間を取られるけど、十日ぐらいはのんびりできる時間があると思ってたんだが。


「ラガス、忘れたの? 私の実家にも、来てほしい」


……そ、そうだった。バカ王子をボコボコにするのを優先し過ぎてて完全に忘れてた。

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