普通は愚策

昼食を終えた後、いきなりシーリアさんに摸擬戦をしないかと誘われた。

何となくそういう誘いは来るかもしれないと予想していたが、本当にくればそれはそれで驚く。


チラッとカロウス兄さんの方を見ると戦ってやって欲しいと頷かれた。


カロウス兄さんの婚約者なら別に口は軽くは無いだろうと思い、摸擬戦を行う事になった。

シーリアさんの得物は槍。ロウド兄さんと一緒のようだ。


カロウス兄さんに審判をして貰って摸擬戦を開始する。

お互いに使う武器は刃を潰したものだが、当たり所が悪ければ骨は折れる。


だがそんな事は関係無いといった様子でシーリアさんは地面を踏みしめ、一気に加速する。

まだ本気の速度って訳じゃ無いんだろうけど、俺にとっては十分に速い。

一応身体強化を使っておくか。


「さすがに今のは避けるか」


「速いですけど直線的だったので、どう動くかは予測出来ました」


「そうか、まら次からはもう少し考えて動こう」


その言葉通りにシーリアさんはフェイントを交えながら攻撃を繰り返す。

俺よりも経験があるからか、どのフェイントも途中までは本気でなのではと思わされてしまう。


今の俺にここまでのフェイントが行えるのか?

正直自信は無い。迫力と本気を感じさせるフェイント。

俺がそれを実行しようとしたら本気になり過ぎて敵意か殺気が漏れそうだ。

最低でも強い戦意は完全に漏れる。


「空中に避けるのは少し愚策じゃないか」


態勢を低くしての回し蹴りに対して俺は跳んで躱す。勿論後方に跳びながらだがシーリアさんの射程からは逃れられていない。

そして空中という足場のない場所は基本的に逃げようが無い。だからシーリアさんが言っている事は間違っていない。

俺が遠距離攻撃を持っていなければの話だけど。


「魔弾」


真っ直ぐ迫りくる先の点に標準を合わし、魔弾を発射。

魔弾と槍の刃の部分が衝突した事でシーリアさんが後方に仰け反り、突きが俺に当たる事無く防御に成功。


「槍の刃先に当てるとは、とんでもない精度だな。それ程までにそのアビリティを使い続けて来たという事だな」


「まぁ、俺のカードの一つですから」


今回の狙いは中々に至近距離の的だったから動く速度が早くてもそこまで難しくは無い。

というか、魔弾の効果の一つを使えば的に当てるのは簡単なんだよな。俺の意志関係無く狙ってくれるし。


「今度はこっちから行きますよ」


素の身体能力の脚力を全力で使って走り出す。

思っていた通りの速度だったのか、シーリアさんは嬉しそうに笑う。


後数歩で槍の射程に入るというところで身体強化のアビリティを使って横に跳ぶ。


「ッ!!!」


横からだがシーリアさんの表情が驚いたものに変わったのが解る。


「魔弾」


二発の魔弾を無防備な状態のシーリアさんに放った。

良い牽制になったち思ったが、そもそもな話まったく無防備な状況では無かった。


俺が視界から消えても俺がどう動いたのかは分かったらしく、直ぐに冷静さを取り戻して左に振り返って槍を短く持ち、魔弾を二つとも弾き飛ばされてしまった。


反射速度も判断速度も速いな。


「走っている途中に身体強化のアビリティを使ったのか。中々器用な事をする。一歩間違えば盛大に転んで頭から地面に激突コースだというのに」


知ってて当然か。

俺は転んだ事は無いけど、転びそうになったことは何度もある。

走っている時でもタイミングをしっかりと考えて使えば転ぶ事は無いんだが、そこら辺を考えずに使ってしまったら急に強くなった脚力を制御できずに転ぶか、行きすぎてしまうかのどちらかの結末を迎える。


後者なら実戦でなければ問題は無い。

周囲が木々だったら木に激突する可能性はあるけど。


前者は実戦でなくとも最悪だろうな。

頭から血が噴き出す可能性もあるだろうし。


「なら、私も使わせて貰おうか」


えっ、ちょいちょい待てよ。

シーリアさん身体強化のアビリティを使うの?

ちょっとガチ過ぎないか?


カロウス兄さんの方を見ると止めるべきか続行するのか迷ってるって感じか。


摸擬戦をしても良いとは思ったが、あまり手札を見せても良いと思った訳じゃ無いからな・・・・・・次で終わらすか。

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