鬼に悪魔と言われたくない

「随分と足音が荒々しいな」


「いきなり攻撃されたのだから荒々しくなっているのは当然でしょう。ただ、重さがそこそこあるモンスターが来るようですね」


自分達に迫るモンスターの足音でどの程度の重量を持つモンスターか予測し、シュラがメリルの前に出て構える。


「ッ、レイジコングか!!! 中々の大物が釣れたな。メリル、もう少し下がってろ」


「分かりました。お気を付けて」


足裏を地面にめり込ますように踏みつけ、身体強化のアビリティを使う。更に闘気を身に纏って体の強度を上げる。


「シャッ、こい!!!!!!」


全力で突進しながらの全力パンチ。

総重量三百キロの拳が振り下ろされる。


その凶悪な鈍器をシュラは両手で受け止めた。


「ッ――ー―!!!!!!」


ただ無傷で止められた訳では無い。

脚は更に地面にめり込み、体は後方へ押される。

しかし全力で踏みとどまった甲斐もあり、シュラに外傷と内傷は殆ど無い。


「流石ブチ切れてる状態のレイジコングのパンチだ。無茶苦茶効いた」


効いたと言いながらも、シュラの骨には罅すら入っていない。

だが、少しの間腕が使えない。


そんなシュラのハンデを知らないレイジコングは自身の渾身の一撃を容易に止められた事に驚き、動きが止まってしまった。


「戦いの最中に動きを止めてしまうのは、愚の骨頂だって俺の主が良く言ってるぞ」


腕が痺れたところで関係無いとばかり前蹴りを腹にめり込ます。

腹筋に力が入っていないかったレイジコングの体はクの字に曲がり、後方へ吹っ飛ぶ。


「やっば」


後方は先程自分が城壁の応用による攻撃で壊した事を思い出し、完全に吹き飛ぶ前に走って追いつく。

そして吹き飛び続けるレイジコングを今度は背中から回し蹴りの容量で地面に蹴りつける。


「ゴガッ!!!???」


「うん? そこまで効いたのか。最初の蹴りで露骨が何本か折れた気がしたが今回ので背骨もいったのか?」


「吐血の理由はそれかもしれませんが、苦しんでる理由は少し違うでしょう」


前から歩いて進むメリルの指先から五本の柴糸が伸び、シュラの城壁を使った遠距離で怪我を負っていた左肩の部分に抉り入っている。


「即効性のある毒です。まぁ、レイジコングにどれ程効くかは分りませんが」


「元々動け無さそうだった腕を完全に使えなくするとは・・・・・・お前悪魔か」


「鬼に言われたくありません。あなたの城壁を使った遠距離攻撃と前蹴りに回し蹴り。その三つの方がよっぽどダメージが大きいでしょう」


シュラから自身の行動を悪魔と言われるのは心外だが、それでもラガスを守れるならそういったイメージを持たれるメイドも有りかとメリルは考えた。


「それもそうか。けど、まだ動けそうだ、なッ!!!!」


まだ動かす事が出来る右腕を使って現状を打破しようとしたレイジコングだが、それよりも先にシュラの下段突きが炸裂し、右手に大きな穴が空く。


「これで、腕はもう使えないだろう」


「足はまだ健在ですが、風穴を空けられた痛みと毒の痛みで動く事は出来ないでしょう。幾らランク三のモンスターであっても、動けなければ殺りやすいですね」


懐から取り出した短剣に魔力を纏わせて額を狙って投げる。

短剣はレイジコングの頭部を貫いて地面に突き刺さった。


「相変わらずお前の纏う魔力は鋭いな。ラガスもそこを凄く褒めてたよな」


「私としてはまだまだラガス坊ちゃまに及ばないのであまり慢心する程の事では無いと思っています」


「何言ってんだよ。ラガスが褒める時点で同年代でそこまで出来る奴は殆ど出来ないって事だろ。慢心はしない方が良いだろうけど、誇って良い事だと俺は思うぞ」


「・・・・・・それもそうですね。とりあえず、この死体はどうしますか?」


「多分アイテムポーチに入るだろうから、解体は後回しにしてもう少し散策しようぜ」


「そうですね。次に戦うモンスターは私がメインで戦います」


遠距離や嵌め手が得意になったからといって接近戦を疎かにしていい訳では無い。

そう思ったメリルは今度の相手は自分がメインで戦う事をシュラに告げる。

シュラはそれに了承し、晩御飯の時間まで二人はもう少しモンスターと戦い続けた。

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