遠くまで寒気が

模擬戦が始まってから十分以上の時間が経ち、お互いの疲労が溜まってきたところで一度均衡が崩れた。


「ホーリーブレイクッ!!!!」


「烈火轟炎斬ッ!!!!」


二人の切り札とも言える技がぶつかり、衝撃で周囲に爆風を巻き起こす。


(……光どころか、聖属性まで扱えるって……本当に化け物だな)


聖属性を持つ者は基本的に教会に所属する。

教会に所属している者以外で聖属性の魔力を使える者はごく種数であり、聖魔法のアビリティを習得出来るクリスタルはダンジョンの中からでも滅多に手に入らない。


故に、教会に所属する者以外で聖属性の魔力を操れる者は限られている。


(でも……この競り合いは、リーベの勝ちみたいだな)


ただただ斬って倒す。その行動に全ての力を注げば……聖なる刃ごと吹き飛ばせる。

それだけの力がリーベにあり、実行してみせた。


「ぜぇぇええああああああああッ!!!!」


「ッ!!!???」


この一撃で終わらせられると思っていた。

今まで学園の教師たち以外には破られたことがなかった。


自信を持って言える……この一撃は今の自分の最強の一撃だと。

その一撃が……今、完全に破られた。


鍔迫り合いに負けたライドは吹き飛ばされ、壁に激突。

吐血が漏れるほどの衝撃が体内に加えられた。


「ふぅーーー、良かった。この斬り合いには勝ったか」


「そうですね……大きな差はありませんでしたが、やはり自力に少し差があったというところでしょうか」


「努力の質によってその差が生まれた。俺にはそう感じたっす」


ラガス達はリーベが今の斬り合いに勝ち、少しだけホッとした。

ただ、安心はしていなかった。


「…………」


烈火轟炎斬で見事、ホーリーブレイクを打ち破ったリーベ自身も安堵した表情は浮かべない。


(今の技のぶつけ合いに勝てたのは良かった。大丈夫だとは思ってたけど、今の勝負に負けたらプランが潰されるところだった)


四人は知っている。ライドにはホーリーブレイクを超える切り札をまだ残していることを。


「おい、それで終わりじゃないだろ」


傍から見ればリーベの勝ちだ。


だが、奥の手を知っているリーベだからこそ、ここでライドが終わらないと解っている。


「君は……本当に強いね」


「弱かったら、惚れた人を守れないだろ。お前だってそう思うだろ」


「……そうだね。その気持ちは、良く解る」


嵐が起こる前の静けさが場を支配する。


観客席から見ていたラガスたちは背中に冷たさを感じた。

流れが変わる……その言葉を体現する何かが起こると、本能が警戒している。


「だから、僕も負けられない」


雰囲気が変わった。

今のライドを表す言葉に相応しい。


先程までは絶対になにがなんでもこの勝負に勝つ。

その熱さが前面に現れていた。


(遂に使ったか、限界突破……限界を超えたら熱が冷えて冷静さを取り戻したのか?)


直ぐに雰囲気が変わったことを察した。

だが、熱は消えていない。


正確には、心の熱は更に燃え上がっているが、炎を覆い隠す冷気がつくられた。


(立ち向かっていなくても解る……さっきまでのライド君とは全てが違う)


「……いくよ」


「ッ!!!!」


一気に形勢が逆転した。

身体能力が爆発的に上がり、魔力が一時的にではあるが、元に戻った。


先程まで攻防をテンポ良く繰り返していたが、今は完全にリーベが防戦一方。

しかしそれでも、事前にラガスがこうなるかもしれないと予想していたお陰で、今のところ致命傷は食らっていない。


(ラガスこれを想定して、訓練を付けてくれていなければ、本当に不味い状況だった、な)


防御と回避に徹しながらも、ラガスとの訓練を思い出す。

素の身体能力と身体強化が加われば、今の様な状況をつくるのは決して不可能では無い。


だが、防戦一方という状況は覆せない。


「事前に想定した訓練をしていても、流石に攻撃に転じることは出来ないようですね」


「身体能力がそこまで爆発的に上がった訳じゃない。というか、無理に攻撃に移ろうとしない方が良いだろ」


「シュラの言う通りだな。ここで焦って攻撃に移ろうとしたら、致命傷を食らう可能性がある。そこで気を失ったら、勝てる勝負も勝てなくなる」


目標は完膚なきまでの勝利。

それを達成するためには、ここで焦って攻めてはならない。

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