弟を想う姉の思考

「良い方たちですね」


「環境にはとても恵まれていますよ」


全ての模擬戦が終了し、結果は……フェリスさんの圧勝。

話を聞きつけたアリクやクレア姉さん、サルネさんや会長までフェリスさんと模擬戦を行ったが、決定打を一つ浴びせることが出来ずに模擬戦は終了。


皆全力を出し切り、終わった後はへとへとになっていた。


「確かに卒業するまで俺は成長出来ないかもしれませんけど、良い環境に恵まれているので今の生活は悪いと思いません」


「そうですね……ラガスさんの年齢を考えれば、今の実力は異常といえば異常ですし、学園を卒業する年齢時を考えてもやっぱり頭四つ五つ抜けてるので問題はなさそうですね」


「まぁ……これでも鍛えてるんで、そうそう負けませんよ。今日はいませんけど、先程話したリーベも競い合える一人ですから」


「あらあら、本当に良い環境に恵まれたのですね」


そうなんだよ、環境には本当に恵まれた。

入学早々決闘を申し込まれたり、選抜戦で反則する奴と戦ったり、大会では知らぬ間に買っていた恨みを晴らそうとしてくるだるい女と戦ったりしたけど……うん、環境には本当に恵まれてるよ。


「それで、アルガ王国に入国してからなんですけど……」


「勿論ラガスさんの護衛として付いてきますよ」


「ありがとうございます。それで、ちょっと迷ってることがあって」


「何をですか?」


「フェリスさんが狼竜であるかどうか、ということを向こうの使者に伝えるかどうか迷っていて」


事前に伝えていた方が、向こうが馬鹿を起こす可能性が少しは下がる気がする。

ただ、それは事前にフェリスさんに確認しておかなければならない。


「……私としては構いませんが、ルーフェイスのことはブラックウルフとして通してるのですよね。それなら、どこかでルーフェイスも狼竜ということがバレてしまいませんか?」


…………そういえばそうだった。

完全に忘れてたは……やば、どうしよう。


「ふふ、安心してください。アルガ王国のおバカさんたちが襲い掛かってきたとしても、場所を考えて仕留めます。色々と道具も持ってきているので、その辺りは気にしなくても大丈夫ですよ」


「そ、そうですか……分かりました」


事前に色々と用意してくれてたんだな。

それは嬉しい……嬉しいんだけど、いったいどんな道具を用意したんだろ。


何回かあの宝の山を見たことあるけど……生半可な物は一つもなかった。

襲い掛かってくる奴に同情はないけど、予めご愁傷様と合掌しておくか。


「どうかしましたか?」


「未来のアホに合掌を送っただけです」


模擬戦が終わった後、皆で夕食を食べて満腹になった今はいつも通りベランダで黄昏ていた。


明日からいよいよアルガ王国に向けて出発か……どんな面倒事が待っているのか、考えただけで憂鬱になるな。

決闘になればぶっ飛ばして呪ってやるって思ってたけど、それですんなり終わるのか……はぁ~~、本当に面倒な感情を暴走させてくれたな、クソ三王子。


ぶっ殺せば流石に国同士の……国際問題になるよな。

殺すのはおそらく簡単だ。決闘になったとして、相手がよっぽど有能なマジックアイテムを身に着けていない限り、一瞬でギアマックスで動けば心臓や喉に脳も潰せる。


「なに黄昏てるんだ、ラガス」


「な~に考えてるの!」


「アリク、クレア姉さん……ちょっと明日からのことを考えてた」


「あぁ~~、その件か。普通に考えて頭を抱えたくなるよな」


そうなんだよ。いや、俺も初めて第三王子の件を知った時は頭の上にはてなマークが何個も浮かんだよ。

直ぐに書かれてある内容は理解したけどさ。


「でも、何が起こるか分からなくても、せいぜい第三王子が決闘を挑んでくるぐらいじゃないの? そうなれば、ラガスの圧勝で直ぐ終わるじゃない」


「そりゃボコボコのボコボコにして呪弾で呪って潰そうと思ってるよ」


「……相変わらず過激だな。まっ、殺そうと思ってないようでちょっと安心した」


いや、殺そうとは思ったよ。

何度もそうしてやろうかと頭に考えがよぎったけど、さすがにそれはダメだって言い聞かせた。


「ラガスに私利私欲な理由で迷惑掛ける様な馬鹿なんて、死んでも良いんじゃないの」


「おい、滅多なこと言うなよ」


「だってパートナー制度は絶対。他国の王族であろうが、基本的には口出し出来ない筈よ。なのにこっちに来るどころか自分達側に来いって……ラガスからすれば、殺してくださいって言ってるようなものでしょ」


「……そうだね。相手が王族でなかったらぶっ殺してるかもね」


相手が王族だからこそ俺が向こうに行かなきゃならないんだけど……何か色々考えが矛盾してきた。


兎に角、殺しはしない。それは確定だ。

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