精度と切り替え

スタミナは両者、同じペースで減り始めている。

だが、斬り傷に関してはライドの体に徐々に増え始めた。


(魔弾のコントロールがここまで戦闘に影響するか……教えた本人からすれば、これほど嬉しいことはないな)


二人の剣技の技量はそこまで差はない。

だが、そこに魔弾という武器が一つ加わったことで状況が変わり始めた。


「ライドブレードッ!!!」


これ以上、手札を晒さないのは無理だと判断したライドは属性魔法のアビリティを使い始めた。


「ファイヤーブレードッ!!!」


それに対抗するようにリーベも己が得意とする属性を使い始め、戦いは更に激化する。

しかしその中でも魔弾を細かく使い続け、差を広げていく。


(はぁ、はぁ、はぁ……強いな。予想以上だ、ここまで押されているのは……僕が彼のことを過小評価していたからだ)


決闘の約束が成立した後、ライドはそれなりにリーベのことを調べようとした。

しかし貴族の学園、四校の生徒が出場する大会には出ておらず、全く情報が無かった。


それなりの強さを持っているとは予想していたが、自分が所属している学園の令息たちと同じか、トップレベルか……仮にトップレベルであっても負けるつもりは一切無かった。


だが、今ライドの脳裏には負けるかもしれないという、嫌な警告が鳴り響く。


(もっと……感覚を研ぎ澄ませないと)


実戦の中でイメージを重ね、自分の理想の魔闘気に近づけていく。

無駄な魔力を消費しない、しかし敵の攻撃を通さない固い障壁……この実戦の中で魔闘気の精度が上昇していく。


「むっ!」


その結果、斬撃刃今まで通り通用しているが、魔弾では皮膚を切り裂けなくなった。


(急に切れなくなったな……魔闘気の質が変わったか)


この戦いの中で、技術が一段階進化した。

その光景に背筋が軽く冷たくなった……やはり今戦っている者は怪物だと。


ラガス程の規格外ではなくとも、間違いなく例外側の人間だと認識させられる。


(それなら、攻撃方法を変えれば良いだけだ)


今までは躱せるか否かのギリギリの位置を狙って撃っていた。

一発でも当たればこの決闘を大きく動かす……だが、そんな弾丸だからこそライドはギリギリ反応出来る。

皮膚が切れることはあっても、致命傷にはならない。


だが、今は当たったところで皮膚が切れず、軌道が逸れるだけで終わる。


致命傷を狙うのは意味がないと判断したリーベは打撃用の魔弾を撃ち始めた。


今まで撃ってきた弾丸よりは狙いが解りやすくなる。

だが、切れ味がなくなったとしても、打撃力が消えたわけではない。


上手く防ぐか躱さなければバランスが崩される。


(クソッ!! なんて切り替えが早いんだ!!!)


リーベの狙いに気が付いたライドは表情が渋くなる。


この戦いの中で魔闘気の精度が一段階上がった。

今後のことを考えれば、それは大きな収穫といえる。


しかしこの決闘に必ず勝つには……小さなミスが命取りになる。


魔弾の切傷力を完璧に抑えたと思えば、即座に打撃狙いに切り替え……その早さに驚かずにはいられない。

だが、狙いを変えたからといって、それが成功するかどうかはまた別。


(……チッ!! 中々決まらないな。反射速度が速いとはいえ、ここまで決まらないとは……弾数は前よりも増やしているんだが……防御や回避の面でも頭一つ抜けているという訳か)


決闘内容、時間。

既に後半に差し掛かろうと思える状態だが……二人の戦いはまだまだここから激しさを増す。


「いやぁ~~~……スゲぇな。この決闘、金を払っても観る価値があるよな」


「そうですね……三年生でもここまでハイレベルな戦いが出来る人は少ないかと」


「二人の関係が特別だからってのもあると思うっすけど……戦いの内容だけじゃなく、絶対に負けられないという思いも強く伝わってくる。その思いが戦いに反映されているとも思える」


ラガスたちから観ても、二人の戦いはハイレベルだと断言出来る。


戦いの最中に魔闘気の精度を上げ、攻撃が効かなくなったと分かれば直ぐに戦法を切り替える。


(今のところ、どっちが勝ってもおかしくない内容だ……チッ! あれだけガッツリ練習に付き合ったのに、まだ五分五分って……やっぱり才という点ではフェアじゃないな)


才能という言葉は、努力を無視している様で気に入らない。


そう思っているが、確かに存在する……持って生まれた物。才能という名の理不尽。

だが、ラガスはまだまだリーベは負けていないと思い、信じている。


この戦いに勝つのはリーベだと。

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