折角解けたのに

「さて、これから実戦を想定した訓練を始める」


訓練場に着いていきなりその一言は良く無いんじゃないでしょうかバレント先生。

他の生徒達がブルッてるじゃないですか。


「安心しろ。お前達の先輩も同じような顔をしていたが特に問題は無い」


いやいやいや、絶対に問題ありでしょ。

心の問題的に。


「これからお前達には現実を見て貰う」


「げ、現実ですか?」


「そうだ。とりあえずお前ら、自分の最強の魔法が当たれば同年代の奴らは倒せると思っている奴、正直に手を上げろ。別にこれは成績に関係しない。自信を持って手を上げろ」


同級生たちが徐々に手を上げていき、最終的には過半数の生徒が手を上げた。

確かに攻撃魔法をなんの防御もせず喰らったら大ダメージなのは確かだ。


「ざっと三十人弱か。よし、お前らは一列に並べ。これからある奴と戦って貰うからな。言っておくがお前らに拒否権は無い」


言いきったよこの人。生徒の先の事を考えての授業内容んなんだろうけど、一切遠慮は無いな。

生徒達ビビりまくってるな。


「そこまでビビる必要は無い。というか、そんなに緊張していらたいつも通りの力が出せないぞ」


そう言いながら俺に目で合図を送って来た。

前に出ろって事だよな?


「今からお前らにラガス・リゼードと戦って貰う」


バレント先生がそう生徒達に言うと、生徒達の顔からは確かに緊張は消えた。

その代わり嘲笑や失笑が生まれる。


「バレント先生、そいつが基本属性の魔法アビリティを習得していないという事を知らないんですか?」


「そうですよ。そもそもそんな奴、魔法科の授業に出る意味は無いと思うのですが」


男女関係無しに言いたい放題言ってくれてんな坊ちゃん嬢ちゃん共。

もしかして兄や姉から授業内容は聞いていないのか?

ただ単にプライドがボロボロに砕かれたって事しか聞かされていないのかもしれないな。


「言っておくが、お前らはラガス・リゼードと魔法合戦をする訳では無い。そうだなぁ・・・・・・今回の摸擬戦でラガス・リゼードに傷を付ける事が出来たら前期の授業は最高評価を付けてやる。私語は謹んでさっさと始めろ」


中々重大な責任を背負わされたんじゃないか俺は。

まぁ、別に負けるつもりは無いけどさ。

というかあの中にジークの奴はいないんだな。


一応狼竜眼で除くか。


「・・・・・・まっ、問題無いか」


周囲に聞こえないようになるべく小さく呟く。

それでも俺の声が微かに聞き取れた奴がいたらしく、眉間に皺を寄せている。


さて、もう既に戦いは始まっているパターンか。

普通に倒せば良いんだよな。


「ラガス!!」


「? 有難うございます」


一応接近戦タイプが相手という状況を想定したいのだろうか、木剣を渡してくれた。

相手の坊ちゃん貴族は態々待っていてくれたらしい。

別に不意打ちしても起こらないのに。


俺が木剣を持った瞬間に詠唱は開始した。


「遅いって」


「グボォア!!!???」


身体強化のアビリティを使用して一直線に駆け出す。

そして腹パンを一発かまして終了。


「ふ、ふざけ」


「ふざけて無いって」


膝を付きながらも立ち上がろうとした坊ちゃん貴族の頭を踏みつけて黙らせる。


「ブグっ!!!!」


「バレント先生。俺の勝ちで良いですよね」


「そうだな。前の勝ちだ。次の奴」


俺と坊ちゃん貴族との戦いがよほど衝撃的だったのか、殆どの生徒が固まっていた。

メリル達だけは当然の結果だと言わんばかりにドヤ顔になっている。

なんでお前らがドヤ顔してんだよ。


「・・・・・・おい、戦わないんなら評価を一番下に下げるぞ。次の奴、さっさと前に出てラガス・リゼードと戦え」


「は、はいっ!!!!」


あーーらら、折角緊張が解けていたのにまたガッチガチになっちゃてるじゃん。


「もう既に試合は始まってるんだから、しっかりとなんかしろよ」


さーーーて、腹パンだけで倒すのはつまらんだろうから色々と手を変えてみるか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る